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Interview – 高橋 武[フレデリック]

  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine Photo:Satoshi Hata(TOP/PAGE 2)、AZUSA TAKADA(PAGE 4)

ハイハットの音色を変えようと
MIDIで差し替えてみたら
ノリがめちゃくちゃ変わっちゃって
想像とは違ったけど、新鮮で面白いなと思いました

●「正偽」は、メロは淡々と、サビは人間味のあるアプローチが印象的でした。

高橋 これもせっかく電子ドラムでレコーディングということで、今までにない録り方をしてみようと思って。DAW上でデモをループしまくって、1時間くらいずっと好きなように叩き続けたんです。それを自分でブレイクビーツしました。そういうやり方をしたら普段とはまた違うビートになるだろうなと思って。

●それもあってか、サビではウラで“ウタンタン”とキメるフレーズに絡めるバス・ドラムのパターンもあまりかぶらないようになっていますよね。

高橋 スタッフと話しているときに、UKガラージを意識したパターンをちょっとやってみようという話になって。(UKガラージは)いろいろな解釈があると思うんですけど、パターンが複雑なタイプもあると思ってて、サビはそうしようと思いました。Aメロとかはわりと単調なビートで作って、サビはキックのパターンが読めそうで読めないというのがねらいだったんです。

●ラスサビ前の3連フィルは、曲全体を少しレイドバックさせるような、クセのあるフレーズですね。

高橋 これは、1時間ぶっ通しで叩いているときは何も考えずに出てきたフレーズだったんですけど、そのときには仮歌も入ってる状態だったので、歌詞の世界観的にも、自分の中にあるフラストレーションや、煮えきらない気持ちみたいなのが出たのかなと思ってます。だから、多分今の時期じゃなかったらこのフィルは出てこなかったような気がしますね。メンバーにも「一応もっとシンプルにするって選択肢もあると思うんだけれども」と話したんですけど、その感情を尊重してくれたので、このフィルでいこうと決まりました。

●こういった新しい制作過程の中で、苦労などはありましたか?

高橋 まさにこの曲は苦労しましたね。MIDIで録ってSSD5で音色を固めたんですけど、最初に僕が作ったときに「もうちょっとハイハットが硬めの方がいいんじゃないか」という話がみんなからあったんです。それで、MIDIなので音色だけ差し替えてみたらノリがめちゃくちゃ変わっちゃって。今まで生ドラムでハイハットを替えたくらいじゃそこまでにはならなかったんですよね。それって多分、違う音色になったら無意識のうちにタッチや扱いが微妙に変わって、そこまで変わらないように聴こえるんだろうなって思って。MIDIだとそこは反映されないじゃないですか。自分の想像してたMIDIでのレコーディングと違う点で、新鮮で面白いなと思いました。多分、音色によって立ち上がりの速さが違ったり、ベロシティの差も出やすい/出にくいっていうのがあるんだと思います。

●「SENTIMENTAL SUMMER」はメロで打ち込み、サビでは生っぽさを出していますよね。

高橋 最初の段階では、今みたいに分かれてはいなくて、全体を通してサビのような音色に一貫していて、もっとダブっぽいビートにするところがスタートだったんです。そこからメロをヤオヤ(RolandのTR-808)にするって意外とやってないし面白いんじゃない?って話になって、という流れですね。打ち込みっぽい部分は、ヤオヤの音色をTD-50で叩いて録りました。なかなかこういう曲って、ドラムだけでも1曲でストーリーが見えないといけないので、宅録ならではの気持ち作りの難しさはすごく感じましたね。

僕はわりと1テイク目の力をすごく信じているタイプなので、プレイはもちろんですけど、メンタルの持っていき方が一番面白かったし難しかったところだなって。30分くらいエレドラの前に座って気持ちを作ってから叩いてました(笑)。特に「SENTIMENTAL SUMMER」と「されどBGM」は繊細なタイミングが重要だと思ってたので、電子ドラムでのレコーディングって、結局どこでその人の個性が出るかってなったら、フレーズもありますけどやっぱりタイミングとベロシティだと思うんです。個人的に「されどBGM」は自分で聴いて速攻で“あ、俺だ”と思える仕上がりなので、電子ドラムのレコーディングって抵抗のある人も多いと思うんですけど、生ドラムとは違う確立された楽器で、ちゃんと人間味は出るなと僕は思ったし、このEP自体がそれをちゃんと証明できていると思います。今のご時世、なかなか思うようにドラム・レコーディングができない人もいると思うんですけど、そういう人たちの良い刺激になればいいなと思いますね。