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    【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯7 〜Yamaha AMS1460 〜

    • Photo & Text:Takuya Yamamoto
    • illustration:Yu Shiozaki

    Yamaha Absolute Hybrid Maple Snare Drum (AMS1460)

    国内外のトップ・プロも使用する機会が少なくない楽器ながら、絶妙な価格設定を実現しているのは、サイズとカラーを絞って展開していることが効いているのかもしれません。製造ラインと流通のコストの視点です。

    所有の満足度に関わるところですが、バッジのボルト留め仕様には高級感があります。両面テープでの貼りつけ、エアホールを兼ねたグロメット、取りつけ方法はいろいろとありますが、この仕様は加工と組み立ての手間も、パーツ代もかかります。コストカットするならば、真っ先にメスが入る部分だと思いますので、特筆すべきポイントでしょう。

    楽器としてのポテンシャルについては、クロームメッキされたアルミダイカストフープに、ウェンジを芯材として使った薄めのウッド・シェルという組み合わせは、この楽器特有の仕様です。軽さの割に剛性が高く、どのレンジにおいても充実した低域が存在しており、軽くて低域が出る楽器にありがちな音が散ってしまうような印象はなく、しっかりとした輪郭・音の芯が得られます。

    フック・ラグは独特な使用感なので、万人受けするとは思いませんが、独特な重量バランスと取り付け位置の制限に対して、厚みや材料の選択などにより適切なシェルの剛性が確保されており、設計側の解像度の高さが光ります。

    適度な質量と使用されている素材、分割された構造に由来してか、耳障りなパーツ鳴りが残らず、チューニングレンジに隙がありません。唯一、超ロー・ピッチではラグのぐらつきが起きる可能性があるので、やや苦手と言えるかもしれませんが、そこまでの特殊な状況であれば、それに特化した他の楽器を選択すると思われます(なお、決して推奨はしませんが、ラグを1つおきに取り外して、擬似的に5ラグにして運用するという方法もあります)。

    独特な使用感について少し掘り下げると、慣れさえすればヘッド交換はものすごく楽です。エッジにラグをぶつけるとよくないので、まずフープとラグを外してから、ヘッドを外す。マウントの際も、ヘッドを先、フープとラグを後、というプロセスを守っていただければ、大きな問題はないと思われます。

    スローオフは感触もアクションも好印象です。ワイヤーの設計と取りつけ位置、引っ張り角度、ベッドとエッジの組み合わせ、どれも十分に計算されており、ツブ立ちの良いサウンドは申し分ありません。

    設計面では、重要な部分に樹脂パーツが含まれているので、超長期で見た場合はどうなるかわからない部分もありますが、将来的に互換パーツの供給がストップしたとしても、本体価格や流通量を考えると、比較的気軽に改造できると思うので、デメリットと見做すほどではないでしょう。

    少々長くなりましたが、発売から8年も経過すると、中々注目を浴びる機会は少なくなります。どんなに厳しく高い基準で耐久性テストを行っていても、実際に現場に投入されて、想定外を含んださまざまな使い方、不慮の事故などを経て、耐久性上の弱点が顕在化する可能性はあり、それなりの期間が必要な面もあります。高い人気を維持した優れた楽器でも、材料の調達などに問題が起きれば、製造できなくなるときが来る可能性はあります。

    このタイミングで、この楽器を、このような形で紹介できた事も何かの縁ですので、この機会にぜひチェックしてみてください。

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    Profile
    ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

    Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

    【Back Number】

    第一回:COBスネア・ドラム
    第二回:16インチ・バス・ドラム・キット
    第三回:Dragonfly Percussion Kick Drum Beater
    第四回クラッシュ・ライド
    第五回:スネア・スタンド
    第六回:単板スネア・ドラム