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ドラム×肉体〜叩き続ける“カラダ作り”〜(2018年11月号掲載) 2. “2大痛”である腰痛と腱鞘炎にならないための12の方法

  • Text:Koichi Yamakita Model:Daichi Izumi(DISH//)
  • Photo:Yoshika Horita Special Thanks:Bonney Drum Japan

2. “2大痛”である腰痛と腱鞘炎にならないための12の方法(7〜12)

7. 異分野の身体の使い方を学ぶ

腰痛や腱鞘炎に限らず、身体を痛めてしまうことが多い人は、一度専門家に身体の使い方を見てもらうのも良いでしょう。アレクサンダー・テクニーク(※1)、フェルデンクライス・メソッド(※2)、整体、ヨガ、呼吸法、スポーツ系の身体理論……など、“身体の使い方”を専門とした分野のメソッドを体験してみると、新たな発見があるはずです。ドラム以外の分野に触れることで、ケガの予防はもちろん、演奏の幅もきっと広がることでしょう。

ちなみに私は大東流の合気道をルーツとするK’s musicでモーラー奏法を学び、その後、日野晃師範の武道から大きな影響を受けて現在に至ります。

※1 フレデリック・マサイアス・アレクサンダーによって生み出された心身技法。頭と首、背中の関係に注目し、そこを改善することが特徴。背中や腰の痛みのリハビリテーションの他、楽器演奏法のクセの改善などにも用いられる。

※2 イスラエル出身の物理学者、モーシェ・フェルデンクライスによって作られたメソッド。指導者の言葉による動きの指導や、動きを案内していくレッスンなど、患者の“自発的な動き”を活用するのが特徴。

8. 身体のシグナルに敏感になる

ケガは突然起こるのではなく、違和感が痛みに発展し、最終的にケガに至ります。ケガを防ぐためには、早い段階で違和感を感じ取って対処して行くことが大切です。

多くの場合、気持ちが先走って無理をしてしまったり、プロ・ドラマーの場合はオーバー・ワークが続くことでケガにつながることもあるでしょう。もし痛みにつながる兆しを感じたら、そのときは痛くなくても病院で診察を受けるなど、迅速に対応をしましょう。

 冷静に身体と向き合う時間を持ち、しっかりと休む時間を作ることも大切です。身体と向き合うことは、練習と同じくらいドラムの上達にも役立つはずです。

9. 栄養、特に多種類の「 ミネラル」を摂る

「新型栄養失調」という言葉をご存知でしょうか? 現代人はカロリーは十分に足りていますが、ビタミンとミネラルが不足し、心身に不調が現れている人がとても多いと言われています。

腰痛を引き起こす“筋肉の緊張”は、カルシウムやマグネシウムといったミネラルのバランスに大きく影響を受けます。筋肉はカルシウムの働きで収縮し、マグネシウムで緩むという性質を持っているので、マグネシウム不足は足がつる、筋肉がこるなどの原因になります。

ミネラルは単体では働かないため、多くの種類を一度に摂ることが必要です。食事からでは天然の塩や出汁、有機野菜などから摂取する形となります。サプリメントを利用する場合は単体の鉱物系ではなく、 体への吸収率の良い植物系ミネラルをオススメします。

10. 睡眠の質を上げる

疲れはケガと密接な関係がありますが、身体的にも精神的にも疲労を回復する一番の方法は“睡眠”です。睡眠は幸福感をもたらす“セロトニン”という脳内ホルモンと深い関わりがあり、この物質が多いほど質の高い睡眠がとれると言われています。また、ドラムのようなリズム運動はセロトニン・レベルを上げるのに有効だとされていますので、眠りが浅いと感じる人は昼間たくさん練習しましょう(笑)。

その他、セロトニン・レベルを上げるためには日光浴、アロマテラピー(合成品はNG)、笑うこと、瞑想、タッチケアなどが良いとされています。ミュージシャンは夜が本番なので夜型の生活スタイルは仕方がない部分もありますが、ケガの予防の他、心身を良い状態に保つ、パフォーマンス向上のためにも睡眠は大切となります。

11. 痛いところは揉まない、刺激しない

もし痛みが出ても、患部を揉むのは絶対にやめましょう。刺激によってその場は痛みが紛れるかもしれませんが、筋肉の緊張が増し、長い目で見れば悪化する可能性があります。

以前、手に力が入らなくなったジストニアの生徒さんがいらしたのですが、背中の緊張をご自身が丁寧に感じて“緊張に気づく”作業を続けた結果、スティックが持てるようになりました。手を無理に動かそうとするのではなく、根本となる原因を根気良く探った結果です。

痛みや不調の原因は、患部とは離れた場所にあることが多いものです。例えば肩が上がらない四十肩の症状も、腰や足首を施術することで改善することが多々あります。

12. 自分に合ったセッティングで叩く

意外なことに、ドラムのセッティングは高すぎるよりも低すぎる方が、手首を傷めるリスクが高くなります。手首はだらりとぶら下がった状態であればラクに振ることができますが、反り返った状態ではロックされてしまうからです。ヒジが曲がった状態で手首をだらりとぶら下げた“ユーレイ”の状態を基本にセッティングをすれば、手首を傷めるリスクを減らすことができるでしょう。

COLUMN 腰痛を予防する楽器の運び方

身体に負担がかかる機材運びは、演奏以上に注意が必要な作業です。機材を運ぶときのポイントは、とにかく身体に近づけて持つこと。そして、足元にある機材を持ち上げるときには腰を曲げるのではなく、必ず膝を使って持ち上げること。この2点に気をつけるだけで、腰痛のリスクはかなり減らすことができるでしょう。立ち上がるときは、胸骨で身体を引き上げるイメージで立ち上がると楽に立つことができます。お試しあれ。

左写真のように楽器を身体に密着させ、膝の力を使って持ち上げる。右写真、身体から楽器が離れてしまうと、腰に大きな負担がかかってしまう。

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監修&執筆:山北弘一

1976年生まれ、大阪市出身。ドラマー、整体師、分子栄養学アドバイザー。大学在学中よりプロ・ドラマーとして活動し、ライヴ・サポート、レコーディング、テレビ出演などを多数経験する。08年より“呼吸で奏でるドラムレッスン”を開講。各地で個別指導/クリニックを積極的に行い、5,000人以上のドラマーと継続的に関わる。著作に『活きたグルーヴを身につけるための「独習! 電子ドラム」』、『今日からはじめる電子ドラム』(共にヤマハミュージックメディア刊)がある。TwitterYouTubeでも情報を発信中。HPはこちら

『ドラム×肉体〜叩き続ける“カラダ作り”〜』はドラム・マガジン2018年11月号の内容をもとに一部を抜粋、再編集したものです。もっと詳しい内容を知りたい方はこちらもぜひチェック!