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Column – アプリで変わるドラム・ライフ Gadget for Drummers ♯7

  • Text:Makito Yamamura Photo:milindri(iStock) Illustration:PCH-Vector(iStock)

みなさんこんにちは。さて今回はこの記事も締め括りとなります! デジタル・ガジェット周辺にはドラマーが活用できるものがどんどん出てきており、そんなところを取り上げられたらという編集部の意向もあって進めてきました。あらためていろいろな便利なツールがあることを再確認しつつも、スマホから顔を上げて見渡してみると、ライフ・スタイル、フィロソフィー、音楽、仕事、人生に対する考え方などの変化の大きさを痛感します。音楽を楽しみ、ドラムを楽しむための環境そのものを再構築することがいよいよ可能になってくるのかもしれませんよ!!

Vol.07 デジタル&ネット全体を「まるごと」活用しよう!

さて、さまざまなアプリや環境を使える今ですが、そもそもネット自体が大きなガジェットというか、急速に連携ツールとして融合してきていますね。かつて研究者が論文の検索に使うために使い始めたインターネットが、一般人も通信やブログで活用し始め、スマホやタブレット、タッチ・パネルなUIによって世界中で利用されるようになりました。

マルチメディア、なんて今では懐かしい言葉がありましたが、文字、絵、音がデジタルの土俵に乗ることで、本やテレビやCDといったものが統合する世界が生まれ、しかしそれはコンテンツの進化というよりは、そもそもは人間の生活を支える五感はマルチメディア以上のものでもあり、デジタル化されたことで演算処理で済ませられること、高速化できること、特殊エディットが可能になる領域をツール化して人間の作業から切り離したり、より高度なエディティングに進んでいると思います。

デジタルというのは、異分野であった物事を、デジタイズして同じ手術台に載せることで、人間はデジタルのツールを開発すればいかようにも施術できる……それ全体が、1つの大きなガジェットの世界のようなものでしょうか。

そんなデジタル・ガジェットの利用法として、スマホのアプリや環境を今まで紹介してきましたが、今回は私のオススメな注目のドラマー、コンテンツや活用法という視点に広げたいと思います。YouTubeだけでなく、SNSの短い動画などにも珠玉なものもあるので、人生、時間がいくらあっても足りない時代ではあります。まさに人類の、世界の人々の人生の活動、叡智、ユーモアのライブラリですね。

1|ドラム・メーカー周辺コンテンツ

楽器メーカー各社がプロモーションの一環として行っている動画は、最高のコンテンツだなと思います。ヴィック・ファースのVFJams、ジルジャンのZildjian Live、マイネルのオフィシャル動画、メソッド譜面やマイナスワン音源の提供など、楽器紹介の枠を超えて音楽や演奏を楽しめるし、広報から啓蒙まで、そして何より、それを素晴らしい第一線のミュージシャン達が行っていることは、実に夢のようです。

2|革新派ドラマー

世界中のコンテンツの中でオススメと言ってもいろいろな意味合いのものがありますが、コロナ禍で音楽活動ができない日々に、個人的にエネルギーをもらった筆頭はマーカス・ギルモアでした。もちろん演奏を生で体験したいんですが、動画の良いところは反芻してアナライズできるところです。そして何より、繰り返し見ないと意味わからないくらいです。

個人的系譜としては、マルコ・ミネマン、トーマス・ラング、マーク・ジュリアナと、ドラム奏法メカニズムの根底からの革新者と捉えていますが、ギルモアはさらなる領域を感じさせます。そして日本でも、本誌で第7世代として紹介された若き精鋭達がこの数年で目白押し!と感じています。

3|楽器試奏

楽器の試奏系は、楽器店によるもの、個人の収集家、何でもありです。日本では豊橋のシライミュージックの動画が圧倒的に発信し始めましたね。楽器の場合、自分で演奏に使ってみないと最終判断できないことばかりですが、やはり参考になります。個人的にカーター・マクリーン大好きですが、巧みなタッチによる要素も多く、サウンドの比較というよりは楽器をどう楽しむかのインスパイアですね。

4|世界の音楽、リズムの歴史

サブスクのメリットとも重なりますが、世界中の音楽や古いアルバム、さらには無名やアマチュアでも素晴らしい演奏に触れられることですね。昔ならば、ラジオをかけておくことで偶然耳にする音楽で知見を広めていたようなことが、より能動的にその世界に入っていけますし、多くの場合、類似関連へのナビゲートがさらにチャンスを広げてくれます。

たくさんの情報を目の当たりにすると、もういろいろ見た気になったり、知った気になるものですが、実は全然知らないものって山ほどあります。たくさん知っているから偉いとかではなく、いろいろな感性があることを知れば知るほど、それぞれが自分の美学で勝負していることに勇気をもらい、自分の良いところも見えてくると思います。

〜参考リンク〜

■Vic Firth
https://vicfirth.zildjian.com/
*トップ・メニューから“Education”ページヘ

■Zildjian
https://www.youtube.com/c/ZildjianCompany

■Gretsch
https://www.youtube.com/user/gretschdrumsusa



■Meinl Cymbals
https://www.youtube.com/c/MEINLcymbalsOfficial

■シライミュージック
https://www.youtube.com/c/shiraimusic

■カーター・マクリーン
https://www.youtube.com/c/cartermclean

ネットがあってできたこと

デジタルやネットでは人間味が……なんていう言葉もありますが、自分にとって、ネットがリアルの人達とのつながりを加速してくれることも多いです。ネットとリアルの行動との連携で良かったことを紹介します。

1:SNSでの交流

会ったこともない、顔も知らない、でも何だかこの人の存在が自分の中にある……。そんな人(アカウント)ってけっこうありますよね。有名無名問わず、ポジネガ問わず、気になった人に会いに行くってのを一時期やってました。関東から関西までそれだけのために行ってみたり。

リアルでもネットでも、本音とか出しちゃう人はけっこう好きなので、ほんの数文字に浮かび上がる個性とか存在感って何だろうってよく思います。

2:インタビューへの流れ

海外のドラマーをネット上でチェックしたり、やりとりしたり、個人的な記事でその人のことを書いていたことから、インタビューになったことも何度もあります。最近ではアーサー・ナーテクとペリン・モスの2人は、ネットがなければというところでしょうか。

ネット上にドラマーとしての詳細情報がなく、バイオグラフィや演奏の裏側を聞きたいという衝動が湧いたのは、むしろネットで知ったからという逆説的なところもあるかもしれません。ネットでのアクションが呼び水となって、そういう人達の情報を紹介する記事になったときはうれしいですね。

ネットではできていないこと

一方で、まだまだネットではできないことや、変化を感じた事柄も多いのではないでしょうか。

1:雑誌メディアの取材力

さて、デジタルの土俵は万能な手術台かと言えば、まだまだそうとも限りません。ドラム・マガジンは創刊から読んでいましたが、やはり雑誌メディアの取材力は強く、特にインタビューなどでは、熟練した編集者やインタビュアーによる記事は、ずしりと重さを感じさせられます。

オールド・メディア、ニュー・メディアの混在というのは、実は今までのドラマーと、これからのドラマーをつなげる大きなステージとして捉えれば、とても意義があって選択肢が豊かであると思います。スネアも浅いのと深いのあった方が、よりそれぞれの利点にフォーカスできますし!

2:生の音、実体験

さて、長引くコロナ禍において、人との距離感、ネットでのやりとりなど生活もだいぶ変わりました。古き良き日本的な人情&道義的な意味合いをもってすれば、人とのつき合いを大切に、ネットに人生の真実はない、などとなるところでしょうけれど、この致し方ない状況から、デジタル&ネット情報からの人間の補完性能も変わってきたとも感じています。

アナログだ、デジタルだと言う人もいますが、電子回路の裏側は常にアナログの塊ですし、パソコンは好かんというオッサンがいたとしても、レコードを聴いてアナログだ〜と言っても、そもそも録音されたものです。もちろんその違いも大きなものですが、むしろ本来の“生=Draft”というものへの知覚も研ぎ澄まされるのではとは思っています。

私は山に登りますが、キャンプだ、自然だ!と言っても、流行りの道具を一切合切を車に積み込んでグランピングする人も、少ない装備を背負って山まで歩いてブッシュクラフトしたとしても、どちらも本来の自然なのかはわからず、道は文明によって作られ、地図は印刷もしくはスマホで閲覧していて、何より価値観と自己承認の満足への依存もあるでしょう。それが“本物の体験”であるかという価値観の手前に、自分自身の知覚に対する“栄養”、“癒し”、“刺激”が今の体験の本質の一部なのかなと感じます。

まとめ 〜これからの音楽ツール〜

音階、リズム、ハーモニー、楽器、譜面、録音物、奏法、ジャンル&スタイル、サウンド……音を出し、音楽を伝えた、広義の意味での道具達。いつまで8ビート・スタイルって演奏されるんだろう、いつまで今のコード理論は使われるんだろう、新しい音階の使い方は出てくるんだろうか、演奏を記録してオンデマンドで再現する新しい方法は出てくるんだろうか……。いつの日か、演奏者そのものがデジタイズされる日も来るのかなと思いつつも、そういう情報がDNAなんだよなと思うと、とっくにそんなシステムも人間に備わっているのかなと。

そんなことを考えると、この道具達に翻弄されることなく、ドラマーはただひたすら己の脳と肉体で、ビートを楽しんで、音楽に恩返しができるような日々を繰り返していくことで、きっとそれが人類の営みとして永続していくのかなぁなんてことを考えてみたりします。それは逆行的な考えとも言えますが、こうしてデジタルの恩恵を、早すぎるほどの進展をリアルタイムで体験しまくることができたことでの成果でもあり、そこに立ち会えた感謝というものも感じるのでございます。みなさんもこれからの音楽とドラム、楽しんでまいりましょう!

Gadget for Drummers

Vol.01 ドラマー“必須”のメトロノーム・アプリ!
Vol.02 ドラマーの練習お役立ちアプリ!
Vol.03 変拍子を扱えるメトロノーム&ガイド・アプリ
Vol.04 チューニングに役立つアプリ
Vol.05 楽しく叩くためのモチベーション&インスピレーション・アプリ
Vol.06 ドラム譜を作れるスグレものアプリ

◎Profile
山村牧人(Makito Yamamura):ドラム・マガジンでライター・デビュー。セミナー記事や教則本出版、ドラム教室、専門学校、音大のレッスンを通して数多くのドラマーを輩出。リズム教育研究所、尚美ミュージックカレッジ、横浜ミュージックスクール非常勤講師。



◎Information
山村牧人 Twitter