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キング・クリムゾン『音楽は我らが友 ライヴ・イン・ワシントン・アンド・アルバニー2021』- Drummer’s Disc Guide 拡大版

  • Review:Satoyasu Shomura

11月末より待望の来日公演を行い、圧巻のパフォーマンスを繰り広げたキング・クリムゾン。その来日直前に行われた“2021北米ツアー”のライヴ・レコーディング・アルバム『MUSIC IS OUR FRIEND LIVE IN WASHINGTON AND ALBANY. 2021』が早くもリリースされた! 今回は「Drummer’s Disc Guide」の拡大版として、来日公演を体感した庄村聡泰に、レポートも兼ねて本作を語り尽くしてもらった!

現編成では3台のドラムをフィーチャー
“太鼓”そのものが持ち得る肉感的快楽と手数の暴力

「音楽は我らが友」だなんて、何だか随分とセンチメンタルなタイトルではないだろうか。それは昨今の伝染病に伴い、数多の海外ミュージシャンが来日を断念する最中に奇跡の来日を果たし、各地で素晴らしい演奏を繰り広げてくれたからだろうか。それとも1969年の『クリムゾン・キングの宮殿』から始まり、此度をもってツアー活動の? はたまたバンドそのものの? “completion(完結)”が示唆されているからだろうか。

あなた達の音楽に戦慄され続けた幾年月よ。最後の最後でその楽曲群をこんなにもにこやかに聴ける日々が来るだなんて。今まで本当に、ありがとうございました(とは言えフリップ大先生はギターと同じくらい皮肉と引退詐欺の達人であることも留意しておかなければならない)。

▲キング・クリムゾン(L→R)
パット・マステロット(d)、ギャヴィン・ハリソン(d)、ジェレミー・ステイシー(d、key)、ジャッコ・ジャクジク(g、vo)、メル・コリンズ(sax)、トニー・レヴィン(b、chapman stick)、ロバート・フリップ(g、key)

“ロック”ひいては“音楽”そのものと取っ組み合いを続けてきたバンドの歴史に名を連ねた人員は数知れず、かつては作詞家がいたり変態(天才)パーカッショニストがいたり、エレドラをフィーチャーしてみたり、ツイン・ギター/ツイン・ベース/ツイン・ドラムという、ダブル・トリオと銘打った時期があったりと形もさまざまであるが、2015年より始動した現編成では3台のドラムをフィーチャーし、“太鼓”そのものが持ち得る肉感的快楽と手数の暴力によって聴衆を捩じ伏せてきた。それぞれに持ち場、役割が振り分けられており、主に右チャンネルがテクニカルなギャヴィン・ハリソン、中央が鍵盤も兼任しつつ比較的トラディショナルなプレイのジェレミー・ステイシー、左が多数のエフェクト・シンバルやパーカッションなどをセットに組み込んだパット・マステロットのものだ。

M1の前説を経てのM2はいきなりのドラム・アンサンブル、現編成になってからはお馴染みとなったパフォーマンスであるが、さまざまな音楽的実験を繰り返した末のフリップが求めたものが、先に述べた通り斯様な“太鼓が持ち得る肉感的快楽”であったことは非常に興味深い。やっぱこういうのってシンプルに気持ちいいもんなぁ。

耳をくすぐる金属音から呪術的なフレーズを繰り返すギターのフェード・イン。代表曲の1つに数えられるM3だ。スネア・ロールで溜めて溜めてからのメイン・テーマの破壊力と言ったらもう。邪悪なリフの下で上で暴れ回る3台のドラム、何ちゅうオソロシイ演奏か。先に述べた“手数の暴力”、おわかりいただけると思います(笑)。

続くM4はファースト・アルバムがあまりにも有名なために、今日まである種の憂き目に合い続ける羽目となったセカンドからのもの。悪のギャング団が闊歩するかのようなジャジーでファニーなリフやキメなど、聴けば聴くほどスキッツォイドマンの兄弟みてえな曲だよなぁと思わされる。

M6も代表曲の1つで異論はなかろう。気持ち悪く上がるギターとまたやりたい放題の太鼓3兄弟。このあたりまで聴くとどれが誰のプレイかはもうどうでも良くなってくるはず。神の悪ふざけだと思って身を任せるが吉。

前曲のテーマを引っ張るベース・ソロの小品を挟んでは高速レガートが映えるM8。焦燥感を煽るようなスピード感溢れる演奏にブン回されること請け合い。

規則的に刻まれるベースの上でソロやシンバル・ミュートを回しまくるM10は80年代クリムゾンの処女作から。この静と動の高低差には目眩を覚えるほどではあるが、百戦錬磨のトニー・レヴィンがきっちり手綱を握ってくれてます。

言わばプログレ・ムード歌謡な趣で間奏が異常にカッコいいM14以降は、代表曲の乱れ打ちで満を辞して演奏されるM15(ドラム・ソロつき)や、有機的に生まれ変わった元祖マスロックなM17。元バージョンとの聴き比べもぜひ楽しんでいただきたく、M3の続編であるM18のこれまた邪悪な名演を経て、ひたすらにメロウなM19でアルバムは締め括られる。

演奏も去ることながら比較的全キャリアから満遍なく選曲されており(「イージー・マネー」だ、「フラクチャー」だ、「セイラーズ・テール」だ、「マッテクダサイ」だとか言い出すとキリがない)、また即興パートも比較的少なめなので、冒頭のエピソード込みでこれを入門編として良いのではないかと思っておる次第で、それも人により異論諸々だろうが、とにかく筆者は長い永い年月を経て、ようやくデレたクリムゾン(フリップの夫婦漫才動画を参照あれ)を目の当たりにし、あの邪悪なフレーズの数々を笑顔で口ずさめる今を心から楽しんでいる。

本当にありがとう。偉大なるキング・クリムゾン。

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ギャヴィン・ハリソン/パット・マステロット(d)、ジェレミー・ステイシー(d、key)、トニー・レヴィン(b、chapman stick)、ロバート・フリップ(g、key)、ジャッコ・ジャクジク(g、vo)、メル・コリンズ(sax、fl)

発売元:WOWOW 品番:IECP-20305 発売日:2021.12.22