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    【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯6 〜DW-SL1465SD〜

    • Photo & Text:Takuya Yamamoto
    • illustration:Yu Shiozaki

    第6回DW Collector’s Steam Bent Solid Maple Snare Drum 14″×6.5″(DW-SL1465SD)

    ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は単板シェルのスネア・ドラムについて考察しつつ、博士が気になった逸品を紹介していきます!

    いつもご覧いただき、ありがとうございます!おかげさまで第6回ということで、0.5周年を迎えました。新たなサービスが登場しては消え、そうそう1周年を迎えられるとは限らない世の中なので、ここはしっかりと刻んでいこうと思います。

    さて、つい先日のことですが、2018年3月号の誌面で特集記事の一部として掲載された、ドラム・シェル材に関する共同執筆の文章が、ドラマガWebで公開されました(こちら)。そこで、木胴シェルのスネア・ドラムの中から、ピックアップすべき楽器を探していたところ、この企画にうってつけの楽器が掲載されていたので、楽器選びの参考になりそうな周辺知識と共に、ご紹介いたします。

    今月の逸品 【DW-SL1465SD

    DW-SL1465SD(画像提供:池部楽器店)

    伝統的なスチームベント製法による、単板のメイプル・シェルを用いたモデルです。

    早速ですが、単板シェルはドラムの製法として最適な選択肢なのでしょうか? ドラムに限らず、さまざまな楽器で合板と単板の比較がなされていますが、私自身は、少なくともドラムに関しては、必ずしも単板が優れているとは考えていません。例えば、“単板は振動効率に優れ、鳴りが良い”とされることが多いようですが、複数の楽器の集合体であるドラム・セットでは、この特性がプラスに働くとは限りません。

    単板は、用いられた木材そのものの個体差が、楽器の個性として顕著に現れます。また、シェル以外は同じスペックの木胴スネア同士で比較すると、音量感のある楽器が多い傾向があります。この特性は、ドラム・セットという楽器の中では一長一短であり、合板で作られることがほとんどのラック・タムやフロア・タム、バス・ドラムとの音色の連続性が損なわれるのはもちろん、何も考えずにフル・ショットした場合にボリューム・バランスが崩れたり、手元で聴覚上の音量を揃えたときの音色が異なるなど、楽器としても道具としても、やや異なる機能を持っています。

    また、シェル自体がもつ固有の振動数により、特定の帯域が出やすいケースも少なくありません。ヘッドのテンション由来のピッチによる音色の変化が大きかったり、倍音の構成が独特だったりと、単板特有の現象は、必ずしも優れた要素とは限らないのです。価格帯の違いで誤解されがちですが、単板は合板の上位互換ではないのです。

    ここまで読んで気づいた方もいらっしゃると思いますが、木胴と金属胴の比較に近い部分があります。中間の性質といったシンプルなものではなく、近くて違うジャンルということが伝われば幸いです。

    この前提を踏まえ、今回の楽器を紹介してゆきます。

    まず、明確なメイプル単板らしいサウンドが印象的です。明るく華やかで、芯がはっきりしており、パワフルです。エッジ付近をショットしたときの音の長さも単板ならではのもので、合板系の膨らみのあるふくよかな太さではなく、骨格的なインナーの太さが感じられます。

    基音の強さは、ストレートな合板シェルに慣れていると扱いにくく感じるかもしれませんが、弱音での輪郭の強さと鋭い反応は、単板や3mmオーバーの金属スネアの強みであり、細かい音符のタッチを生かしたい場合、選択肢として有力です。

    DW独自の機構としては、ねじ山が細かく刻まれたTrue-Pitch 50が採用されていることもポイントです。一般的なテンションボルトと比べると、回転に対するテンションの変化が少ないので、感覚がずれる場合もあると思いますが、音への反応は素直で、精密なチューニングには圧倒的な優位性があり、演奏中の緩みや狂いも少ない印象です。

    ダイナミクス・レンジの広さ、ゴーストの立ちやすさ、タッチへの追従性、ハードなミュートへの耐性など、単に音符を並べるだけではない演奏の領域で、音楽ジャンルを問わず頼りになる楽器です。

    レギュラー・ラインナップながら、常に市場に存在しているとは限らないモデルですが、これ以外にも単板の楽器はいろいろあります。国内に在庫さえあれば、入手のハードルはかなり下がりますし、実際に試すことが難しくても、モデル名で調べれば、サウンド・サンプルは簡単に見つかるので、この機会にぜひ、単板スネアをチェックしてみてください。

    デジマートで手に入る単板スネアはこちら


    Profile
    ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

    Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

    【Back Number】

    第一回:COBスネア・ドラム
    第二回:16インチ・バス・ドラム・キット
    第三回:Dragonfly Percussion Kick Drum Beater
    第四回クラッシュ・ライド
    第五回:スネア・スタンド