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Yamaha DTX10の全貌 〜山本真央樹が伝授する Cubase AI活用術!〜

  • Text:Yuichi Yamamoto(RCC Drum School)/Isao Nishimoto(Ⅲ)
  • Photo:Tetsuro Sato(Ⅲ)
  • Movie:Shigeki Azuma Recording:Kenji Kawamura

Ⅳ.TCSヘッド vs メッシュ・ヘッド比較検証

DTX10の大きな特徴の1つが、発泡シリコンを採用したYamaha独自のTCSヘッドと、新たに加わったメッシュ・ヘッドの2種類から選択できるという点だろう。どちらのヘッドにすべきか悩む人も多いかと思うが、ここでは打感、静粛性、表現力の3項目に絞って、両ヘッドを比較検証してみよう!

ラーネル・ルイスはTCSヘッドを絶賛!

DTX10に用いられているパッドは、ウッド・シェル構造となっていて、Yamahaのアコースティック・ドラムと同じ工場で成形/塗装されている。その木材にはYamaha伝統のバーチ材を用い、フィニッシュは“リアルウッド”と“ブラック・フォレスト”の2色から選択可能。その美しい仕上げは、長年アコースティック・ドラムを手がけてきたメーカーだからこそと言えるだろう。フープやラグも同社のアコースティック・ドラムと同じパーツで、バッジの高級感も印象的。さらにメッシュ・タイプのヘッドを外してその中を見てみると、エッジ加工も実に丁寧に施されており、“ノーマルのヘッドを張ればシッカリと鳴ってくれるのでは?”と感じさせるほど、ドラム・メーカーとしての徹底ぶりが伝わってくる。その一方でアコースティック・ドラムと比較して、シェルは浅く設定されているため、電子ドラムのパッドとしてあらゆるセッティングに対応できるようになっている。

XP125SD-X
XP125SD-M

ラインナップは発泡シリコン製のTCSヘッド仕様が3種類、メッシュ・ヘッド仕様も3種類の計6種類。それぞれ12インチのスネア用、10インチのタム用、12インチのタム(フロア・タム)用となっている。各パッドは打面とリムの2ゾーン仕様。近未来的なデザインな先代DTX-PAD(XP120SDなど)は3ゾーン対応となっていたが、実際のところ3ゾーンを使い分ける場面は限られていて、今回試奏してみても“打面か? リムか?”という2ゾーン仕様の方が、アコースティク・ドラムに近づけたバッドとしては自然なフィーリングだと感じた。続いてTCSヘッドとメッシュ・ヘッドの比較検証について触れてみたい。

① 打感

まずメッシュ・ヘッドを試して感心したのは、想像していたイメージよりも自然な打感であったこと。このYamahaロゴのついたREMO社製メッシュ・ヘッドは既製品ではなく、使用する糸の太さや成型時のテンションにこだわって独自開発した2プライ仕様とのことで、“Yamahaメッシュ”独自の打感を作り上げている。そしてチューニング・キーで好みのリバウンド感を調節できるのは、やはりメッシュ・ヘッドのメリットと言えるだろう。

一方のTCSヘッドは、これまでも評価の高かったDTXパッド譲りのナチュラルな打感。メッシュのようにあとからテンションは変えられないものの、デフォルトの打感がとてもバランスが良いので問題はない。ちなみにスネア・パッドとタム・パッドでは、同サイズでもシリコンの厚みや気泡の量を変えて打感に差をつけているとのこと。これもキット全体でバランス良く感じられるポイントだろう。

② 静粛性

続いて電子ドラムに求められる静粛性についてはどうか? これは電源を立ち上げず、パッドの打音だけを音量計測アプリで測ってみると興味深い結果が出た。結論を先に書くと、より静かなのはTCSヘッド。あくまで試奏時に計測した1つの参考値だが、同じ条件で測った際の数値は、TCSヘッドが平均値67.4デシベル(最大値74.1デシベル)、メッシュ・ヘッドは平均値70.4デシベル(最大値:78.2デシベル)であった。実際に叩き比べてみると、メッシュ・ヘッドはあくまでヘッドであり、それなりに“鳴らす”という方向。逆にTCSヘッドの方は“衝撃を吸収する”というイメージであろうか。どちらもアコースティック・ドラムに比べれば圧倒的に静かであり、聴感上の大きな差ではなかったので、極端に悩む話ではないが、1つの目安として記しておきたい。

③ 表現力

試奏時にいろいろな奏法を試してみたが、“どちらかの方が反応が良いor悪い”といった差は、正直感じなかった。両モデルとも当然厳しいチェックを経てきたわけで、フラッグシップ・モデルとして遜色ない表現力を備えている。DTX10、DTX8の製品発表会で、今井義頼氏は“メッシュがいい!”、川口千里さんは“TCSヘッドがいい!”と語っていたのも興味深い。2人とも細かいテクニックからパワフルなフレーズまでを駆使するドラマーであり、その2人の意見が分かれたということは、どちらも優れているという証拠。ちなみに筆者ならばTCSヘッドを選ぶ。厚みと弾力のあるシリコン素材に“面”としての自然な打感を宿し、クローズド・ロールまでを的確に表現できるようにした技術開発の素晴らしさを再確認した。

本記事は2022年1月号のclose up!「Yamaha DTX10 & 8の全貌」に再編集を加え、新規コンテンツを追加したものです。誌面ではDTX10シリーズのさらなる深堀りの他、セッティング考察、開発者のインタビュー、さらに影丸、今井義頼、ラーネル・ルイスの試奏レポートも掲載! ぜひ併せてチェックしてみてください!!