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長谷川浩二のドラムを“真後ろ”で体感|新感覚の没入型イベント『DRUMMING IMMERSIVE』を完全レポート
- Text:Seiji Murata
- Photo:Akito Takegawa
プロ・ドラマーのドラム・セットに座って演奏し、さらに至近距離でその轟音を体感する——。そんな前代未聞とも言える内容で開催されたのが、5月6日の『DRUMMING IMMERSIVE feat. 長谷川浩二』だ。日本を代表するトップ・ドラマー、長谷川浩二の愛器を参加者が実際に叩ける「体験コース」、そして長谷川本人の演奏を真後ろで“浴びる”「観覧コース」という2部構成で行なわれた本イベントは、発売直後に完売。長谷川自身の言葉や実演を通して、そのドラミングやサウンド、さらにはセッション・プレイヤーとしての思考にまで触れられる、極めて濃密な時間となった。本稿では、その模様をレポートしていく。
“あり得ない”ような企画だけど
長谷川さんだから実現させられる企画
筆者はこれまで、多種多様なドラム・セミナー・イベントを観てきた1人だが、まさか参加者が、プロ・ドラマー本人のセットに座って叩くことが目玉企画の1つとなるイベントは、初めてではないだろうか。ドラマガWebには「プロのドラムに“座る”。真後ろで音を“浴びる”。DRUMMING IMMERSIVE」という、昨今は一般にも浸透している“没入型”であることを高らかに謳う企画タイトル&キャッチコピーが躍り、その上には、編集部のそんな“むちゃ振り”を快く引き受けてくれた長谷川浩二さんのアーティスト写真が、こちらを向いて微笑みかけている。言葉を選ばずに言えば“あり得ない”ような企画だが、逆に、長谷川さんらしい企画、長谷川さんだから実現させられる企画だなとも直感した。

イベント当日の詳細をレポートする前に、まずは、この企画の概要を説明しておこう。イベント開催は5月6日。チケットは、上記のように、①“座る”=ドラム演奏経験者限定の「体験コース」と、②“浴びる”=誰でも参加できる「体験コース」の2種類が用意されたが、1人4〜5分間、長谷川さんを“独占”できるともいえるこのチケットは、内容の希少さを物語るように、4月上旬の発売後すぐにどちらも完売。
長谷川さん自身も、イベント冒頭で「数々のアーティストのステージを、命をかけて支えている“愛器”、言い方を換えれば“商売道具”ですけど、普通、職人の商売道具って他人に触らせないし、触らせるべきじゃない……そうは思ってるんですけど、この話をムチャ振りでいただいたときに、ふと思ったのが、逆の立場だったら、つまり、自分がアマチュアのときに憧れのドラマーのドラム・セットに座ったり触ったり叩いたり、そんなことができたら、さぞ嬉しいだろうな。そんな夢のような話はないなと思ったんですよ」と語ったように、前代未聞ではあるが、自身に置き換え、夢のあるイベントを実現したいと快諾してくれたことがわかる。しかも、①「体験コース」は、長谷川さんのセットを叩くだけでなく、アドバイスももらえるという贅沢さ。いやいや②も負けていない。後ろで“浴びる”ドラミングは、何とリクエストできるのだ。「あの曲のあの場面のフィルは?」を、本人が手の届く距離で叩いてくれるという、文字通り夢のようなイベントだ。
一般的なクリニックではお目にかかれない
具体的で実践的で贅沢なやりとり

入場者の耳を守るために耳栓が配られたという事実だけで、どれほど機材に近いかがわかるだろう。巨大ドラム・セットと約30名の客席で、キャパシティはフル。そんなステージに長谷川さんが登壇しマイクを手にすると、「なんでこんなに静かなの? 緊張してるんじゃないですか? なんで緊張するの?」と観客をイジりながらも、自身がセットに座ってあらためて客席を見渡すと、「うわ〜近いわ〜! 緊張するわ〜!(笑)」と、早くも長谷川さん節全開。続けて、上述のようにこのイベントを引き受けた想いが語られると、さっそく「体験コース」がスタート。
面白いのは、この日、長谷川さんのセットに座った全員が、まず“座り方”を伝授されていたこと。まず、右足をグッとキックの方に突っ込んで、右足位置を決めてから、左足を、スツールの上から“またぐ”ように左ペダル上に持っていって、腰を降ろす、と言う。こうしないと、あるモノに足が当たってしまうのだ……長谷川さんのロングヘアを常にたなびかせている、そう! “扇風機”だ。これを椅子の下にセットするためにも、セットと椅子の距離がやや離れ、さらに12”タムから16”フロアへの距離や、各シンバル類への距離感も想像以上に遠いのが特徴で、さらに「体験コース」に臨んだ総勢9名ほぼ全員が、座ってみてスネアにかなりの角度がついていることに驚く。自分のストロークでは「オープンリムが当たらない」のだ。「体験コース」は、そんな“長谷川浩二仕様”を体感できることも、大きな特徴の1つ。

座っただけで硬直してしまいそうだが、ここに集まった猛者だけに、長谷川さんのシグネチャー・フレーズはもちろん、長谷川さんが影響を受けたHR/HM系のツーバス・フレーズに、臆することなく挑戦している方も多かった。筆者としては、各タイコ1つずつ、シンバルを1枚ずつ叩いてくれたことで、“長谷川サウンド”を構成する単品の音を聴けたことも大きな収穫だったし、長谷川さん本人が叩くことによって、それが音楽を奏でるための“楽器”になるのだなと痛感した。
参加した全員それぞれが、叩いた後にアドバイスを受けたり、リクエストをして実演してもらう中で、特に印象的だったのは、長谷川さんが「今の『誓いの明日』(THE ALFEE)のイントロ、手順が違ったね」と指摘したシーン。叩いた方も「えっ!?」と驚いていたが、イントロのスネア→クラッシュのキメは、オルタネイト手順のままいける(スネア[R]→クラッシュ[L])し、さらに、長谷川さん印の手足コンビネーション・フィルも、”RLRKK・RLRKK”の手順でFT→TT→FT→BD2連打になると直伝してくれた。
指摘を受けた参加者本人が「へぇ〜〜〜!!」と、いたく感心していたが、一般的なドラム・クリニックで、こんな具体的で実践的で贅沢なやりとりは、なかなかお目にかかれるものではない。もちろん、ドラミング一般についてのレクチャーもたくさんあったが、やはり長谷川さんらしく、“コツ”よりも反復練習、しかもクリックと練習することが必須という言葉は、全員に染みたのではないだろうか。
長谷川さん本人にリクエストできる
夢のような時間になった観覧コース

そして5分の休憩を挟んで、「観覧コース」へ。“あの曲”、“あのフレーズ”を、長谷川さん本人にリクエストできるというこのコーナーも、参加者にとって間違いなく夢のような時間になったに違いない。総勢15名に及んだリクエストの数々は、THE ALFEE「ROCKDOM -風に吹かれて」、「孤独の美学」、「LIBERTY BELL」、「FLOWER REVOLUTION」、筋肉少女帯「ダメ人間」、「サンフランシスコ」、「詩人オウムの世界」、T.M.Revolution、abingdon boys school「HOWLING」、そしてExhiVision「百家争鳴」まで、年代も曲想も実に幅広い。そして、それ自体が長谷川さんの活動の幅広さを物語っている。
とはいえ、だ。ちょっと考えてみてほしい……いきなりの「この曲、叩いて」に即応することのハードルの高さを。覚えていないがゆえに応えられないものも多々あることは事前にアナウンスされていたが、こういうリクエストにも、苦しみつつも楽しんで、実際、思い出して即応してしまう長谷川さんには驚くばかり。一方で、「それって、どんな曲だったっけ?」と訊くと、観客のみなさんがすぐにフレーズを歌って教えたりするのも、さすがだなと感心してしまった。
またこのコーナーでは、実演に加えて、レコーディングの裏話が聞けたことも、この場に足を運んだ甲斐があるというもの。例えば、abingdon〜のコピー・バンドをやっているという方が、譜面を持参して、「この部分はどうやっているのか?」とリクエストし、実演を間近で見て、聴いて学んだあとに、「レコーディングにあたって、この部分のドラム・アレンジはどう作っていったのか?」の質問に、「作曲した柴崎(浩)君は“ベタ譜”だから、デモに打ち込まれたフレーズそのまんま。シンバルの種類まで指定してくるからね。しかも、時にドラマーの手順じゃないことも多いから、再現するのが大変」と、歴戦のセッション・プレイヤーにも苦労があることを垣間見せてくれた。

もちろん、具体的な曲だけでなく、自由に叩いているところをじっくり見たいという人も多く、最終盤には、各人の持ち時間がすべてドラム・ソロになること連続3回。ただし、それで疲れてしまうような長谷川さんではない。実際、ストロークは非常に脱力していて、スティック先端のショット・スピードが速く、音の立ち上がりも早ければ、音の長さもしっかり感じられる、それが長谷川さんならではの“歌”につながっているのだと、あらためて体感することができた。
最後のリクエストに応えたところで、本企画も大満足で終了……と思いきや、司会者から「とっても言いづらいんですが、最後に本日の集大成的なドラム・ソロを……」と容赦のないリクエスト(この渾身のソロ映像は、ドラマガWebの有料会員の方は視聴することができる/こちら)。「何が集大成だよ……(笑)」と毒づきながらも、これまでよりもダイナミクスを上も下もさらに広げて緩急をも取り混ぜて繰り広げられた、この日初めて聴くことなる圧巻のソロは、まさに“DRUMMING IMMERSIVE”の集大成となった。
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