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Drummer’s Disc Guide – 2023 Summer

Summer 2023

【A】=アルバム 【M】=ミニ・アルバム 【E】=EP 【V】=DVD、Blu-ray


【A】SRT – シノウィック、ロビンソン、トウン『ヴァンガーズ・オブ・グルーヴ

d:ジョン“JR”ロビンソン

気を衒わない無駄のないプレイは
まさに良いドラマーのお手本

“Less is More”……まさにジョン“JR”ロビンソンのドラムを表現するのに最も適切な言葉だろう。以前JRのレコーディングを間近(同じヘッドフォン・モニター)で体験したとき、シンプルなのになぜこれほどまでに魅力的かつ心に響くのかと不思議でならなかった。その彼が今度はオルガン・トリオを結成した。本作はいわゆるインスト・アルバムにありがちな難解なキメやフレーズは皆無。シンプルなドラムがギターとオルガンを根底から支え、際立たせている。アンドリュー・シノウィックとミッチ・タウンは初めて聴いたが、その魅惑のサウンドと確実なテクニック、大胆でかつ繊細なプレイは素晴らしい(特にオルガンの左手だろうと思われるベース・プレイは圧巻)。何はともあれジョン“JR”ロビンソンの気を衒わない無駄のないプレイがこのバンドの質を上げている、まさに良いドラマーのお手本だ。「歌モノだろうがインストだろうが曲に魂を宿らせるのは同じ」……JRはきっとそう言うに違いない。6月の来日公演が楽しみだ。(江口信夫)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ジョン“JR”ロビンソン(d)、アンドリュー・シノウィック(g)、ミッチ・タウン(org)

発売元:Pヴァイン 品番:PCD-26099 発売日:2023.06.14

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【A】Steve Smith & Vital Information『Time Flies』

d:スティーヴ・スミス

テクニックが芸術の域まで昇華された
“スティーヴ・スミスここにあり!”

スティーヴ・スミスを知ったきっかけは、ジャーニーではなくVital Informationだった記憶が……。そりゃ40周年に納得と驚きです。フュージョン色の強い印象のバンドでしたが、今回はジャズ、アコースティック要素が大きく占めており、音源からも繊細なタッチがよりクリアに聴こえます。スティーヴ・スミスと言えばルーディメンツの正確さ、綺麗さが際立ちますが、随所にあるドラム・ソロではそこに時折フックの効いた奇数割りや連符を入れてきてめちゃくちゃ痺れます。ブラシの名手としても有名ですが、このアルバムでは存分にブラシ・プレイを聴くことができるのも最高です。今回のアルバムを一聴すると、“年月が経ち大人しく(丸く?)なったのかな”と思いきや、テクニックがさらに芸術の域まで昇華され、まさに“スティーヴ・スミスここにあり!”と言わんばかりの作品に仕上がっていると感じます。何食べたらこんなドラム叩けるんやろ……。(影丸/-真天地開闢集団-ジグザグ)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】スティーヴ・スミス(d)、マイク・マイニエリ(vibraphone)、ヤネク・グウィズダーラ(b)、マニュエル・ヴァレラ(p、key)、ジョージ・ガゾーン(sax)

発売元:輸入盤(配信リリース中) 発売日:2023.05.05

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【A】ジョン・マクラフリン、シャクティ『ディス・モーメント』

per:ザキール・フセイン/V.セルヴァガネーシュ

現在のインドの若手ミュージシャンの
圧倒的なポテンシャルを顕在化

ジョン・マクラフリン率いるシャクティの46年ぶりのアルバムということだが、ここにはバイオリンのシャンカールも、ガタムのヴィックもいない。しかし、むしろそれが現在のインドの若手ミュージシャンの圧倒的なポテンシャルを顕在化しているのだ。ちなみに、カンジーラ、ガタム、ムリダンガムを演奏しているセルバガネーシュ・ヴィナヤカラムはヴィックの息子であり、1988年のリメンバー・シャクティに参加している。もちろん、ザキール・フセインは変わらずすさまじいのだが。そしてマクラフリンのソングライティングもかなりポップなものに。緊張感バリバリのセッションと言うよりは、余裕で明るいチューンを楽しげに演奏している感じ……に一瞬聴こえるのだが、やっぱり超絶。カンジーラがフィーチャーされることで、低音のウネりによるグルーヴ感が増して一瞬ダンサブルかと思えるのだが、やっぱりこんな拍子で踊るのは大変だろうなぁ。マクラフリン御大の健在ぶりも頼もしい。(岡部洋一/ROVO、Orquesta Libre、etc.)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ザキール・フセイン(tabla、konnakol)、V.セルヴァガネーシュ(kanjira、mridangam、ghatam、konnakol)、ジョン・マクラフリン(g、synth)、シャンカル・マハデーヴァン(vo、konnakol)、ガネーシュ・ラジャゴパラン(vln、konnakol)

発売元:Abstract Logix/AGATE  品番:AGIPI-3780 発売日:2023.06.23

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【A】ブルーズ・ザ・ブッチャー『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』

d:沼澤 尚

すべての音に意味やストーリーがあり
雄弁さと作為的でないことを両立

ブルーズ・ザ・ブッチャーにとって4 年ぶり通算第10作目になる本作。マディ・ウォーターズにフォーカスした今回のアルバムも、聴く人間にブルーズの新たな一面を魅せてくれる作品になっている。正直、沼澤さんの神がかり的な演奏に対して自分が何かここに書くのはとても恐縮で、それよりまずアルバムを聴いてほしいというのが本音である。しかし、あえて何かに着目するのであれば、アルバム1 枚を通じてすべての音に意味やストーリーがあり、それらが聴き手に対して雄弁に語りかけてくるにも関わらず、そこに作為的な印象が皆無である点に着目したい。楽器を演奏する方なら特にご理解いただけると思うが、この雄弁さと作為的でないこととの両立は、次元の違う世界で演奏している何よりの証拠である。日常と音楽がどこまでもシームレスにつながり、ドラムを完全に言語のように操ることのできる沼澤さんだからこそできる表現の応酬に、聴き手は必ず衝撃を受けるだろう。みなさんにもこのアルバムをぜひ体感していただきたい。(高橋 武/フレデリック)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】沼澤 尚(d)、中條 卓(b)、KOTEZ(harp、vo)、永井“ホトケ”隆(vo、g)

発売元:Pヴァイン 品番:PCD-18904 発売日:2023.06.21

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【A】Dave Lombardo『Rites of Percussion』

d:デイヴ・ロンバード

ほぼ打楽器のみで構成された
圧巻のサウンドスケープ

40年を超えるキャリアにして初となるソロ・アルバムは、ドラム・セットを核に、ティンパニ、コンガ、ティンバレス、ジャンベ、マラカス、シンフォニック・ゴングなどなど、さまざまな打楽器が折り重なるドラムとリズムにフォーカスした作品となった。“ドラム・アルバム”がコンセプトのようで、ほぼ打楽器のみで構成されたサウンドスケープは圧巻の一言。縦横無尽なドラミングが痛快な「Journey of the Host」があるかと思えば、ピアノと金モノで恐怖映画のサントラのような不穏なサウンドを奏でる「Interfearium」、トライバルなリズムが躍動し、昂揚感を煽る「Warpath」など、サウンドのバリエーションも豊富で、その飽きさせない手腕も見事。(竹内伸一)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】デイヴ・ロンバード(d、per、etc.)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2023.05.05

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【A】井上 鑑『RHAPSODIZE』

d:山木秀夫

難攻不落な楽曲達を滑らかに
聴かせる山木のドラミング

2017年に発表された『OSTINATO』以来、約6年ぶりのリーダー作。言うまでもないが、今作も神々しくさえ感じる大人の至極の作品。安定のギター/ベース/ドラムの神スリーがガッチリと、また至上の演奏で井上さんの高尚な世界観を具現化している。そんな山木さんは1台のスネアで音色を使い分けたり、クローズド・リム・ショットの音色に変化をつけたりして、変拍子で深く壮大な楽曲に効果的に彩りを添えている。また楽曲に合わせたチューニングも神がかっているし、楽曲に対するアプローチとセンスは恐ろしささえ感じられる。難攻不落な井上ワールドの楽曲達を、実に滑らかに奏で、聴かせられるのは山木さんしかいないと実感する作品です。(長谷川浩二)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】山木秀夫(d)、三沢またろう(per)、井上 鑑(vo、key、etc.)、高水健司(b)、今 剛/土方隆行/デヴィッド・ローズ(g)、山本拓夫(sax)、西村浩二(tp)、村田陽一(tb)、吉田美奈子(vo)、他

発売元:ソニー 品番:MHCL-10159 発売日:2023.04.26

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【A】Billy Valentine『Billy Valentine & The Universal Truth』

d:エイブ・ラウンズ/ジェームス・ギャドソン

空気を含んだ2人のグルーヴの中に
音楽を表現する大切さを再認識

VALENTINE BROTHERSとしても素晴らしいソウル・アルバムを残しているビリー・ヴァレンタインがソウル〜ジャズの名曲をカヴァーしたアルバムをリリース! 参加ドラマーはブレイク・ミルズ&ピノ・パラディーノの来日の際にも話題、西海岸若手スタジオ・ドラマーとしても大活躍のエイブ・ラウンズ! もはや新旧師弟関係と言っても過言ではない伝説、ジェームス・ギャドソン! 緩やかなグルーヴの中に、ここでしか落とし込めないポケットにグルーヴを生み出す2人のドラミングは、“グリッド”などでは言い表せない空気を含んだグルーヴの中に、いかに音楽を表現できることが大切なのかを再認識させられる。まさに極上のアルバムです!(神谷洵平/赤い靴)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】エイブ・ラウンズ/ジェームス・ギャドソン(d)、アレックス・アクーニャ(per)、ビリー・ヴァレンタイン(vo)、ピノ・パラディーノ/リンダ・メイ・ハン・オー(b)、ジェフ・パーカー(g)、ラリー・ゴールディングス(p)、イマニュエル・ウィルキンス(sax)、アンバー・ナヴラン(fl、cho)、他

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2023.03.24

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【A】スピッツ『ひみつスタジオ』

d:﨑山龍男

鋭さと温かさを備えたドラムが
スピッツの“らしさ”を生む秀逸な音作り

ドラム専門誌として振り切りますが、聴いている最中から“この曲を叩いてみたいな!”とワクワクするナンバーの連続。“生ドラムの楽しさ”がうれしいくらいに詰まったアルバムです。誰もが叩けそうなバッキングに徹しても、グッと攻めのフィルを入れてくる場面でも、鋭さと温かさをバランス良く備えた﨑山さんのプレイが、スピッツの“らしさ”を生むのだとあらためて感じました。またドラムのサウンド・メイクも秀逸。基本となるカラーは貫きつつ、曲ごとのサウンドに適した緻密なコントロールで各曲の世界が彩られています。配信全盛の時代ではありますが、ここまで完璧なフル・アルバムとなると、“盤”として手元に大切に所持したくなりますね。(山本雄一/RCCドラムスクール)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】﨑山龍男(d、per、clap、vo)、田村明浩(b、vo、clap)、三輪テツヤ(g、vo、clap)、草野マサムネ(vo、g、clap)、今野均(vln)、皆川真人(p、key)、斎藤有太(org)、菅家隆介/西村浩二(tp)、山本拓夫(sax)、他

発売元:ユニバーサル 品番:UPCH-2256 発売日:2023.05.17

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【A】Billy Childs『The Winds Of Change』

d:ブライアン・ブレイド

各メンバーのアドリブ演奏が素晴らしく
ブライアンも見事なアプローチ

作曲家としても特異な才能を持ち、幾度もグラミー賞を受賞してきたピアニスト、ビリー・チャイルズの最新作はNYの最重要ミュージシャン達によるオールスター的なカルテットです。サウンドが、80~90年代のいわゆる新主流派と呼ばれたジャズにもつながるような楽曲が多く、魅力的だったあの時代のジャズのことを思い出しました。メンバーそれぞれのアドリブ演奏はもちろん素晴らしくて、ブライアンも見事なアプローチを聴かせてくれますが、構成やダイナミクスの起伏に富んだ楽曲、そしてそれを十分以上に表現するメンバーの、アンサンブル力のバランスに感心してしまいました。シンプルなメロディを吹くときのアキンが素晴らしかった。(芳垣安洋/Orquesta Libre、On The Mountain、etc.)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ブライアン・ブレイド(d)、ビリー・チャイルズ(p)、スコット・コリー(b)、アンブローズ・アキンムシーレ(tp)

輸入盤(配信リリース中) 発売日:2023.03.17

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【A】ゴーゴー・ペンギン『エヴリシング・イズ・ゴーイング・トゥ・ビー・O.K.』

d:ジョン・スコット

ジョンがプレイする楽曲や楽器から
前任ドラマーへの敬意と愛を確認

メンバー交代とレーベル移籍を経てリリースされた、初のフル・アルバム。前任のロブ・ターナーとは、音楽と楽器について直接じっくり話す機会が持てたこともあって、複雑な思いがありましたが、楽曲を聴いて、楽器を見て、敬意と愛がちゃんと存在していることが確認できました。Matt Nolanのハイハットを偶然使うなんてことは、まずありえないですからね。印象的だったフット・ダンパーつきのライド・シンバルはなくなりましたが、トーンの絞り込みや、アドオン・ツールによる装飾、スネア/ハイハット/キックの複数配置など、いくつかの重要な要素も引き継がれています。レーベルのカラーもしっかりしているので、これからどのように変化していくかがとても楽しみです。(山本拓矢/bohemianvoodoo)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ジョン・スコット(d)、ニック・ブラッカ(b)、クリス・アイリングワース(p)

発売元:ソニー  品番:SICJ-30034 発売日:2023.04.12

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【A】ダニー・マッキャスリン『アイ・ウォント・モア』

d:マーク・ジュリアナ

ジュリアナの直線的なビートも冴える
健康的で肉体的なアルバム

確かに事実としてそうなのであるが、“デヴィッド・ボウイの『★(ブラックスター)』レコーディング・メンバー再集結!”との宣伝文句は、これ逆効果なんじゃないかしらんと思うくらいの健康的で肉体的なアルバム。作り込みや芸術性というよりも、“ラフいアイディアを元にスタジオ入って衝動で録りました”みたいなM1や、曲タイトルからしてすでに深いこと考えてなさそうなM4は、何かもう頭振りたくなるくらいサイコーに痛快な出来でしたし、タイトなグルーヴと大味な倍テンがとにかく踊れて、やっぱりタイトルが若干アレなM6には、我が愛しのソフト・マシーン(中期)みを感じるので俺は大満足。ジュリアナ先生もいつになく直線的なビートを、そら楽しそうに叩いておりますぜ。(庄村聡泰)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】マーク・ジュリアナ(d)、ダニー・マッキャスリン(sax、fl)、ティム・ルフェーヴル(b)、ジェイソン・リンドナー(syn、key)、他

発売元:AGATE 品番:AGIP-3776 発売日:2023.05.19

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【A】若井優也『Poem』

d:石若 駿

ピアニストの心情を汲み取ったような
ハーモニーやソロと溶け合うドラム

近年活動を続けている、若井優也のレギュラー・トリオによる最新録音。冒頭から石若氏の美しいシンバルのタッチに耳を奪われる。まるでピアニストの心情を完璧に汲み取ったかのように、ハーモニーやソロのラインと溶け合うドラミング。絶妙に寄り添いながらも、ツボを心地良く押し続け、刺激と広がりを与える。メンバー全員が持ち寄った楽曲達は、いずれも聴き手の体内にスッと入り込んでいくように自然で美しい。屈指のクリエイティヴィティを持つ3人の奏でる音は、もちろん高度な技術と知識に裏づけされたものではあるが、しかし、それは豊かな感性と相まって音楽が音楽らしくあるためなのだと。M4後半の展開の作り方に思わずため息が出てしまう。(横山和明)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】石若 駿(d)、若井優也(p)、楠井五月(b)

発売元:Days of Delight  品番:DOD-034 発売日:2023.04.13

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