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    サイモン・フィリップス×影丸【後編】|理想のドラム・セットとあらゆる音楽から得る学び

    • Photo:Akito Tagekawa/Special Thanks:Blue Note Tokyo
    • Translation&Interpretation:Tomohiro Moriya

    レジェンド・ドラマー、サイモン・フィリップスと、彼を敬愛する-真天地開闢集団-ジグザグのドラマー=影丸 -kagemaru-によるスペシャル対談。前編ではサイモン独自のドラム哲学やサウンド・メイクについて深掘りした。後編では、影丸が長年聞いてみたかった疑問を次々と投げかけ、自分らしいドラム・セットの作り方や、多彩な音楽を吸収することの大切さ、さらにはミック・ジャガーとの秘話まで、多岐に渡るテーマで語り合ってくれた。

    音楽的な視点とコンディションを保つ
    「ドラムから離れる時間」の重要性

    影丸:ドラムを続ける上で、日常でドラムを叩くこと以外に大切にしていることはありますか?
    サイモン:実は僕のキャリアを振り返ると、ドラムにまったく触らない時期が結構あるんだ。それはプロデュースやレコーディング・エンジニアの仕事をしているときだね。もちろんお勧めできることではなくて、本当はもっと練習しなきゃいけないと思っているし、純粋なテクニックに関しては遅れを取り戻さなきゃいけない部分もある。3〜4週間ずっとレコーディングをしていると、ドラム・セットが目の前にあるのに、一度も触らないなんてこともあるんだ。エンジニア・モードに入ると耳をフレッシュな状態に保っておきたいし、1日の終わりにはもう一切の音を出したくなくなってしまうんだ。83年に本格的にエンジニアリングを始めて以来、そういう時期は何度もあった。テクニックを鍛えるという意味では理想的ではないかもしれないね。

    でも一方で新鮮な感覚や音楽性という意味では、ドラムを違う視点から見られるようになる。自分のドラムであれ他人のドラムであれ、フェーダーを動かしながらミックスしていると、“この曲をどうすれば魅力的なレコードにできるか?”という視点で音楽を聴くようになる。それが結果的に、自分を新鮮な状態に保つ助けになっているんじゃないかな。もちろん今でもテクニック、特に四肢のコーディネーションは常に向上させたいと思っているし、それを練習するのは大好きだよ。毎晩ステージでプレイできるのは本当に素晴らしい。でもツアーから帰ると、4〜5日、時には1週間くらいドラムに触らないこともある。これって決して理想的ではないけどね。

    影丸:サイモンさんの人間らしさが垣間見える話が聞けてうれしいです(笑)。僕の中では神様みたいな存在だったので、少し安心しました。
    サイモン:神様なんかじゃないよ(笑)。今のドラマーには、とんでもないテクニックを持った人達がたくさんいる。だから僕も負けないように頑張っているんだ。でも一方で年齢も重ねてきたから、若い頃ほどのスピードはもう出ない。シングル・ストロークなんかは特にそうだね。25年前の自分の映像を見ると、“今はさすがにもう無理だよ!”と思うこともある(笑)。例えば『There and Back』の「Space Boogie」はテンポが123くらいだけど、Drumeoの企画でプレイすることになった際に、あの曲をやって欲しいとリクエストされたんだ。

    影丸:その動画、拝見しました!
    サイモン:見てくれたんだ、ありがとう! さすがにあのスピードではもう叩けなかったよ。あれは当時23歳だったからこそできたんだ。Drumeoのときは、118くらいまでテンポを落としてプレイしたら、その方がずっと心地良かった。曲そのものもちゃんと聴こえるしね。(スマホのアプリでBPMを確認しながら、エア・ドラムを交えながらフレーズを口ずさんで)……123はかなり速いけど、118でも十分いい感じだろう? この曲は今ではたまにしかプレイしないけど、もし毎晩やっていればもう少しスピードも戻ると思う。でももうすぐ70歳だから大変ではあるよ。僕の足もちゃんと70年モノなんだ(笑)。

    自分からガツガツと叩きにいくんじゃなくて
    ドラム・セットに仕事をしてもらうんだ……サイモン

    影丸:とても素晴らしいプレイでした。70歳近いサイモンさんが、あのテンポでプレイされているだけでも、僕には本当に信じられません!
    サイモン:ありがとう。でも長年プレイを続けていると、楽にプレイする方法が自然とわかってくるんだ。今は昔よりずっと軽いタッチで叩いているので、サウンドも昔とは少し違うかもしれない。今は本当に少ないエネルギーでプレイしているんだ。スティックをすぐにヘッドから離して、ドラムそのものをしっかり鳴らすようにしている。自分からガツガツと叩きにいくんじゃなくて、ドラム・セットに仕事をしてもらうんだ。無理にドラムを鳴らそうとするのは、本当にハードだからね。

    時代と共に進化するセッティングと
    「自分だけのサウンド」の探し方

    影丸:ドラム・セットについてもお聞きしたいことがあります。僕はドラムのセッティングを頻繁に変えてしまうんですが、サイモンさんは一度しっくりくるセッティングを見つけると、長年使い続けられていると思います。それはどうしてなのか、理由があればうかがいたいです。
    サイモン:自分でもよくわからないな(笑)。最後に大きくセッティングを変えたのは、ヒロミ(上原ひろみ)とプレイしていた2013年頃だったと思う。それまでは1975年からほとんど変わっていなかったんだ。1975年、僕は70年代頭に発売されたLudwigのOctaplusというキットを手に入れた。コンサート・タムが8点、バス・ドラムが2つ、そして18”のフロア・タムという構成で、今でもそのキットは持っているけど、しばらくイギリスに置きっぱなしだったんだ。

    92年にアメリカに移住したけど、2012年になってやっとアメリカに運んできたんだ。じっくりと時間をかけてキットを整備して、ヘッドも新しいものに張り替えたところで、レコーディングの案件がやってきたので使ってみることにした。でも実際に使おうとすると、18”の大きなタムは離れた場所に置かなくちゃならなくて、バス・ドラムとタムの間に結構なスペースがあることに気づいた。そこに10”のポップコーン・スネアを置いて、メインのスネアと組み合わせて使うっていうアイディアをかなり気に入ってね。昔からピッコロ・スネアを使っていたっていうこともあって、そういうセットアップに落ち着いたんだ。15”と16”のフロア・タムから脚を外してホルダーに載せているけど、これはOctaplusにインスパイアされているんだ。

    来日公演でサイモンで使用したTAMA STAR Drumの多点セット。

    僕の夢は、サイモンさんのように
    “これは影丸のドラム・セットだ!”と誰もがわかるような
    自分だけのドラム・セットを見つけること……影丸

    当時ヒロミとプレイしていて、彼女のダイナミックなアコースティック・ピアノにマッチしたものを使う必要があった。メイン・スネアだと強過ぎる場面があって、もっとライトなサウンドが欲しかった。このセッティングが本当にうまくハマり、それ以来ずっと使い続けている。もう14年くらい同じセッティングだね。僕にとってはグランド・ピアノのような感覚なんだ。いつも同じセットアップだから安心できるし、スネアを一発叩いたときに、キット全体が共鳴する感じも、実は何よりも大切なんだ。

    影丸:僕の夢は、サイモンさんのように、“これは影丸のドラム・セットだ!”と誰もがわかるような、自分だけのドラム・セットを見つけることなんです。
    サイモン:見つけられるはずだよ。君はいくつなんだい?
    影丸:31歳です。
    サイモン:まだまだ時間はたっぷりあるじゃないか! 大事なのは自分に合ったチューニング、自分のサウンド、自分が気に入るヘッド、必要なものをすべて見つけることだ。そしてときには一度まっさらな状態に戻ってタムのサイズやチューニング、キット全体のレンジのバランスを変えながら、いろいろ試してみることも大切なんだ。ドラム・セット全体を異なるキー(調)として考えてみるのも良いだろう。バス・ドラムを叩くとタムが全部共鳴するだろう? それはB♭かもしれないし、Cかもしれない。もしかしたらGかもしれないけど、ちゃんと音程が存在しているんだ。例えばすべてのタムを3度分高くチューニングしたらどうなるかを考えてみる。もちろんドラムは正確な音程に合わせるような楽器ではないけどね。

    君はロック・バンドでプレイしていると言っていたから、サステインのあるサウンドを好むと思う。どんなシェルでもうまくいくわけじゃないから、“このサイズならこのサウンドで使ってみよう”と1つずつ探していくしかない。そしてタム同士の間での音程差は、僕なら4度か短3度くらいがうまくいく。それ以上離れるとまるで別のドラム・キットみたいな印象になってしまう。これはあくまで僕の考えだけどね。とにかくいろいろと試してみることで、きっと自分なりの答えが見つかるはずだ。それにプレイする音楽にもよるんだ。でも自分のプレイさえ柔軟に変えられれば、自分のシグネチャー・サウンドとドラム・キットはどんな現場にも持っていけるはずだよ。

    アプローチの自由さと
    「多角的な音楽性」を育むスタイル

    影丸:ありがとうございます! まだまだ自分のプレイ・スタイルを探し続けます! 話は変わりますが、僕が初めてサイモンさんのプレイを見たのは、父が見せてくれた1988年のミック・ジャガーの東京ドーム公演の映像なんです。その中で驚いたのが「Honky Tonk Woman」で、普通ならカウベルはドラマー以外のメンバーが担当することが多いと思いますが、サイモンさんはドラムを叩きながらカウベルもプレイしていました。あれはミックさんのアイディアだったのでしょうか? それともサイモンさんご自身の発想だったのでしょうか?初めてあの演奏を観たときの衝撃を忘れられなくて、質問させてください!
    サイモン:僕が勝手にやっただけだよ(笑)。「カウベルがあるのか。じゃあつけて叩こう!」って思っただけなんだ。

    影丸:えぇっ(笑)! それでやってしまうのが超人的ですね……。
    サイモン:リハーサルで面白いことがあってね。ニューヨークのSIR(スタジオ)で何週間もリハーサルをやっていたんだけど、ミックが「“Brown Sugar”をやろう」と言ったんだ。でも僕は曲を勘違いしてしまい、テンポが似ていたこともあって、いきなり「Honky Tonk Woman」を叩き始めてしまった(笑)。そうしたらミックは大笑いしているし、誰も入ってこない。「あれ? どうした?」と思ったら、「それは“Honky Tonk Woman”だよ!」って言われてね(笑)。でもあのカウベルを叩きながらプレイすること自体は、それほど難しくはなかったよ。

    影丸:僕はドラムを始めたばかりの頃、あの映像に憧れて、カウベルを叩きながらドラムをプレイする練習ばかりしていました(笑)。
    サイモン:それはグレイトだね。素晴らしい話じゃないか!

    ドラマーはスケールやコード進行
    ハーモニーや対位法を必ずしも知らなくても構わない
    本当に大切なのは、さまざまな音楽スタイルに対応できること
    ……サイモン

    影丸:お話を直接聞けて本当にうれしいです。あのプレイを見たことがきっかけで、僕はサイモンさんのように、ロックだけでなくジャズやフュージョンなど、いろんな音楽性を自分のスタイルの中に取り入れられるドラマーになりたいと思うようになったと思います。
    サイモン:それってとても大事だと思う。ドラマーはできるだけ多くのスタイルを学び、プレイできるようになるべきなんだ。僕はロンドンで育ったけれど、イギリスのラジオはアメリカとは違っていた。アメリカではジャンルごとに放送局がわかれていたけれど、イギリスではいろんな音楽が一緒に流れていて、自然といろんなジャンルを聴いてプレイするようになった。アメリカほど1つの分野に特化する文化ではなかったんだ。

    ドラマーはスケールやコード進行、ハーモニーや対位法を必ずしも知らなくても構わない。もちろん知っていれば素晴らしいけれど、必須というわけではない。本当に大切なのは、さまざまな音楽スタイルに対応できることなんだ。レコーディングではそれまで身につけてきたあらゆるスタイルを引き出しとして使える。どんなジャンルの曲でも、自分のプレイを柔軟に合わせられるようになる。それこそがドラマーにとって非常に重要なことなんだ。しかもそれは純粋に楽しいことでもある。僕はアイザック・ヘイズ、The O’Jays、ビリー・ポール、Jackson 5と本当にいろんなレコードを聴いて、それに合わせてプレイしながら育った。このことは本当にとても重要なことだった。ファンクやR&Bが大好きだったし、それら音楽を聴いてどういう仕組みでグルーヴが生まれているのかを考え続けたことが今の僕を作ってくれたんだ。


    影丸:お話を聞いているとサイモンさんのルーツ、そして音楽に対する考え方が、ドラムにおいて多彩なプレイ・スタイルに昇華されていることを、より再認識することができました。このたびは貴重な経験をありがとうございます!

    スペシャル・プレゼント|サイモン×影丸直筆サイン入り色紙

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