PLAYER

UP

【Interview】ギャヴィン・ハリソン[ポーキュパイン・ツリー]

  • Interview & Translation:Akira Sakamoto/Interview:Rhythm & Drums Magazine
  • Photo:Derrick Bremner

ドラムのサウンドというものは
その人の頭の中にあると考えている
機材や奏法の違いは叩く人の違いほど
大きいものじゃない

●「Chimera’s Wreck」ではドラムンベース風のアプローチが聴かれますが、やはり今でもいろいろなジャンルに興味を持ち続けているのでしょうか?
ギャヴィン 僕らは特定のジャンルを意識しているわけじゃなくて、自分達が考え得る最も興味深い音楽を追及しているし、それぞれのメンバーが受けて来た影響も大きく違う。僕はジャズを聴いて育って、演奏もしてきたけれど、スティーヴンもリチャードもジャズを聴いてきてはいない。これまでに触れてきた音楽の影響は常にあって、特に15~18歳くらいの音楽体験はDNAに深く取り込まれている。スティーヴンはプログレッシヴ・ロックの影響が強いだろうし、リチャードはブライアン・イーノみたいに実験的なエレクトロニック・ミュージックの影響が強いと思う。そんなわけで、僕ら3人が集まったときには、特定のジャンルを意識することはないんだ。「Chimera’s Wreck」の最初の3分間くらいは、スティーヴンがアコースティック・ギター、僕がブラシをそれぞれ使って演奏したデモそのままで、クリックを使わずにテンポも遅くなったり速くなったりして“ウネり”を出している。スティーヴンの歌もそのウネりに合わせた、とてもエモーショナルなものになっているんだ。この部分は本番用に録り直そうとしたけれど、最初の雰囲気を再現するのは不可能だったから、そのまま使うことにした。で、曲がヘヴィな感じになる部分では、スティーヴンがベースを弾いて、僕は確かにドラムンベース風のスタイルでやっているけれど、曲を通してみるといろいろな音楽の影響や感情表現が盛り込まれる結果になったんだ。

●ジャズを聴いて育ったというお話でしたが、変拍子への嗜好はどういう影響によるものですか?
ギャヴィン どうなんだろう? 若い頃から変拍子も好きだったんだよね。ドラムのレッスンを受けて譜面を読んで練習している頃、たまにレコードを聴いて何をやっているかわからないことがあると、そのパートを譜面に書き起こして研究していたんだ。その頃には変拍子を数学的に理解して、友達とフランク・ザッパの曲なんかを演奏して楽しんでいた。西洋音楽の99%は4/4拍子で(笑)、5/4や7/4、11/4っていうのは、風変わりで魅力的に思えたからね。で、それをジェームス・ブラウンの音楽みたいにグルーヴィな演奏をするためにはどうすればいいか、なんて考えたりしていたんだ。

●変拍子への対応を強化するために有効な練習法はありますか?
ギャヴィン 変拍子を演奏するコツは、2と3の組み合わせで把握するところにある。例えば19/8拍子はそのまま19拍数えるんじゃなく、まず19を7+7+5に分けて、さらにそれを(2+2+3)+(2+2+3)+(2+3)に分ける。そうすれば、2や3がどの場所に来るのかを覚えるだけで済むわけ。ドラムを叩きながら19拍をカウントするなんてできないけれど、2と3の組み合わせで捉えるとやりやすい。僕の場合はさらに、例えば7を2+2+3として解釈したら、あとは2+2+3という数字の組み合わせじゃなく、アクセントの位置でリズムを把握している。同じ19/8拍子でも、例えば4+4+4+4+3の組み合わせで解釈すれば、アクセントの位置も変わって、リズムのフィールもまったく違うものになる。どんな変拍子も2と3の組み合わせで解釈できれば、恐れるほどのものじゃなくなるんだ。

●わかりやすい解釈ですね! では新作で使用した機材についても教えていただけますか?
ギャヴィン ドラム・セットはソナーの新しいSQ2で、シェルはバーチのものを使った。ベース・ドラムが22″×17″、タムが8″×7″、10″×8″と12″×9″、フロアが15″×13″と18″×15″、スネアはプロティアンという僕のシグネチャーで14″×5″。シンバルはジルジャンで、ほとんどがKで、チャイナはスウィッシュ、あとは特別に作ってもらった小さなベルも使っている。

●先ほど、ドラムの録音方法について説明していただきましたが、ドラムから美しいサウンドを引き出すにあたって、チューニングやタッチで工夫していることはありますか?
ギャヴィン 僕が自分のスタジオを持つようになって25年の間、ドラムを録音して試聴して分析したり、ヘッドやマイクをいろいろと変えてみたり、ミキシングの方法を工夫したりして、実験を繰り返してきた。それでも僕は、ドラムのサウンドというものは、その人の頭の中にあると考えている。どんな楽器を使ったとしても、最終的には頭の中にあるサウンドを出そうとするものだからね。もちろん、僕にも好みはあるよ。ソナーのドラムやレモのヘッドやジルジャンのシンバルが気に入っているからね。でも、僕が他の人の違うメーカーのドラムを叩いたとしても、僕のサウンドになるんだ。ビル・ブルーフォードが僕のスタジオで僕のセットを叩けば、ビルのサウンドになる。彼がドラムを叩くとき、彼の頭の中にはすでに、すぐにそれとわかる彼ならではのサウンドがあるからね。25年間の実験を通じてわかったのは、機材や奏法の違いは叩く人の違いほど大きいものじゃないということなんだ。これはドラムに限らず、あらゆる楽器や歌について言えることだけれどね。

叶 亜樹良(氣志團)によるレビューはこちら
キング・クリムゾンの来日公演レポートはこちら