UP

Archive Talk Session−ジェームス・ギャドソン✖️沼澤 尚

  • Interpretation:Akira Sakamoto
  • Interview:Rhythm & Drums Magazine
  • Photo:Ichigo Sugawara

昨日6月17日はキング・オブ・グルーヴ=ジェームス・ギャドソンの誕生日。今年で82歳を迎えるが、今もバリバリの現役! ハリー・スタイルズやジョン・バティステなど音楽シーンの最先端を走るアーティスト達がその無二なるグルーヴを求めてオファーする、まさに生ける伝説だ。ここではあの魅惑のビート&サウンドについて語った、愛弟子である沼澤 尚との2013年1月号の対談を再掲載! グルーヴするためのヒントが満載!!

メンバーはそれぞれ特定のパターンを持っている
それを把握して、彼らの感覚が理解できれば
演奏を心地良くドライヴさせながらある種のタイムをキープできるんだ

沼澤 あなたの家に練習しに行って最初に言われたのが“ONE IS THIS BIG”ということでした。最初は何のことかよくわからなかったのですが、少しずつわかってきたような気がします。最初に“ONE IS THIS BIG”と言ったことは覚えています?

ギャドソン そのことは覚えているよ。もちろん君は知っていると思うけど、ドラマーというのは、バンドの主導権を握らなきゃならないわけだ。“ワン”の感じ方は人によって違う。だから“ワン”は大きいと言ったんだ。

沼澤 なるほど。テンポは同じでも……。

ギャドソン そう。みんなで自由に演奏しているように聴こえるときでも、クリックが鳴っていたら、みんなはそれに合わせていなくても、ドラマーだけはそれに合わせなきゃならない。そして録音したものを聴き返してみたときに、みんな何となく合っていないといけない。だから“ワン”は大きいと言ったんだ。他の連中が好きに演奏していても、ドラマーは違う。なぜなら、ドラマーがタイムを決定しなきゃならないからだ。とにかくドラマーは状況によって他で何が起こっていようと自分のプレイに集中しなきゃならないんだ。

沼澤 確かにそうですよね。自分がビートの位置を“ここだよ”って示していく役割を果たさなきゃならないわけですから。ただ今、”自分のプレイに集中する”と言いましたが、あなたは他のミュージシャン達の演奏をよく聴いていると思います。ただし、それは彼らの演奏に“合わせる”のではなく、彼らと“一体になる”ような聴き方ですよね。つまり音楽の主導権を握りながら、あたかもみんなに合わせているかのように演奏しているということでしょうか?

ギャドソン ああ。それは私が長年に渡って“聴く”訓練をしてきたからだと思う。“聴く”というのは、一緒にやってるミュージシャンがプレイしている内容を理解するためにも重要なんだ。ドラマーはバンドの中で最も支配的な地位を確保しなきゃならない。それによって、他のミュージシャンが自由にやれるわけだからね。ただ、自由にやるといっても、各人にはそれぞれ特定のパターンがあるんだ。本人は気づいていないかもしれないけれど、みんなはある種パターンに従って演奏している。それを把握して、彼らの感覚が理解できれば、演奏を心地良くドライヴさせながらある種のタイムをキープできるんだ。みんなは自分が感じたままに演奏するから、ポケットを外すこともある。

沼澤 演奏をリードしながら、周りの状況もキャッチして、誰かがポケットを外しても、自分のプレイに引き込むわけですね?

ギャドソン その通り。

沼澤 僕がいつでもできたらいいなと思ってることが、まさにそれなんです。共演者にはやりたいようにやってもらいつつ、放っておくのではなくて、一緒に演奏している状況に持っていく。レコーディングやライヴで演奏している最中に、共演者が外れていこうとしたときも、完結させなければならないわけですから、その人と一体になりながらも、“そっちじゃないよ”という意思を伝えられるということですよね。

ギャドソン うん、外れたメンバーをポケットに戻してあげなきゃならないんだ。

●“ポケット”の重要性はステージでもおっしゃっていましたが、そもそも“ポケット”とは何なのでしょうか?

ギャドソン “in the pocket”ってよく使うけど、“You are setting the mood.”(=雰囲気を決めている)と言い換えることもできる。どんなリズムにも何らかの“ポケット”がある。それは特定のテンポと特定のフィールだ。ある曲を演奏するとしよう。例えばこんな感じだ(と言って太ももを叩き、足でリズムを取る)。今プレイしているこのリズムを少し速くしたり、あるいは遅くしたりするときに、リズムに“テコ入れ”しなきゃならない場合がある。リズムの鼓動を強調するためにね。“テコ入れ”というのは、リズムにちょっとした“間”を持たせるということさ。例えば同じシャッフルでも、テンポを上げたときにちょっと違うプレイをする。リズムの基盤を一緒にする……“オーラ”、つまり雰囲気を保つためにね。大切なのは“フィール”で、“フィール”をキープするために、テンポを速めに、あるいは遅めにしたときには、少しプレイの方法を変える必要があるかもしれないんだ。リズムには“フィール”がつきもので、そこにはたくさんのポケットがある。それで、テンポを変えたときには、そのリズムの躍動感をキープする必要があるわけさ。

沼澤 なるほど。それはつまりその“フィール”を感じ取ることができなければ、ポケットの調節はできないということですよね?

ギャドソン そうだね。あるいは、自分でそれを確立しなきゃならない……ワカルカナ?

沼澤 言葉では理解できますが、実際にできるかどうかというのはまた別の話ですよね。

ギャドソン そのためには、自信を持つことが大切だよ。たとえ自分がリードできなくて、周りについていかなきゃならないような状況であっても、ドラムが支配力を持っていることに変わりはないんだからね。自信が大切さ。

●ブルーズ・ザ・ブッチャーが演奏しているとき、ギャドソンは沼澤さんのシャッフルを聴きながら手拍子をしてたんですが、その手拍子がまさにポケットをついているように感じました。

沼澤 それが “in the pocket”なんだと思います。それは自分の演奏に合わせているんじゃなくて、僕らの演奏を聴いて感じたものを、「ここだよ、俺は」っていうふうに示していて。必ずしも自分のプレイが “in the pocket”だったとは限らないけど……。

ギャドソン プレイが “in the pocket”していなければ、私も手拍子を打つことはできない。オーディエンスがリズムに合わせて身体を動かすのは、そのリズムを感じているからなんだ。私が手拍子を叩いたのは、タカが私にポケットの位置を伝えたからさ。

●ポケットの位置というのは、空気を通して伝わるものだと思いますが、ギャドソンがプレイすると、空気が変わるのを感じるんですよ。

ギャドソン フィールが伝染するわけだね。

沼澤 空気のヴァイヴレーションというか。

ギャドソン まさにヴァイヴ。正しいヴァイヴを起こせば、それはみんなに伝わるんだ。

沼澤 それも言葉では簡単に表現できても、どうすれば実行できるのかを説明するのは難しいですよね。自分にそれができているのかどうかを確認するのも難しい。

ギャドソン できているかどうかは、自信の問題だよ。自分で何をやっているかがよくわかっていなければ、“よくわかっていない”ということが相手に伝わっちゃうからね。

沼澤 確かにそうですね。自分がよく考えるのはまさにそれです。そのドラマーが本当はとても優秀なのに自信が持てないことで実力通りの演奏ができなくなってしまったり。逆に本当に自信を持って臨んだことで、たとえ上手じゃなくてもきちんとグルーヴを伝えることができる。

ギャドソン その通りだと思うよ。

●自信を持ってプレイするため必要なのは、やはり経験なんでしょうか?

ギャドソン 自信はあくまでも、内面から出てくるものだよ。自信の持てない人というのは、心で感じたものを表現できない。心じゃなくて、どうしても頭で考えたことをやってしまう。心で感じたものじゃなければ、相手には伝わらないんだ。テクニック的に高度なことができるからと言って、グルーヴが良くなるわけじゃない。テクニックを見せるのは、何かを宣言するようなもので、グルーヴを生み出すこととは違う。グルーヴというのは催眠術みたいなもので、自分がリラックスした状態で演奏できるようになると、みんながそれに合わせて身体を動かし始めるんだ。