SPECIAL
UP
沼澤尚が“TOTOのジェフ・ポーカロ”を徹底解剖|厳選8曲でたどるバンド・ドラマーとしての凄さ【イベント・レポート】
- Text:Seiji Murata/Photo:Akito Takegawa
沼澤 尚をナビゲーターに迎え、レジェンド・ドラマーの名演/名曲を実演と共に解説するイベント「the Greatest Playlist」。その第4弾「feat. ジェフ・ポーカロ #2」が、ジェフの命日にあたる8月5日に御茶ノ水RITTOR BASEで開催された。4月の“セッション・ワーク編”に続き、今回のテーマは“TOTO”。沼澤がセレクトした8曲と貴重なエピソードから、ジェフのドラミングを紐解いた超濃密な2時間をレポートする。なお、実演を交えた解説は、有料会員限定公開のダイジェスト映像で後日確認することができる(サブスク登録:こちら)
8月5日は、1992年に亡くなったジェフ・ポーカロの命日。今年のこの日も、永遠のGreatestドラマーに想いを馳せるべく、PIT留学当初からジェフが亡くなるまで親交を深めた沼澤さんがナビゲートする“the Greatest Playlist feat.ジェフ・ポーカロ”の#2が開催された。

4月5日に行われた前回#1の“セッション・ワーク編”で告知した通り、今回のテーマは“TOTO”。枚挙に暇がないセッション・ワークからのセレクトでも相当腐心したことがうかがえたが、2回目となる今回も、楽曲の幅もかなり広く、ドラム・プレイにフォーカスするだけでも名曲ぞろいのTOTOで8曲をセレクトするのは、かなりのタフワークだったのではないだろうか。それだけに、今回ピックアップされた8曲は、沼澤さんの中で“付属ストーリー”があるものに限定されて、リリースされた年代順に並べられた。各曲に話しておきたいストーリーがあるということは……一刻も早く始めなくては時間が足りない! そんな2時間たっぷりのイベントを、順を追って余すところなくレポートしていこう。
ジェフへの憧れから始まった
沼澤 尚のドラマー人生
沼澤さんは、ガッド、ポーカロ、ギャドソンと、すでにこの“the Greatest Playlist”のナビゲートは4回目ということもあり、登場からリラックス・モード。今回も解説用にドラム・セットが用意されていたが、「今日は置いてあるだけだから」と冗談交じりでスタートするも、司会者から「今日はもりもりの内容」だということが伝えられると、すぐに沼澤さんが二の句を継いで「今日はすごいのがありますよ。世界中の誰にも聴かせたことがない音源を、今日ここに集まってくださった方のために持ってきました」と、開始1分で突然本イベントのハイライトが明かされる。どうやら、ネット空間にアーカイヴとして置いておくことができない超プライベート音源で、沼澤さんも「ここで流したら終了」だと言う。そんな“キワドイ”音源とはいったい何なのか?……想像を超える“期待”の二文字が、一気に会場に充満したはずだ。実は会場では、この時点でその貴重音源の正体が明かされたが、本稿を読んでいるみなさんは後でのお楽しみに。

まずは本編が始まる前に、先ほど「今日は叩かないよ」と冗談めかしたPearlのキットについての解説からスタート。このセットは、沼澤さんが1984年に初めて手に入れ、今も現役バリバリで使用しているバーチ・シェルで、まだドラムを始めてもいなかった沼澤青年が、82年にリリースされた『TOTO IV』の来日公演を日本武道館に観に行き、ジェフがPearlのドラムを使っていると知ってからは、実際にドラムを買うなら、とにかくジェフが使っていたメーカーのドラム!という選択肢しかなかったという。それだけに、このドラムの材がバーチだということも、ジェフがパールで普及させたのはメイプル(MX)だったことも、後に知ったのだそう。
それほどまでに入れ揚げたジェフ・ポーカロを沼澤さんが初めて知ったのは、スティーリー・ダン『うそつきケイティ(Katy Lied)』(75年)がきっかけ。このアルバムではハル・ブレイン参加の1曲を除いてすべて、当時19〜20歳のジェフがレコーディングしており、そこからさまざまなアルバムで名前を見るようになったところで、それぞれ名前が知られるようになった若きスタジオ・ミュージシャンが集まってTOTOという“バンド”をやるということで大きな関心を持ったという。その“バンド”が『IV』でグラミー賞を獲るまでの大成功を収め、世界で最も売れたアルバムであるマイケル・ジャクソン『THRILLER』にまで参加しているという点は、数あるスタジオ・ミュージシャンによるバンドでも類を見ない特異性があると語る。
“聴いて、真似する”ーー
ジェフを形作ったグルーヴの源流

ここでようやく本編がスタート! まず1曲目は、1st『TOTO』(78)から「Hold The Line」。この成功がTOTOを一躍有名にしたデビュー・シングルだ。
前回も沼澤さんが解説してくれたように、ジェフは「90%は、先人が残してくれたレコードに合わせて演奏することで体得する。とにかくレコードと一緒に演奏して“聴いて真似する”」という矜恃のもと、どんなグルーヴ/フィールも“あの曲のあの感じ”を再現していた、ということを押さえておきたい。この12/8拍子のグルーヴについては、ジェフ本人が「スライ&ザ・ファミリー・ストーン「Hot Fun In The Summertime」の(グレッグ・エリコの)グルーヴをやっているんだ」と言って、「Hot Fun〜」では、“ドドッ、タッ、ドドッ、タッ”というキックのパターンが全編を通して繰り返されており、ジェフがそのグルーヴをどれだけ忠実にコピーしようとしていたかがわかると、沼澤さんは実演を交えながら解説。一方、「Hold The Line」では、メインとなるサビの基本パターンは4つ打ちのキック。それが少しずつシンコペーションしていったり、セクションごとにキックのバリエーションを変えたりと、元となるグルーヴを踏襲しながらも、楽曲に応じて自然と“自分のフィルター”を通していることがわかる。
続く2曲目は、デヴィッド・ペイチ作の「Miss Sun」というマニアックな選曲で、TOTOデビュー当時のジェフのデモ音源を使って、ジェフ逝去後の98年に、20周年を記念した未発表曲集『TOTO XX 1977-1997』にオーバーダビングで完成させ収録したもの。ちなみに、当時すでに『シルク・ディグリーズ』などでバッキングを務め信頼関係にあったボズ・スキャッグスが、TOTOメンバーを従えてレコーディングした自身のバージョンを80年のベスト盤『Hits!』に収録している。
沼澤さん曰く、「この曲はペイチが“アル・グリーン”をやりたかった(シャウトまで寄せて歌っている)」。そんな“メンフィス・ソウル”をジェフも踏襲し、ベースがシンコペしても、あくまで4分のキックと2&4拍のバック・ビートで“メンフィス”なフィールを醸し出すが、やはりそれだけでないのがジェフで、ハイハットが“チッチッチッチキ”と4拍ウラに色がつき、バック・ビートのスネアも2打(しかも2打目はディレイ的弱音に)と、変化させているのがポイントだ。
3曲目は、ビッグ・ヒットを記録した79年『Hydra』収録の「99」。メインのビートで、3拍目の16分音符3つめ(ベースのプリングのタイミング)にカウベルが入るのだが、ジェフはダビングではなく、ハイハットにカウベルをつけてリアルタイムで演奏しているので、それを思い浮かべながら聴いてほしいとのこと。
「このとき、ジェフとペイチが24〜5歳、ルカサーは21歳」だという……「99」のこの曲想、このアレンジ、この演奏をこの年齢で!?と、あらためて驚かされるが、それを可能にしているのも、先人が残した音楽・演奏をどれだけ聴いてきて、どれだけ真似をしてきたか、その積み重ねであり、それをこそ再現するのだというジェフの“あの矜恃”にすべてが集約されていると感じた。
続いて4曲目は、81年『TURN BACK』収録の「Live For Today」をチョイス。当時のスタジオ・ライヴで、この曲と「Goodbye Elenore」を演奏するシーンがアルバム・リリース時のPVになっていて、ジェフがフィルのときにタムのリムまで一緒に叩いているのがわかったり、メイキング映像でお互いに反応して即興演奏をしていたり、彼らが当時いろんなことにトライしていたことが強く印象に残っているという。
もう1つ、強く記憶に残っていると語るのが“楽器”だ。当時のインタビューでジェフがヴィンテージドラムを使うことの良さを語っていて、スリンガーランドのラジオキングでレコーディングしたという記事を読み、当時の沼澤さんの中に“ラジオキング”という名前が頭に残ったという。それが、後々Pearlで開発に関わり、今も現役で歴代モデルを使用し続けている単板メイプル・スネアの名器“カスタム・クラシック”へとつながったことは、ファンの方なら周知の事実だろう。そして後年、このアルバムのアナログ・レコーディングでの生々しい楽器の録り音の良さに驚いたことも、この曲、このアルバムが強く印象に残る理由になっているようだ。
そして次に選んだのは、グラミー獲得の82年『TOTO IV』から「Waiting For Your Love」。2曲目の「Miss Sun」と同じビートなのだが、スウィングしているか否かの違いで、曲の感じがここまで変わると実演。このグルーヴは、教則ビデオの中では“ジャズ・シャッフル”と言っていて、ジョー・ポーカロも、PITで「ジェフがよくやるように、右手がスウィングしている中に2&4拍のバック・ビートを入れるとこうなるんだ」と教えてくれたという。
同様のグルーヴは、『THE SEVENTH ONE』(88年)のオープニング「Pamela」でも聴けるが、もう1つ重要なポイントとして、こういったグルーヴの中で、2&4拍のスネアが他の誰よりも“後”に鳴ることによって、他の全員が疾走感があるように感じさせることにつながっていることを挙げてくれた。
43年の時を超えて蘇った
ジェフの“生音”

5曲までトントン拍子に進行し、半分を越えて何とオンタイムで後半戦を迎えたのだが、沼澤さんにとって、『IV』の82年から次作『Isolation』の84年の間が、アメリカPIT留学、そしてジェフとの出会いという“人生の一大転機”というタイミング……例の“キワドイ音源”もこの間の出来事ということもあり、ここからさらに熱を帯び内容も濃密になっていく。
しかも、アナログ・レコーディングだった『IV』に対し、『Isolation』からはデジタル機材が導入され、音楽レコーディング業界そのものも大転換、TOTO自体もメイン・ヴォーカリストとベーシストの交代という大激震の時代。そのサウンド的な移行の1つのわかりやすい例として選ばれたのが、『Isolation』収録の「Lion」だ。その象徴的なサウンドはスネアだ。“ノイズゲート”などデジタル機材の導入やマイキングの工夫により、アタック以外の倍音や共鳴を拾わずに、できるだけ“クリーン”な音を録ることが可能となり、さらに、そのクリーンなアタック音にデジタルのリヴァーブをかけた“最新のど迫力サウンド”が「Lion」で聴けるという……のだが、何と沼澤さんは「その“生音”は、実はこうだったよ」の音源を、この日のために2種類持ってきたというのだ。
事のあらましをざっと説明しよう。沼澤さんがPITに入学して間もなく、『IV』でグラミーを獲った直後に次作のレコーディングをしているTOTOがクリニックにやって来て、2時間に渡ってジェフが上述の“デジタル・レコーディング”やマイキングについて詳細に解説しながら、今取りかかっているという新曲を目の前で演奏してくれた。その一部始終を、22歳の沼澤青年は、ジェフのPearlキット+SABIANシンバルの目の前という特等席から、ラジカセで録音していた……当然だが、どこにも公開されることのないプライヴェート音源だ。
そんな超絶貴重な音源から、まずは「Mr.Friendly」として収録される曲のデモ演奏部分が大音量で流れると、3連打のキックでグイグイと引っ張っていくグルーヴが、43年前とは思えないリアルさで突然目の前に現れた……もうトリハダが止まらない。かなりハイ・ピッチのスネアは、この曲ではラディックのクローム(ブラックビューティー、もしくは400か)に交換しており、このスネアで、上述のアタックにフォーカスしたマイキングの解説をしていたそうだ。そして、このときジェフが「曲によって使う楽器を換えてその雰囲気に持っていくんだ」と言っていたことが、現在、沼澤さんが曲ごとに楽器を交換する原点になっているという。
続いて、『Isolation』には入らなかったが、当時、大枠だけは完成しているという曲のデモ演奏部分が流された! 実はこの曲、2018年のベスト盤『40Trips Around The Sun -Greatest Hits-』に、「Spanish Sea」として当時のジェフのテイクを元にダビングで完成させたバージョンが収録されたのだが、沼澤さんは、未発表のこの曲を聴いて、“43年前にPITで演奏を聴いてコード進行が耳からずっと放れなかったあの曲だ!”とわかったらしい。世界中のどこにもない、TOTOがアレンジ中だという曲のデモ演とは……何と貴重な!
しかも、輪をかけて貴重なのが、ジェフが開発に携わり、自身のドラム・サウンドがサンプルされているリンドラムを、その場で手打ちしてリズム・パターンをプログラムし、それをギター・アンプで鳴らしながら、リアルタイムで、シモンズSDS-Iまで取り入れてこの曲のグルーヴを叩く、その一部始終が収録されているのだ! 18年版よりやや落ち着いたテンポで、楕円を描いて転がり続けるようなジェフのグルーヴには永遠に乗っていられる……。プライヴェート録音ゆえ、この日この会場に集まった数十名の方だけに公開……こういうことが起きるから、このイベント、今後も見逃せない。
“Untouchable”――
ジェフが残したグルーヴを聴き続ける

さぁ、43年前の奇跡の音源で時間をたっぷり使ったあとは、急ぎ足で2曲を紹介。まずは、86年『FAHRENHEIT』からスティーヴ・ポーカロ作/ヴォーカルの名バラード「Lea」。「ジェフのプレイも含めて大好きなバラード。この人がマイケルの「Human Nature」(83年シングル/『THRILLER』所収)を書いたんだなってことがよくわかる名曲」だと語る。基本グルーウは、ジム・ケルトナーやスティーヴ・ジョーダンなど、さまざまなドラマー/パーカッショニストがダビングしたものとジェフのプレイを合わせたものだが、沼澤さんも静かに試聴していたものの、自然と身体が動き出し、たまらず立ち上がってドラムに座ってこのグルーヴを叩き出した。ああ、その気持ち、わかる!という瞬間だった。筆者的には、その実演で、スネアのクローズド・リム・ショットが2打だったことを初めて知った。
そしてラストは、待ってましたのジェフのハーフタイム・シャッフル曲。沼澤さんは『THE SEVENTH ONE』から「These Chains」をチョイス。沼澤さんから直接、ジェフのハーフタイム・シャッフルについて詳しく解説が聞けるのは、確実に本イベントのハイライトの1つだろう。
「詳しいことはジェフが全部教則ビデオで言っている」と前置きしつつも、1点、ライヴで見て驚いた“ジェフの癖”について語ってくれた。それは手順だ。「ロザーナ」でも、どアタマのフィル、“タカトジャーン”(スネア2発→タム→クラッシュ)があるが、普通なら、“RL→R→R”と叩くところを、ジェフは“LL→R→R”とやっていた。その前の4拍目に1発スネアが入る場合も左手で、Lからの→LL→R→Rとなるという。前回、「When Love Comes Calling」の解説で、スネア×2→タムのフィルを、“RL→R”ではなく“LL→R”の手順で叩くと紹介してくれたように、ハーフタイム・シャッフルに限らず、“右手のハイハットのビートを途切れさせない”というジェフの癖、つまりドラマーとしての“在り方”なのだと、沼澤さんは語っていた。一方で、シャッフル内での、スティーヴ・ガッド的なリバース・ラタマキュー6連符フレーズは右手からスタートしていることがわかるという。
そして「みんな知ってる通り」とことわりつつ、ジェフのハーフタイム・シャッフルがレッド・ツェッペリン「Fool In The Rain」のジョン・ボーナム、スティーリー・ダン「Home at Last」のバーナード・パーディを真似しているだけだ、というジェフ本人の言葉を紹介し、「Fool〜」を実演し始めると、タオルでがっつりミュートされた通常仕様のスネアで叩き出したものの、「これ(ジョン・ボーナムのプレイ)は、こういう音じゃなきゃダメだね」と、ミュートをすべて外して倍音タップリのスネアで聴かせてくれたのも、沼澤さんならではのシーンだと感じた。つまり、これはハーフタイム・シャッフルという“パターン”なのではなく、このフレーズ自体が、“音色”や“フィーリング”(など、“見ようとする人にとっては見える情報”)と渾然一体となった“個性”であり、ジェフは、その“全体”をこそコピーして真似るべきだと強調していたのではないかと直観した。イベントの最後の最後に、沼澤さんがスネアのミュートを外したこんな無意識の動作で、時空を超えてジェフのフィロソフィーと交信したかのような気分になった。
実に内容の詰まったトークもここでタイムアップ。最後に、恒例となったプレイリストの命名式では「今までも、これからも、近づくことすらできないという意味で、“Untouchable”。もう二度と生演奏を聴くことができないので、とにかくジェフが残してくれた音源を聴きましょう!」と大団円……となるかと思いきや、ここでまた走馬灯が巡り始めたのか、ジェフとはTOTOのヴォーカリストが変わるたびにそのタイミングで直接会うことが多く、一緒にピザを食べながらジェフの熱い想いをウンウンと頷きながら聞いた、という想い出話が開陳され、この日一番の笑いが起きてイベントの幕が降りた。