SPECIAL
UP
【有料会員限定】イベント追体験|沼澤 尚が語る”師匠”ジェームス・ギャドソン/全曲解説+実演つき本編映像
- Photo & Movie:Akito Takegawa
6月21日に開催され、大きな反響を呼んだ「沼澤 尚 the Greatest Playlist feat. ジェームス・ギャドソン」。本記事では、イベントで沼澤がセレクトした8曲のプレイリストを軸に、ギャドソンとの出会いや交流、本人から直接教わったドラミング哲学、そして名演に隠されたグルーヴの秘密をダイジェスト動画と共にお届けする。愛弟子だからこそ知る実体験と、実演を交えながら解説された濃密な内容を振り返りつつ、“King of Groove”の真髄に迫る。
イベントを追体験できる
20分超えのダイジェスト動画
Introduction
ギャドソンとのやり取りの中で
「こうだったんです」と話せる8曲
今日選んだ曲は、僕がまだ20代の頃にギャドソンと出会って、その後いろいろ教えてもらったことや、「こういうことがあったんです」と実際に話ができる曲を選びました。当時、僕はボビー・ウーマックのツアーをやり始めた頃で、ギャドソンはその前のアルバムからずっと参加していて、ちょうどプロデュースを手がけた直後だったんです。
知り合ってすぐに電話番号を交換したんですが、自分から電話なんてかけられるわけないじゃないですか(笑)。ところが、向こうからしょっちゅう電話がかかってくるんですよ。「何してるんだ? 家にいるなら来いよ」って。本当に「一緒に練習しよう」とよく誘ってくれる人でしたね。それでギャドソンのスタジオへ行くと、ドラム・セットが2台並べてあって、「行け、行け!」ってすぐ叩かされるんですよ(笑)。そうやって一緒に演奏しながら、本当にいろいろなことを教えてもらいました。
ギャドソンの代表曲を挙げ始めたら、それこそ500曲くらいになっちゃいます(笑)。だから今回は、「この曲が代表曲です」というよりも、自分がギャドソンとのやり取りの中で「こうだったんです」と話せる曲を選んできました。ドラム的な視点も交えながら紹介していこうと思います。
Playlist ①:V.A.「Mama I Want to Sing」
驚愕のスタジオ体験と
クラッシュに頼らない鉄壁のビート
「Mama I Want to Sing」は、僕がギャドソン本人に初めて会えた日にレコーディングしていた曲なので、プレイリストの1曲目はやはりこの曲から。知り合いのスタイリストに「ギャドソンがレコーディングしてるから一緒に来ない?」と誘われてスタジオへ着いたら、まさにこの曲を録っている佳境で、スタジオで起きている出来事すべてが驚愕の一言でした。
ベースにRufusのボビー・ワトソン、ギターがデヴィッド・T.ウォーカー、鍵盤がレス・マッキャンというすごいメンバーがいて、そこに日本からギターの山岸潤史さんもゲストで参加していました。ゴスペル・シンガー達が歌を入れる前に、もちろんクリックなど使わず、まずバンドだけでこのトラックを録音してる真っ最中……。僕がスタジオへ入ったタイミングが、ちょうど最後のアウトロに突入したところで、バンドのテンションも何もかもが最高潮に加速していくところだったんですが、とにかくスタジオ内で響いてるサウンドと勢いがものすごくて「うわっ、すごい音してる。これはどれだけ盛り上がってるんだろう?」と思ってガラス越しにブースを見たら、驚くことに全員リラックスして椅子に座ったまま、お茶でも飲んでるくらいの様子で淡々と演奏してた。その怒涛のサウンドとルックスとのギャップがとにかく衝撃的でした。
この曲はどアタマから基本がファンキーなビートで、セクションごとにテンポが変わっていく中で、毎回来る静かなサビになるとスネアがクローズド・リム・ショット&右手のハイハットが片手16分音符に切り替わる。それもこのテンポで。その各セクションの切り替わりでフィルを入れても入れなくても、クラッシュ・シンバルを一切使わない。いつでも必ずビートへ瞬間的に戻っていくんです。今日選んできたギャドソン参加の曲は、クラッシュシンバルがほとんどない曲ばかりです。
あれだけ盛り上がった演奏なのに、スタジオ内のギャドソンは完全に力が抜けていて、ものすごくリラックスして淡々と演奏している。その姿を見て「こんな感じなのにサウンドはこんなテンションになるんだ」とびっくりしたのを今でも鮮明に覚えていて、このシーンは本当に忘れられない光景でした。
Playlist ②:Charles Wright And
The Watts 103rd Street Rhythm Band「Loveland」
リード・ヴォーカルとドラムの
同時演奏が生む、非現実的な名演
「Loveland」は、ギャドソンがリード・ヴォーカルをやりながらドラムを演奏している曲です。ギャドソンはもともとシンガーで、レコーディング・デビューはソロシンガーとしての方が先なんです。この曲はその両方を同時にやっていることで彼を一躍有名にした傑作です。彼の代表曲なので、この曲をギャドソンがライブで演奏しているのを何度も見てきましたけど……完全に非現実的です。
1曲目と同じように、各セクションの切り替えでクラッシュ・シンバルは一切ありません。この曲では基本になっているファンキーなハイハット片手16分音符のすごいグルーヴと、今度はサビではハイハットが一気に4分音符だけになるという、この2つのパターンを行き来しながら演奏しているんですが、これを歌いながらやっているのは本当に信じられない。フィルを入れても入れなくてもクラッシュ・シンバルは一切なし、ワインドアップなしで、必ずそのままビートへ戻っていく。今日かけるすべての曲がそうですが、ここがギャドソンのレコーディングでの大きな特徴の1つだと思います。
この曲が大ヒットした後に「Got To Find My Baby」という自身のシングル・レコードも出していて、曲そのものはまるで同じで歌詞だけを変えているんですが、こちらはギャドソンが全面プロデュースしているので、興味があったらぜひ聴いてみてください。
関連作品
Playlist ③:Marvin Gaye
「Come Live With Me Angel」
拍子を惑わせるトリッキーな導入と
左利きが生み出す独自のニュアンス
「Come Live With Me Angel」は、マーヴィン・ゲイの『I Want You』に収録されている曲。僕が高校生の頃、このアルバムが発売された直後に新譜で買ってから、今でも間違いなくバイブルと言える作品で、ジェームズ・ギャドソンの名前を初めて知ったアルバムです。
モータウン・レコードがデトロイトからロサンゼルスに引っ越してさらに数年経ってから、ようやくミュージシャン・クレジットがアルバムに載るようになって、もちろん自分がまだ楽器そのものに興味を示す気持ちもない時代に、とにかくドラムに耳が行って「この人はジェームズ・ギャドソン」と解ってからは、それからこの名前を探していろいろなレコードを買ってました。
この曲を選んだ理由の1つが、まずはバンド全員をリードするための、イントロが始まる導入のフィルです。アタマがどこなのか全然わからなくて……「へーっ、7/8拍子?」かと思っていたら、もちろんそうではなくて……カウントがないと1音目に聴こえていたスネアのスタートが、実はアタマから始まっていたわけではなかった。どこから始まっているのかがわらないことでトリッキーに聴こえる、聴こえさせている、というレコーディング作品ならではの妙技なんですが、これもギャドソンの特徴の1つです。スティーヴ・ガッドもよくやりますが、同じフィルをどこからスタートさせるかだけでバリエーションを変化させる。
さらにギャドソンはリンゴ・スター、アール・パーマーなどと同じで左利きなので、フィルがほぼ左手から始まるために解明するのがすごく難しくなることが多いです。そしてこの曲でもフィルの後やセクションが切り替わる時に、もちろんクラッシュ・シンバルは一切なく、必ず1音目からビートがスタートする。
この曲について本人に聞いたときに「左手前にセッティングしていた16インチの薄いシンバルをライドとして使っていた」という話をしてくれましたが、「クラッシュ・シンバルはクラッシュするもの」、「ライド・シンバルはライドするもの」という発想は、ギャドソンをはじめ僕が好きなドラマー達にはまるでない発想で、つまりシンバルはもちろん、ドラム・セットのどんな場所でも必要と感じるその場所をライドとして使うということで、その話をギャドソンから聞いたときと、さらにメルヴィン・パーカーを観た時に、自分のシンバルに対する考え方は一気に変わりました。
そして何と言っても、楽曲全体で行き来する3つのドラム・パターンと、ハイハットのアクセントとオープン・ハイハットを変化させていくそれは細かい表現力……この曲ではもちろん、このアルバム『I WANT YOU』の全編を通して聴くことができます。
関連作品
Playlist ④:Bill Withers
「Lonely Town, Lonely Street」
スウィングとストレートの共存が生む
奇跡の「フィーリング」
「Lonely Town, Lonely Street」が収録されている『Still Bill』は、ギャドソン本人が「自分のプレイなら、このアルバム」と言っていた1枚。他にも『Live at Carnegie Hall』や『+’Justments』、あとは Dyke & The Blazers……「どれを聴けばいいですか?」と聞くと、いつも挙げていたのがこの同じリズム・セクションによるこれらのアルバムでした。
この曲でぜひ聴いてほしいのは、ビル・ウィザーズのアコースティック・ギターと、ギャドソンの右手のハイハットとの関係です。ハイハットはギターのカッティングにぴったりついていくようにスウィングしている。でも左手のスネアの装飾音符と右足のバスドラはスウィングしていなくて、そこははっきりストレートになっている。このアルバムに入っている「KISSING MY LOVE」もまさに同じです。
「スウィング率が何パーセント」なんていう話をする人が現代にはいますが……フレッド・ビロウやアール・パーマーをはじめ、ブルーズ/ジャズ/R&Bなどのシーンの、僕が大好きな偉大な先人達が築いてきたドラム・グルーヴの歴史ではもちろん語られてるはずもないですし、そもそも一切決まりとかありませんから。つまりスウィングとストレートが常に同時進行しながら完全に「フィーリング」として共存している。
ギャドソンの特徴の1つとして、手先でそのスウィング感を演奏するのではなく、ダウン・ビートになっているアタマの音(この曲ではハイハットの8分音符)が少し長い。さらにその強弱もつけながらスウィング感を確実に表現している。もちろんこの曲もクラッシュ・シンバルはなし。さらにフィルも1発もなくて、とにかくビル・ウィザーズのギターとギャドソンのハイハット、さらにキックやスネアの装飾音符がどう絡んでこの奇跡的なグルーヴが生まれているのか…本当にマジックです。
『Live at Carnegie Hall』にも収録されているライヴ・バージョンでは、このグルーヴがさらにまた変化していて、スタジオ盤ではハイハットだけがスウィングしていたのが、ここではバンド全体とギャドソンのバスドラ/スネアの装飾音符も全部一緒のスウィング感を出しています。この曲の『Still Bill』と『Live at Carnegie Hall』はぜひ聴き比べてみてください。
関連作品
Playlist ⑤:Charles Kynard「Grits」
キャロル・ケイとの最強コンビと
ダイナミクスを操る機関車グルーヴ
チャールズ・カイナードの「Grits」は、リズム・セクションがギャドソンとベースのキャロル・ケイ。この2人が全曲を一緒に演奏しているめずらしい作品です。
キャロル・ケイは1950年代からテレビ/映画音楽をはじめ、アメリカン・ポップ/ロックから何から何まで本当に数え切れない凄まじい数の、さまざまな有名なレコーディング参加しまくっていた、レッキング・クルーのスーパー女性ベーシストです。ウィキペディアでチェックするだけでも「これもこれもこれも全部この人が弾いてたの?」という作品が大量にあってビックリする歴史的なベーシストですが、ギャドソンとの組み合わせというだけでも聴く価値がある素晴らしい作品です。
全編シャッフルのこの曲も、クラッシュ・シンバルはもちろんほぼ出てきません。メロディからオルガン・ソロへ入るブレイクのドラム・フィル明けで1発だけ。その1発以外は一切なし。1音目から必ず両手でシャッフルが始まる。これはギャドソン本人から細かく教えてもらったことなんですが、ブレイクの後やフィルの後は、必ずきちんと明確にアタマから左手、または両手共にスタートする。シンバルをクラッシュした後も、左手からビートへ戻っていく。この入り方が特に大事だということを言ってました。
シャッフルが始まる瞬間に左手がどう入っているのか、クラッシュ・シンバルなしでグルーヴを生み出しているところ、そして何が起きようと機関車の如く、音量の上げ下げを一切せずに全編のダイナミックスをコントロールする。つまり盛り上げるために音量を上げたり手数を増やしたりなんていうことは一切せずに全体を表現しているところを、特に意識して聴いてみてください。
Playlist ⑥:Bill Withers
「I Don’t Want You on My Mind」
左手の装飾音符だけで世界を変える
3連系グルーヴの極意
「I Don’t Want You on My Mind」も、ビル・ウィザーズ『Still Bill』の収録曲です。3連系のグルーヴで左手をどう使うか、をギャドソンから細かく教わったことを思い出す1曲なので、シャッフルの「Grits」の次に選びました。
ギャドソンからは「12/8や6/8での右手の3連ハイハットとバック・ビートは変えずに、左手の装飾音符の変化だけでグルーヴを変えられるようになりなさい」とよく言われました。ハイハットはそのままで、左手の位置やアクセントを変えることでグルーヴを変化させる。この曲では、その装飾音符の細かな違いを聴き取ることができます。自分がこういうグルーヴを意識するようになったきっかけの1つでもあったので、シャッフル〜12/8、6/8のグルーヴとして選びました。
やっぱりこの曲でもクラッシュ・シンバルは1発も行きません。今日1日通してずっと話していることですが、フィルを入れても入れなくても、セクションの切り替えで「ドカーン」とクラッシュ・シンバルへは決して行かない。人類にはまるで不可能なことだらけのギャドソンの超人/超絶技巧ぶりは誰にも真似できませんが、自分なりにできるかもしれないと思ってトライしてるのがこういうところです。
フェイドアウト前の最後の30秒くらいではバスドラのパターンも少しだけ変化するので、そのあたりにも注目して聴いてみてください。
Playlist ⑦:Peaches & Herb
「Reunited」
「緩まないバラード」と
キック1音でストーリーを紡ぐ美学
「Reunited」は、Peaches & Herbの1978年の大ヒット曲。ギャドソンは本人も忘れてるくらい大量すぎるレコーディング作品がありますが、ありとあらゆる音楽ジャンルを網羅しつつ、マニアックでディープな作品も、もちろんたくさんやっていますし、こういう全米No.1ヒット曲にも多数参加しています。ビル・ウィザーズ『Still Bill』からの全米No.1ヒットは「LEAN ON ME」ですし、グロリア・ゲイナーの「I WILL SURVIVE」、シェリル・リンの「GOT TO BE REAL」、マーヴィン・ゲイの「I WANT YOU」なども全米No.1ヒット曲。
この曲はバラードなんですが、ギャドソンから教えてもらったのは「バラードで、ドラムが緩くならないように」ということでした。曲や演奏が静かになったとしても、ドラムそのものが「弱々しく」なってはいけない。音量は小さくてもビートそのものはしっかり表現してバンドをリードする。
ギャドソンのバラードの名演は本当に数多くありますが、特にこの曲での特徴は、全編通してバスドラの4分音符をしっかり感じさせながら演奏しています。バラードだからフワッとするんではなくて、心臓の鼓動のように一定のしっかりしたビート感がずっと流れている。バラードでももちろん身体が動く。
さらにこの曲のように、ギャドソンが楽曲を成り立たせるためにドラム・パターンを少しずつ変化させていく演奏で、僕がずっと参考にしていることがあって、それはほんの少しのことだけでドラムが曲の展開をストーリーづけていくこと。
Aメロの1番はシンプルに4拍目だけにしか来ないバスドラが、2番では2+4拍目に1音だけ増える。フィルはもちろん、それ以外は何も変わることなく淡々と進んでいく中で、キックを1音足すだけで曲を展開して進めていく。ギャドソンの次元にはもちろん到底近づけもしませんが、誰にも気がつかれないようなこういう発想は、レコーディングやライヴで常に自分でもトライしようとしてることの1つです。
この曲はスタジオに入って最初のテイクがそのまま作品になったとギャドソン本人も話してましたが、ファースト・テイクからこんなクオリティの演奏ができること自体が我々にはまるで不可能ですが、「なるほどそうやってるのか」と考え方や組み立て方は自分達でも学べると思って、この踊れるバラードを選びました。
関連作品
Playlist ⑧:Leon Haywood
「Don’t Push It Don’t Force It」
地球レベルで人々を踊らせた
理解不能・唯一無二のFour on the Floor
Leon Haywoodの「Don’t Push It Don’t Force It」は、当時僕が毎週末日の出まで通っていた時代のディスコでよく流れていた、ギャドソンならではの世界中を踊らせていたファンキーなトラックです。
世界最高峰のギャドソンの4つ打ち。英語では「Four on the Floor」と呼ばれる、ごくシンプルに4分音符だけを何があろうとミニマルに続けるキックのパターンで、まぁ誰でもできそうに聴こえはしますが……これだけをそのサウンドとタイミングでとんでもないグルーヴにしてしまう、歴史を築いた偉人ジェームズ・ギャドソンだけが成せる超人的なサウンドです。
ここでももちろんクラッシュ・シンバルはありません。セクションの切り替えにフィルが入ったとしても「ドカーン」とクラッシュ・シンバルは行かず、また1音目からそのままグルーヴへ戻っていく。今日ずっと話してきたこのギャドソンならではの妙技が、この曲でも明確に出ています。
さらにこのトラックでの特徴は、盛り上がるところがオープン・ハイハットになるのではなくて、全編を通して基本はクローズド・ハットだけど、Aメロの部分だけハイハットがオープンになって、そのハイハットの変化だけでグルーヴを変えていることです。オープン・ハイハットなんですが、左手も使わないと不可能と思える16分音符が入っているように聴こえる独特のニュアンスで、これを右手だけでどうやってるのか、いまだにまったく理解不能です。
このトラックももちろんクリックやメトロノームなどタイムのガイドになる何かを一切使わずに録音されています。やはりフィルを入れても入れなくても、クラッシュ・シンバルへは決して行かずに、ビートが途切れる瞬間がまったくない。超人的で強力極まりない、でも極々自然でスムーズなダンス・グルーヴを生み出している。
当時の世界的な流行りもあって、特に70年代後半〜80年代前半のギャドソンのこの驚異的な4つ打ち、または1+3のバスドラは地球レベルで人々を踊らせていました。バラードであろうと何であろうと、どんなテンポのどんなジャンルの音楽であろうと、ものすごくシンプルなパターンでありながら人類には表現不可能な「サウンド&グルーヴ」を生み出し続けたギャドソンの凄さがよくわかると思います。