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    沼澤尚が語るジェフ・ポーカロのVibes|厳選8曲でたどるグルーヴの本質【イベント・レポート】

    • Text:Seiji Murata/Photo:Akito Takegawa

    沼澤 尚が選んだジェフ・ポーカロの名演・名盤8選

    Title:『Way too Young』

    #1. Steely Dan「NIGHT BY NIGHT」
    #2. Jaye P. Morgan 「LET’S GET TOGETHER」
    #3. Diana Ross「BABY IT’S ME」
    #4. Deniece Williams「WHEN LOVE COMES CALLING」
    #5. Al Jarreau「BREAKIN’ AWAY」
    #6. Michael Jackson「THE GIRL IS MINE」
    #7. Michael McDonald「NO SUCH LUCK」
    #8. Syreeta「FREDDIE UM READY」

    ※ #8は、Spotifyでの配信がないため、プレイリストには含まれていません。

    沼澤の膨大な知見と、
    ポーカロ本人から聞いた実話
    実演解説も加わった濃密な2時間

    1月に、スティーヴ・ガッドの参加楽曲について沼澤 尚さんが語り尽くしたイベント「the Greatest Gadd Playlist」の大好評を受け、早くも沼澤さんにとっての“本丸”とも言えるジェフ・ポーカロを語り尽くすイベント、「沼澤 尚 the Greatest Playlist feat. ジェフ・ポーカロ#1」が、去る4月5日に御茶ノ水Rittor Baseにて開催された。これまでも沼澤さんには、『ドラム・マガジン』本誌やドラマガWeb内のトーク・セッションなど、いろんな場面でジェフについて語ってもらってきたが、今回はテーマを“セッション・ワーク”に絞り、その膨大な参加曲の中から厳選8曲についてリスニング&トークを展開するという、またとないチャンスが到来した。

    当日は、時間がまったく足りなくなったという前回の反省から、数秒でも惜しいと、さっそく準備万端でトーク・スタート……となるはずが、この数日前の4月2日、沼澤さんにとっても非常に大きな存在であるジェームス・ギャドソンが天に召されてしまったことが司会者から告げられると、「彼はそもそもシンガーで……」から始まり、呼吸することを忘れるくらいの勢いで約10分、ギャドソンを偲んだ。そのあまりに興味深いエピソードに、観客の中には、この日がジェフを語る回だということを一瞬忘れた方もいたかもしれないが、「ジェフが片手16の話をするときには、必ずギャドソンの話をする」という見事な着地から本編が無事スタート。

    今回、沼澤さんがジェフのセッション・ワークを8曲に厳選するというアナウンスに興味津々となったのは、筆者だけではないだろう。その成果が、別掲のプレイリスト。ジェフの出自から初期レコーディング、そして、名を上げ、そこから広がる人脈をも解説することを想定しつつ、後に彼の“シグネチャー”と言われることとなったビートを、すでに20代に確立していた、そんなさまざまなプレイが、熟考を重ねて厳選されていた。具体的なドラム・プレイで大きく分けると下記の3点。

    ①片手16
    ②12/8拍子 
    ③ハーフタイム・シャッフル


    この3点をメインに本編の進行は、1曲ごとのリスニングの後に楽曲関連トーク、そして必要があれば、その都度実演という構成で、この濃すぎる2時間は、本当に“あっ”という間だった。

    もちろん、沼澤さんがリスナー少年の頃から体験、収集してきた各曲・アルバムについてのミュージシャン、プロデューサーといった人脈の膨大な情報に触れることができる貴重な機会なわけだが、そこにちょくちょく挟まれる、ジェフ本人から聞いたという“実話”は、こんなトーク・イベントでなければ絶対に聞くことはできない。例えば1曲目の「Night by Night」。ジェフが二十歳そこそこでスティーリー・ダンのアルバムに参加することになる、高校生の頃からの経緯と人脈の話も非常に興味深いが、アルバムへの参加は1曲のみで、その他は、ジェフがグルーヴからセッティング、ファッションまで憧れたジム・ゴードンが参加していて、ジェフが「この1枚にすべてのグルーヴが入っているから、これを聴け」と言ったという話は、ジェフの“ファミリーツリー”を辿る上で欠かせない情報だ。

    そこに、沼澤さんの“実演”までもが加わる。それも、“ここではジェフはこう演ってる”だけでなく、例えば、ジェイ・P.モーガン「Let’s Get Together」(76年)での、ジェフ+デヴィッド・ハンゲイトの“白人”リズム体(プラス、ギターにレイ・パーカーJr.を加えたリズム・セクション・チーム)のビートが、ダイアナ・ロス「Baby It’s Me」(77年)では、まったく同じビートで、テンポがやや落ちてスウィングするブラック・ミュージックのフィーリングまで表現できてしまう、という“フィール”表現の違いをもわかりやすく実演解説してくれた。

    ジェフでさえ言語化しなかった“バイブス”を
    トランスレートできる沼澤の高い言語化能力

    当然だが、こういうリスニング・イベントは、ナビゲーターが誰かによって内容が変わる。なぜなら、ナビゲーターごとに、テーマとなる人(今回ならジェフ)のどこがすごいと思っているか”が違うからだ。沼澤さんは、ジェフの存在を認識した10代の頃から、まさに上の「さまざまなフィールを自由に表現できてしまう」部分にすごさを感じていたし、そのすごさは、“テクニック”に還元され得ないということを、実際にジェフ本人と交わした印象深い会話や、実際に足を運んだライヴ体験などから紹介してくれた。要約すると、例えば――

    ○ジェフ本人と話してもわかるが、こういうふうにハネるときにはこういうテクニックを使うとか、ここを意識する、なんてことはまったく考えてない。本人は「それはバイブスなんだ」と言っていた。
    ○どんなフィールも、“あの曲のあの感じ”ということで演っていた。
    ○90パーセントは、先人が残してくれたレコードに合わせて演奏することで体得する。とにかくレコードと一緒に演奏して、“聴いて真似する”ということを、ジェフは主張していた。
    ○とにかくジェフは生音が良かった。好きなドラマーがいたら、YouTubeで観るのももちろん良いが、絶対に生音を聴きに行くことをお勧めする。

    ――こういった“金言”が、次々と飛び出してくる。

    あらゆるプレイング・テクニックがミクロな視点で解析、データ化、見える化されるようになってすいぶん経つが、今回紹介された50年前の楽曲たちは、演奏した張本人でさえ(どう手足を動かすかは)“バイブスのみが知っている”というような、現代のプレイヤーにとっては曖昧にも感じられるものが、むしろ、演奏の“肝”なのだ――上記の話はそういうことだと筆者は理解している。

    そして沼澤さんは、本誌を筆頭にテクニックの言語化・映像化が盛んになった時代に日本に凱旋帰国したときからずっと、その大事さを、ジェフをはじめとした先人ドラマー達とその音楽を通して、我々に伝え続けてくれている。それは、ジェフでさえ言語化しなかったその“バイブス”をトランスレートできる沼澤さん自身の高い言語化能力があってこそ成り立つこと。

    例えば今回の実演で、「When Love Comes Calling」冒頭(0’09”~)の3拍目でブレイクした後のスネア→タムのフィルを、曲の流れの中でバックビートと同じ音量でいくためには、“RLR”(SD→SD→TT)といくところを、ジェフは“LLR”の手順で叩くことで、右手のハイハットがグルーヴし続けることにつながっている、という話などは、バイブスの秘密を、いわゆるテクニック的な視点で補完してくれるからこそ、こちらの納得感を、逆説的に“テクニック”の次元から引き離してくれる(この解説はぜひダイジェスト映像で確認を!)。そういう意味でこのイベントは、ドラマーや他パートのプレイヤーはもちろんだが、プレイヤーでなくとも、ドラムが楽曲の中でいかにワークしているかを知る絶好の機会にもなったのではないだろうか。

    今回は「この曲のときジェフは何歳?」という裏テーマが通底していて、プレイリストは参加年順に作られており、解説が進むごとにジェフの年齢も上がっていくのだが、ラストのSyreeta「Freddie Um Ready」(83年)でもジェフは29歳。今回の8曲すべてが20代ということに、あらためて驚かされた。

    すべての紹介を終えたところで発表された、沼澤さん命名のプレイリストのタイトルは『Way too Young』――邦題は、沼澤さんの言葉を借りれば「若すぎるでしょ、これ」となるだろう。そして最後に、ジェフを語るなら、いろんな視点からまだまだ、何回でも深堀りできるとのことで、早くも次回#2をTOTO縛りのプレイリストで開催することが8月5日に決定。とにかくあらゆるドラマーに、このトークを生で聴くことを、深くお勧めします。

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