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    【芳垣安洋のドラム・ノーベル賞!第192回】ハービー・ハンコック 〜ファンクとジャズの共存における変革〜 Vol.3

    • Text:Yasuhiro Yoshigaki

    【第192回】ハービー・ハンコック 〜ファンクとジャズの共存における変革〜 Vol.3

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    1974年になり、ハンコックはバンドの2作目『Thrust(スラスト/突撃)』をリリースすることになります。基本的にはアルバム『Head Hunters(ヘッドハンターズ)』のメンバーで、同様のファンク路線を継承するのですが、ドラマーがハーヴィ・メイソンからマイク・クラークに変わったこと、そしてパーカッションのビル・サマーズの存在感がグッと強まったことでサウンドが若干タイトになっているように聴こえます。

    このアルバムも、前作『Head Hunters』と同様長尺の曲をレコードの片面に2曲ずつで構成され、特徴的な4つの曲になっています。1曲目の「Palm Grease」はシンプルなリフを繰り返すパートと、ベースやドラムが自由に変化するパートを行き来する形に作られています。ハンコック自身も、いわゆるジャズ的なアドリブを展開するというのではなく、ベースやドラムと共に少しずつ変化をしていくことでバンド全体の音楽が変化していくようにアプローチしています。2小節でひとかたまり、その2小節目の2拍目にフッとブレイクが来る、独特なドラムのリズム・パターンと、たまに入るシェケレの組み合わせ。転調するとパーカッションがアゴゴベルなどを使ってリズムを変化させる。このタイトなリズムの作り方は現代のポップスにも通じる手法とも言えますね。後半でベースの音数が増え、ドラムが定型パターンから外れ、パーカッションがコンガに移りハンコックも少しづつアドリブ的な演奏になっていきます。

    これに対して2曲目の「Actual Proof」では、かなりアグレッシヴで即興的なシンコペーションが効いたドラムとベースで最初から最後まで押し切っています。

    LPでいうB面の1曲目は、後々まで時々他のアルバムでも取り上げていた「Butterfly」。16ビート的なバラードともとれる曲で、あとにはそういった演奏もしているのですが、ここではドラムが素直にバック・ビートを入れているように聴こえないパターンに終始し、途中マイク・クラークの得意な細かい音符を使ったパターンで倍のテンポに移行していったり……などなど、ただのファンクでは終わらないぞという気持ちが見え隠れします。

    そして間髪入れずに、スライやタワー・オブ・パワーにも通じるファンク・チューン「Spank-A-Lee」へと入っていきます。キーボード、ベース、ドラム、どれもが16分音符を埋め尽くすように絡み合うリズムなのですが、見事にグルーヴしていますね。

    2枚のアルバムをリリースした後、ハンコックはリーダーとしてバンドを率いる形ではなくなり、ヘッドハンターズもハンコック以外のメンバーでの活動を行うようにもなります。そのような状況で、ヘッドハンターズのメンバーを中心に最後に作られた75年リリースのハンコックのアルバム『Man-Child(マン・チャイルド)』は、今日のさまざまなファンク/フュージョンの作品の雛形とも言えるゴージャスなアルバムです。即興的にバンド・サウンドが変化していく手法は取らず、バック・ビートがしっかりとキープされ、ベースもパターンの繰り返しを守り、そしてついにギタリストを加えて、ポップな形で楽曲を構成しています。一部では商業主義に走ったという批評も出たそうですが、何しろ今聴いてもカッコいいと思えるゴージャスな作品になっています。

    ジャケットの表記だけでは誰がどの曲なのか判断できないのですが、ドラムは、マイク・クラーク、ハーヴィ・メイソン、ジェームス・ギャドソンの3人が参加し、叩き分けています。ベースはポール・ジャクソンとクインシー・ジョーンズの秘蔵っ子と言われたルイス・ジョンソン。豪華なホーン・セクションだけでなく、ウェイン・ショーターやスティーヴィー・ワンダー(ハーモニカ)などのビッグ・ネームのソロなども散りばめられ、この時代はコンピュータを使っての音楽制作などができなかったので、メンバーを見るだけで随分とお金をかけたアルバムだということもひしひしと感じたりもします。

    ハンコックが起用したギタリストは、当時の黒人音楽界では超売れっ子スタジオ・ミュージシャンの、ワウ・ワウ・ワトソンとデヴィッド・T. ウォーカーでした。このアルバムからは特に1曲目の「Hang Up Your Hang Ups」がヒットしました。この曲はある意味ファンク・ジャズ期のハンコックの代表曲でもあり、77年にアコースティック・ジャズに回帰するきっかけとなったハンコックの、さまざまな過去のバンドを集めて行われたライヴを収録したアルバム『V.S.O.P』のエレクトリック・バンド・デイの演奏でも取り上げられています。このときの演奏が好きだというファンも多いみたいですね。

    一方、ハンコックと別に活動を始めたヘッドハンターズは75年に『Survival Of The Fittest』という作品を発表します。ハンコックとの『Thrust』とは対照的にストレートなブラック・ファンク色を前面に押し出し、ベースのポール・ジャクソンをリード・ヴォーカルに、メンバーがバック・コーラス(ゲストにポインター・シスターズが参加)を務め、ギターにブラックバード・マクナイトをメンバーに加え、直球のソウル・ナンバーやプリミティヴなビートを取り上げました。

    1曲目の「God Make Me Funky」は当時かなり話題になったリズム・パターンで、サンプリングで音楽が作られる時代になってからさまざまな有名な人達がサンプルとして使ったことでも有名になりました。スライ&ザ・ファミリー・ストーン同様に黒人のベーシストと白人ドラマーとの組み合わせによるファンクの妙というのがここにもありましたね。他にも、ファンク・ビートとプリミティヴなアフリカ的なリズムやブラジル・テイストを組み合わせた曲「Music」「If You’ve Got It, You’ll Get It」も魅力的な曲です。

    90年代にポール・ジャクソンとマイク・クラークの2人によるリズム・クリニックの教則ビデオが出ていたのですが、再発されないですかね。他にも74年頃のハンコックと共に演奏するヘッドハンターズの映像もYouTubeで見ることができるので、ぜひ体感してほしいと思います。

    ということで、今回はヘッドハンターズ。ブラック・ファンク・ジャズの真髄は黒人と白人の混合リズム・セクションにドラム・ノーベルを。

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    ◎Profile
    よしがきやすひろ:関西のジャズ・シーンを中心にドラマーとしての活動を始める。モダンチョキチョキズ、渋さ知らズなどのバンドに参加後上京。民族音楽/パーカッションなどなどにも精通し、幅広いプレイ・スタイルで活躍している。菊地成孔やUA、ジョン・ゾーン、ビル・ラズウェルなど数多くのアーティストと共演し、自身のバンドであるOrquesta Libre、Vincent Atmicus、Orquesta Nudge!Nudge!をはじめ、ROVOや大友良英ニュー・ジャズ・クインテットなどでも活動している。ジャンルやスタイル、国籍などを取り払い、ボーダレスに音楽を紹介するレーベル=Glamorousを主宰している。

    ◎Information
    芳垣安洋 HP Twitter