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【Interview】荒田 洸[WONK]

僕が関わってきたアンダーグラウンドの音楽シーンと
日本で広く知られているメイン・ストリームをつなぐ
“ハブ”のような存在になれたらいいなと思う

ブラック・ミュージックが根元にありつつも、ジャンルレスで実験的な音楽性を掲げるエクスペリメンタル・ソウル・バンド=WONK。彼らが去る6月リリースした新作『EYES』は、キャッチーさを残しつつも洗練されたサウンドが追求され、近未来的な世界観で壮大なストーリー性のある作品に仕上がっている。このコンセプトを考案しアルバムとして制作することを提案したのが、バンド・リーダーでもあるドラマーの荒田 洸だ。ソロとしても活動しつつ、ジャズやヒップホップなどの音楽シーンから香取慎吾やCharaとの制作まで多彩な音楽制作に携わってきた彼が、今作のビートに昇華したものとは?

WONK以外の活動でライヴをしたり
楽曲提供をしたことは今作にも生かされた

●新作『EYES』を発表するまでに、前作のフル・アルバムをリリースしてから3年が経ちましたね。

荒田 前作は同時に2枚出しているんですよね。ものすごい曲数を作ってしまったことによって、“もう曲を作りたくない”っていうフェーズがしばらく続いたんです(笑)。それと、今まで自分達がやったことのない制作方法にチャレンジしたくて、“次の作品を出すとしたらどういう手法で作ろうかな”と模索していたら、リリースまでは結局このぐらいかかりましたね。

●今作は、荒田さんが考えた映画のサウンド・トラックという切り口で制作を始めたんですよね?

荒田 ざっくりとしたストーリーの土台は僕が考えて、その世界観で起こるいろいろな物語を作品にしたいと提案したんです。そのあとに脚本として細かいところを詰めてくれたのはベースの(井上)幹さんでした。

●少し話が前後しますが、アルバム・リリースまでの3年間で、バンドとして香取慎吾さんや堀込泰行さん、King Gnuなど多彩なフィールドの方々の制作に携わったことも、今作に影響を与えたのではないでしょうか?

荒田 バンド以外の人と一緒にライヴをしたり、楽曲提供したことで、自分の制作スキルが上がって、今作にも生かされたなというのが結構あって。基本的にメンバーの全員がDAWを使って作曲することができるんですけど、DAWでの音作りやビートの打ち方に関してもすごく良くなっているなっていう印象があるので、いろいろな人との制作の中で学ばせてもらえたのは、僕含めメンバー全員にとってすごく大きかったです。

4th Album『EYES』
EPISTROPH/Caroline International
POCS-23906
WONK(R→L):井上幹(b)、長塚健斗(vo)、荒田洸(d)、江﨑文武(key)

●荒田さん個人としてもソロ作品『Persona.』をリリースする他、ヒップホップ・シーンのアーティストのバンド・マスターや、iriさんやCharaさんのサポートとしてもさまざまに活動していますよね。

荒田 そうですね。自分にとってかなり大きな糧になった印象があります。例えば、Charaさんとの共作として自分が参加させてもらった曲(「愛する時」)は、初めから全部2人で作ったんですけど、彼女の制作に対する姿勢からいろんなことを学んだり、機材選びやフレーズ作りに対するこだわりの深さにも気づかされました。あとは、人の話を汲み取る能力は身につきましたね(笑)。Charaさんは曲のイメージについて「もっと赤いハイヒールを履いてる女の子みたいに!」とか唐突に言うんですよ……“俺の中では赤なんだけどなこれ”って(笑)。

●制作スキルの他にも習得できたことがあったのですね(笑)。ドラムに関してはいかがですか?

荒田 ドラムについては、ヒップホップ界隈の人達のバンド・サウンド作りを任せてもらうことが多かったですね。その中でドラムのフィールやサウンド・メイクをより突き詰めていって、ヒップホップに寄せたグルーヴ感をより出せるようになった気が最近はしています。沖縄のラッパーの唾奇のバンドや、Jazzy SportのISSUGIさん、KANDYTOWNのIO君と一緒にやったことが今の自分のドラムにも生きてるのかなと思いますね。

●確かに今作は以前と比べてもヒップホップ要素の濃いビートが多いように感じられました。

荒田 そうですね。例えば、トラップ・ビートはもともと詳しくなかったんですけど、IO君のバンドを通して、そういったビートの打ち方の特徴や流行を肌で感じることができたと思います。それと、ISSUGIさんのバンドでの経験で得たものもあります。昨年『GEMZ』というアルバムを出してるんですけど、バンド・メンバーにはビート・メイカーのBUDAMUNKさんもいらっしゃって、彼の出すグルーヴ感を、僕が生のサウンドへ置き換えたりする作業を通して、“ヨレ”のグルーヴ感を追求できたり、唾奇で一番学んだのは“ヨレるんだけどポップ”っていう絶妙なラインを突くようなライヴでのドラミングを習得できたり、三者三様でいろんなことを学ぶことができたのはすごく良いきっかけだったなと思いますね。

●今作の作曲段階のお話もうかがいたいのですが、EP『Moon Dance』の楽曲や配信シングル「Signal」は、先行リリースされましたよね? その当時からアルバム全体の構想は固まりつつあったのでしょうか?

荒田 固まっていましたね。アルバムの予告編という立ち位置でした。『Moon Dance』を作っている段階ではほぼ脚本は出来上がっていましたね。そこから全体の流れを何分割かして、担当を決めたんです。今回はムード・ボードとストーリー・ボードというのを作って、ムード・ボードにはメンバー内で楽曲イメージを共有しやすいように、1つ1つの分割されたセクションについてのイメージを絵や写真にして、貼っていったんです。それぞれのストーリーの流れと、ムード・ボードにあるビジュアル・イメージを照らし合わせて、作曲が始まりました。担当が作ったデモに、他のメンバーそれぞれが自分のカラーを混ぜていくようにアレンジしていって、最後はみんなで清書していきましたね。僕が作るときはまず、その場面で主人公がハッピーなのか、浮かれているのか、悲しいのかとか、感情を理解しつつ曲の雰囲気も掴んで、そこに合うような曲を作るっていうような作業工程でした。

●そのムード・ボードのビジュアル・イメージというのは、アルバムに付属されているアート・ブックのビジュアルにもつながっているんですか?

荒田 そうですね。ムード・ボードのリファレンスをもとに、今回のアート・ブックのビジュアルもストーリー性にマッチするようにアレンジしていきました。