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Drummer’s Disc Guide – 2024 Spring

Spring 2024

【A】=アルバム 【M】=ミニ・アルバム 【E】=EP 【V】=DVD、Blu-ray


【A】The Immediate Family『Skin In the Game』

d:ラス・カンケル

こんな演奏が自分にもできたりしたら
どんな気分になれるんだろう

60年代からアメリカの音楽の歴史を革命のごとく築き上げてきた、間違いなくこの先永遠に語り継がれる世界遺産……80歳に近づこうとしているにも関わらず、こんなにも精力的に現在進行形で活動し続けて、そしてもちろんいまだに遥か別次元の演奏能力で世界の頂点に君臨する真のレジェンド達=The Immediate Family! 彼らの全編書き下ろしのニュー・アルバムは全曲1小節目からいつものようにすべてが完璧……つまりもし万が一こんな演奏が自分にもできたりしたらどんな気分になれるんだろう、という妄想ばかりが駆け巡る。彼らのライヴを至近距離で目の当たりにしたときの、あの衝撃は決して忘れることはないが、とにかくそのフィジカル、特に持久力と安定性と、そしてそもそも楽器を演奏する目的と姿勢が我々一般人とは違いすぎることがはっきりわかる。人類より感情表現さえも優れている架空のスーパー・ヒーローとしか思えないラス・カンケル……次に目撃できるのはいつだろう?(沼澤 尚/シアターブルック、ブルース・ザ・ブッチャー)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ラス・カンケル(d)、リーランド・スカラー(b)、ワディ・ワクテル(g、vo)、スティーヴ・ポステル(g、vo)、ダニー・コーチマー(vo、g)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2024.02.16

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【A】Brittany Howard『What Now』

d:ネイト・スミス

躍動するグルーヴとプログラミングされたような
正確さを併せ持つドラミング

アラバマ・シェイクスのヴォーカリスト、ブリタニー・ハワードのセカンド・ソロ・アルバム。パンデミックの最中に書いたというタイトル曲を含む12曲。アラバマ・シェイクスでコラボレートしていたショーン・エヴェレット( エンジニア)が参加し、空間の広い独創的なサウンドに仕上がっている。曲と曲の間に短いアンビエントが入るのも印象的で、静と動が呼吸するように満ち引きする今の音。躍動するグルーヴとプログラミングされたような正確さを併せ持つドラミングは、今最も注目すべきドラマーの1人であるネイト・スミス。ショーンのエンジニアリングによるプロデュース(加工)されたドラム・サウンドがまた素晴らしい。「ブリタニー・ハワードのライヴでは、アルバム制作のプロセスで作ったドラム・サウンドを再現するために、ドラム・トリガーを導入してハイブリッドなアプローチをしている」とネイトがインタビューで語っていた。彼らの進化は止まらない。(坂田 学)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ネイト・スミス(d)、ブリタニー・ハワード(vo、etc.)、ザック・コックレル(b)、ブラッド・アレン・ウィリアムズ(g)、ポール・ホートン/ロイド・ブキャナン(key)、ロッド・マクガハ(tp)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2024.02.09

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【A】Keyon Harrold『Foreverland』

d:クリス・デイヴ、マーカス・ギルモア

ドラマーにとっての聴き応えという意味でも
素晴らしいアルバム

今作についてキーヨン本人が語った中の“人生という荒波の中で静けさを見つけることは、挑戦であり目標でもある”という言葉も、近年のアメリカの社会背景を考えれば重みが違ってくる。さらにコロナ禍、母親の死、近親者への差別的な暴行事件……そうした出来事とのストラグルを経て制作された音楽は、悲劇に屈しない態度としての祈りに包まれている。安息と静寂への祈り。主な楽曲でリズムを支えるのは、J・ディラのビートを肉体的に翻訳した革新者、クリス・デイヴ。小節3拍目に置かれる3連のキック、奇数と偶数を行き来しながら抜き差しされるハイハットでパターンに絶妙なニュアンスを与えるM1、M3のインタープレイ、M4のメトリック・モジュレーションなど、これぞクリス・デイヴといった多彩なドラミングに加え、マーカス・ギルモア参加のM7、8では、彼の他の参加作とはまた一味違ったアプローチと音色を聴くことができ、作中の印象的なスパイスになっている。ドラマーにとっての聴き応えという意味でも素晴らしいアルバム。(木暮栄一/the band apart)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】クリス・デイヴ(d、per、etc.)、マーカス・ギルモア(d)、キーヨン・ハロルド(tp、vo、etc.)、バーニス・トラヴィス/ブランドン・オーウェンズ(b)、ジャスタス・ウェスト/ニア・フェルダー(g)、グレッグ・フィリンゲインズ(p)、ジャハーリー・スタンプリー(p、org、key)、BIGYUKI(key)、ロバート・グラスパー(key、syn)、コモン/ジーン・ベイラー(vo)、PJモートン(vo、key)、他

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2024.01.19

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【A】Charles Lloyd『The Sky Will Still Be There Tomorrow』

d:ブライアン・ブレイド

細かく粒だったパルスをコントロールし
空間を大きく彩るブライアン・ブレイド

85歳にもなろうというジャズ・サックス界の巨人、チャールズ・ロイド氏が、長年活動を共にしてきたエリック・ハーランド、ルーベン・ロジャースという鉄壁リズム・セクションの軽快な演奏とはまた違う意味合いを持ったメンバーを迎えて、新作をリリースします。シンバルの響きやシズルの余韻の深さ、そして細かく粒だったパルスをコントロールし、空間を大きく彩るブライアン・ブレイド。端正にゆったりと音を紡ぎながら豊かな音色でリズムをプッシュするベーシスト、ラリー・グラナディア。この2人の作る世界観は、今までのバンドのスピード感溢れる鋭いリズムのアプローチとはまた違い、ロイド氏を別の世界に誘っているように思えます。今までのようにリズムの上に浮遊するだけでなく、空間の中でサックスのメロディがドラムやベースに絡みつくように変化していく様は、60年代のガボール・ザボとロイド氏の作品に通じるような不思議な感覚を覚えました。(芳垣安洋/Orquesta Libre、On The Mountain、etc.)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ブライアン・ブレイド(d、per)、チャールス・ロイド(sax、fl)、ラリー・グレナディア(b)、ジェイソン・モラン(p)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2024.02.23

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【A】Ulysses Owens Jr. & Generation Y『A New Beat』

d:ユリシス・オーウェンズJr.

ユリシスはしなりと熱を伴ったビートで
ダイナミックにバンドを鼓舞し続ける

ユリシスが近年力を入れて活動している、次世代の素晴らしいミュー ジシャンをプロモートすることを目的とした“Generation Y”というプロジェクトによる熱いスタジオ・ライヴ盤が登場。マックス・ロー チの「For Big Sid」のフレーズにハーモニーをつけたイントロからM1になだれ込むと、いきなり最高潮に。選曲、演奏内容共に先人達から文化の伝承と現代的なフレッシュな感性のバランスというものを感じ、個人的にはM2のモダンに処理されたニューオーリンズの香りと泥臭いブルース・フィーリングの塩梅が好みである。ユリシスはしなりと熱を伴ったビートで、ダイナミックにバンドを鼓舞し続ける。 M9のファンキーな粘り気でノックアウトされよう。(横山和明)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ユリシス・オーウェンズJr.(d、per)、竹永龍馬/フィリップ・ノリス(b)、タイラー・ブロック/ルーサー・アリソン(p)、アンソニー・ハーヴェイ/ベニー・ベナックⅢ(tp)、サラ・ハナハン/寺久保エレナ(sax)、ミルトン・サッグス(vo)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2024.01.19

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【V】DREAMS COME TRUE『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023』

d:クリス・コールマン
per:デザレ・ニーリー

安定感と躍動感が同居する
驚異的なドラミングは全ドラマー必見

ドリカムの4年に1度の“史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND”のドラマーにクリス・コールマン! そりゃもう絶対すごいでしょ! クリスのドラミングは超絶ゴスペル・チョップスが有名だと思いますが、このライヴでは曲をグルーヴさせるプレイに徹していて、めちゃくちゃ気持ち良いです! 中でも音数の少ないバラードのドラムの素晴らしさに感動しました! ドリカムはこれまでにも素晴らしいドラマーが参加していますが、今回のクリスの参 加は、進化し続けるドリカムのライヴを最高峰に導いた極上のプレイに間違いないです! 強靭で美しい音色、安定感と躍動感が同居する驚異的なドラミングは全ドラマー必見です!(吉田佳史/TRICERATOPS)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】クリス・コールマン(d)、デザレ・ニーリー(per)、中村正人(b、cho)、吉田美和(vo)、他

発売元:ユニバーサル 品番:【Blu-ray】UMXK-9033/【DVD】UMBK-9311 発売日:2024.01.31

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【E】AJICO「ラヴの元型」

d:椎野恭一

グルーヴの組み立て方から音色とフィーリングと
集中力までのすべてがまさに匠の業

M1「ラヴの元型」だけでブッ飛びました。TOKIEさんのゴリゴリに尖ったベースと椎野恭一さんの地を這うように驀進するビート。その強力なリズム体の上に重なる浅井健一&UAという双頭のカリスマ。その後の曲もそれぞれに聴きやすさと奥深い世界があり、全6曲ながらも聴き終えたあとは十二分な満足感が残ります。椎野さんのドラミングもまたシンプルなのに奥深い。特にM3「言葉が主役にならない」のプレイは必聴。グルーヴの組み立て方から音色とフィーリング、そして集中力までのすべてがまさに匠の業。各メンバーが築いてきた個性を輝かせながらも、進化を続けているからこそ新作を出す意義がある、そんなことを強く感じる作品です。(山本雄一/RCCドラムスクール)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】椎野恭一(d)、TOKIE(b)、浅井健一(g、vo、etc.)、UA(vo)

発売元:ビクター 品番:VICL-65935 発売日:2023.12.01

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【A】ZAZEN BOYS『らんど』

d:松下 敦

各楽器が本来持つ美点を自然な形で表現
開放的で柔軟な、粘り気あるグルーヴを展開

実に12年ぶりの新作。前任の吉田一郎に代わり、18年に元BLEACHのMIYA(b)が加入して初の作品となる。前作『すとーりーず』は楽曲の焦点にドラムがあり、全パート、針の穴を通すようなタイム感で、究極に張りつめたグルーヴをものにした印象だった。対して本作では、各楽器が本来持つ美点を自然な形で表現していて、開放的で柔軟な、粘り気あるグルーヴを展開している。ギター、ベース、ドラムにヴォーカルというシンプルな編成から放たれる、岩石のような存在感を持つ音塊。無音の隙間からはロックだけでなくブラック音楽も残響し、大きな渦を成して広がっていく。個人的には“ツェッペリンが『プレゼンス』の続編を作ったらこんな感じだったか?”と夢想した。(岸田 智)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】松下 敦(d)、MIYA(b)、吉兼 聡(g)、向井秀徳(vo、g、key)

発売元:MATSURI STUDIO 品番:PECF-3287 発売日:2024.01.24

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【A】Royal Time Machine『Royal Time Machine』

d:ジョージ・コリアス

ジョージにしか不可能なドラムの特異性が
数多のフュージョン作品と一線を画する決め手

NILEのジョージ・コリアスが、同郷ギリシャのプレイヤーと結成したインスト・トリオのアルバムが完成した。彼のプレイと言えば超絶デス・メタル・ドラミングが真っ先に思い浮かぶわけだが、実はどんなジャンルでも高度に叩きこなすオールラウンダー。多様な音楽性を内包した今作では、その才能を遺憾なく発揮していて、ドラムンベースやルーディメンタルなパターン、スウィングまで想像以上に多彩なグルーヴを披露している。加えてフィルやソロなど、随所で繰り出す十八番の激速フレーズ! 他メンバーの技術やセンスも超一級で素晴らしいが、やはりこのジョージにしか不可能なドラムの特異性が、数多のフュージョン作品と一線を画する決め手と言っていいだろう。(岡安鋼樹)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ジョージ・コリアス(d)、マイケル・エヴデモン(b)、ヤニス・パパドプロス(g)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2024.02.16

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【A】ジューダス・プリースト『インヴィンシブル・シールド』

d:スコット・トラヴィス

ツーバスを交えた高速フレーズと
堅牢なドラミングでバンドを支える

デビュー50周年を迎えたヘヴィ・メタルの開祖が放つ19作目のフル・アルバム。前作発表後、病気の影響でツアーから退いたグレンも制作に加わっているようで、まずは一安心といったところだが、その内容は“これぞジューダス!”、“これぞメタル!”と快哉を叫びたくなる充実ぶり。鋭利なギター・リフに、ロブのハイ・トーンがこれでもかと冴え渡り、ファンの期待に十二分に応えている。スコット・トラヴィスのドラミングも聴き応え十分。随所にツーバスを交えた高速フレーズをぶち込みつつ、堅牢なドラミングでバンドをがっちりと支える。また、ボーナス・トラックのバラード「ザ・ロジャー」では抑揚の効いたプレイも披露し、懐の深さを見せつけてくれる。(竹内伸一)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】スコット・トラヴィス(d)、イアン・ヒル(b)、グレン・ティプトン/リッチー・フォークナー(g)、ロブ・ハルフォード(vo)

発売元:ソニー 品番:SICP-6557 発売日:2024.03.08

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【A】NEMOPHILA『EVOLVE』

d:むらたたむ

綺麗な姿勢としなやかな腕の振りから
繰り出されるフレーズは力強く秀逸

今年の2月17日に結成わずか5年未満で、驚異的なスピードでバンド初の武道館公演を成功させたガールズ・ラウド・ロック・バンドの3rdアルバム。のっけから個々のスキルの高いラウドなサウンドで気持ち良く度肝を抜かれ、“唯一無二なバンドだ”と、このアルバムを聴いて感じる。そんな超絶技巧なメンバーのサウンドを支えるのはドラムのむらたたむさん。綺麗な姿勢としなやかな腕の振りから繰り出されるフレーズは力強く秀逸。とかくマシンのようなサウンドとプレイになりがちなジャンルのドラミングにおいて、今作のたむさんのドラミングは人間味溢れる優しさや強さ、喜びと自信と攻めを感じる。M5の「ODYSSEY」では、ドラマチックに曲に息吹を与えていて正に呼吸しているグルーヴだ。たむさんのEVOLVE、必聴です。(長谷川浩二)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】むらたたむ(d)、ハラグチサン(b)、SAKI/葉月(g)、mayu(vo)

発売元:マスターワークス 品番:DDCZ-2303 発売日:2024.01.17

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【A】LITE『STRATA』

d:山本晃紀

目を見張るフレーズやプレイにハッとさせられる緻密に構築されたドラム

LITEと言えば、拍や小節の感覚を揺さぶりながら激しく展開する楽曲の印象が強いが、約4年半ぶりのオリジナル・アルバムとなる本作では、さらに新しい顔を見せる。シンセや打ち込みの比重が増え、全9曲のうち5曲はヴォーカル入り。音像もリスニング寄りで、音源ならではの聴き心地を提供する。その中で今回も緻密に構築されたドラムは、曲調に合わせて音を加工していたり、パッドを叩いていたりと振り幅が広い。目を見張るフレーズやプレイにハッとさせられる瞬間もたくさんあった。そしてリリース直後のステージでは、新曲がライヴでも魅力たっぷりに響くことを確認し、心が躍った。“インスト・ロック・バンド”を自称する彼らの進化はまだまだ続く。(西本 勲)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】山本晃紀(d)、井澤 惇(b)、楠本構造(g、syn)、武田信幸(g、vo)

発売元:I Want The Moon(配信リリース中) 発売日:2024.01.31

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