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大阪から世界へ復活の狼煙! SAKAE OSAKA HERITAGE Vol.03

  • Text:Yusuke Nagano
  • Interview:Rhythm & Drums Magazine
  • Movie:Kazuki Kumagai
  • Photo:sencame

日本最古のドラム・メーカーであったSAKAEのレガシーを受け継ぎ、新たなブランドとして再生したSAKAE OSAKA HERITAGEが、2021年満を持して新たなドラム・セット=Evolvedをリリース。ドラマガWebでは12月16日発売の『リズム&ドラム・マガジン2021年1月号』と連動で、新生SAKAEにクローズ・アップ! ここでは“ものづくり”の心臓部となる大阪の新工場=ラボの潜入レポートを動画連動でお届けしていこう! Evolvedを愛用する大喜多崇規のコメントも掲載!!

【Contents】
Vol.01〜Event Report/Talkin’ About Evolved ①則竹裕之
Vol.02〜Gear/Interview/Talkin’ About Evolved ②神田リョウ
Vol.04〜Test Report feat.リアド偉武/Evolved vs The Almighty Maple/Talkin’ About Evolved ④真太郎

SAKAE OSAKA HERITAGE 特設 HP

 【SAKAE Laboratory Tour in OSAKA〜大阪新工場の全貌!】

Laboratory Report 大阪新工場へ潜入

11月の初旬に大阪府淀川区にある、SAKAE OSAKA HERITAGEの工場(ラボ)を訪問させていただきました。それは大小の工場が並ぶ閑静な工場地帯にあり、お昼休みや仕事が終わる17時には、区切りを伝えるサイレンが一帯に鳴り響く、昔ながらの良き雰囲気を漂わせる一画でした。

ラボは3階建の構造で、1階には塗装や乾燥、サンディング(ヤスリがけ)、エッジの成形などに使う大型の機械を設置。過去に取材で訪れたことのある旧SAKAEの広大な工場と比較すると、コンパクトな印象ではありますが、その中で整然と機能的に機械が配置されている様子は、まさに“ラボ”という表現がふさわしいと感じます。続いて脇にある階段を登って2階に上がると、まず目に飛び込んできたのは、全28色のカラー・バリエーションのディスプレイ! 本物の10”タムに美しいラッカー塗装が施されたシェルが並ぶその棚は、色とりどりの眩しい輝きを放ち、否応なしに惹きつけられます。2階フロアは、このカラーリングのディスプレイ棚を中心として、左手に事務所のデスクが置かれ、右側はパーティションで隔てられた奥のスペースに、シェルに穴を開ける機械などが設置されています。今後はこのラボでスネア・ドラムの生産を予定しているそうで、これらの機械も稼働していくことになるのかと思われます。その他にもスナッピーのサンプルやさまざまなパーツ類が収納された棚なども並んでいました。

2階フロアにはシェルに穴を開けるドリルなどの機械がズラリと並ぶ。今後予定しているという、日本製スネア・ドラムの制作で使われるのだろう。

ラボの全体を見学させていただきましたが、シェルを成形する機械こそありませんが、それ以外の作業は旧SAKAE時代と変わらずに行える設備を備えていることがわかりました。取材中に作業に当たっていたスタッフもサカエ・リズム時代から27年間に渡ってドラム作りに携わっている超ベテランであり、作業も実に丁寧。以前と変わらずの安心なクオリティであることも実感しました。前述したように今後はエッジ成形や塗装、パーツ取りつけなどを行うJAPAN CUSTOMのスネア・ドラムも予定されているとのこと。量産する拠点は移ったものの、“ものづくり”のスタイルがしっかりと踏襲されていることがわかりました。そんなSAKAE OSAKA HERITAGEのまさに心臓部と呼べるラボは、大阪から世界へと高品質のドラムを発信する最重要拠点という存在になります。

調色/塗装〜巧みなフェード具合いを実現する職人の“仕事”〜

塗装の工程はまず塗料の調合(調色)からスタート。専用の量り台の上で、“クリア・ベース”と呼ばれる透明な上塗り用の塗料と、配合する染料の重さを計測していきます。今回は少量なので、小さめのカップを用いていますが、その配分比率はグラム単位でしっかりと管理されており、毎回同じカラーが再現できるようになっています。塗装の作業は、ラボの一番奥に設置された専用のブースで行われますが、排気設備がしっかり整っており、作業環境への配慮もうかがえます。

塗装されるシェルは直前にきめ細かいサンディングが施されてから、ブースの中央に設置された手動式の回転台に乗せられます。まずエアー・ガンで目に見えない細かい異物が除去され、そのあとに先ほど調合された染料をスプレー・ガンに入れて塗装をしていきます。ちなみに本日のカラーは、ピンク/黒のフェード系スパークルで、これはアーティスト特注モデルいうことです。作業はスパークルの下地が塗られた状態のシェルを手で回しながら、まず淡いピンクから着色。薄い塗りからスタートして徐々に周回を重ねて色濃くしていきますが、途中でカラー・サンプル用のプレートと見比べ、時にはライトで光を当てながらその反射を細かくチェック。今度は上下を置き変えてブラックで同様の作業に入ります。フェードの境目は特に細かくサンプルと見比べて濃淡をチェックしながら行っていましたが、巧みにフェードの具合いを再現する作業に思わず見入ってしまいます。実際にこれは、かなり難しい作業だと思われるのですが、熟練のスタッフの手にかかれば、いとも簡単に見えてしまうのがすごいです。こうしてほどなく基本の塗りが終了。

最後には辻氏による入念なチェックが入っていました。その後、一旦乾燥させてから、今度は3回に分けてクリア・ラッカーを厚めに上塗りして、最終的にピカピカに輝くシェルが完成。さらに一昼夜乾燥させてから最終的な磨きの工程へと進みます。

サンディング/バフがけ〜フィニッシュを際立たせる妥協なき“磨き”の作業〜

美しいシェルを完成させるまでの間には、サンディングと呼ばれる磨きの工程がたくさんがあります。まずは専用の機械を用いたシェル外側のサンディング。機械に固定されたシェルはゆっくりと回転する構造になっており、それを奥に見える上下に動くサンド・ペーパー・シートに触れさせることで、外側を均一に磨くことができます。

シェルの内側をサンディングする機械は、上下にあるローラーの間に設置されたシェルは回転する仕組みになっていて、その内側に円筒状の回転式サンド・ペーパーを密着させることで、内側を均一に磨いていきます。この作業は、主に内側にラッカー塗装する前準備として行われるということです。

塗装ブースのすぐ隣に設置されたサンディング用の機械は、塗装直前のシェルを専用の台に固定して、手作業で塗装面に丁寧に整えていきます。ちなみに、ここで用いられるサンドペーパーは400番という目の細かさということです。そして塗装が終わったシェルは、最終的に500番という非常に目の細かいサンド・ペーパーを使って、熟練スタッフの手作業にて美しく磨かれていきます。その後は専用の機械でワックスを塗り込み、艶を出すためのバフがけ作業を経てシェルが完成! これらの工程は、1つ1つスタッフの目視で厳しくチェックが行われていますが、その様子からは妥協のないドラム作りへの姿勢と同時に、人の手を介した愛情のあるものづくりへの思いが伝わってきました。

エッジ/ベッド加工〜サウンドを決定づける“削り”の技〜

ドラムの生命線でもあるエッジの成形は、ラボの入り口の近くに設置された専用機械で行います。専用の回転台の上に塗装が終わったシェルを固定させると、上側から高速で振動する刃が降りてきて、シェルに当たると同時に力強く削っていきます。そのときのバリバリという大きな音と共に、派手に木屑が飛び散る様子は、かなりインパクトがあります。取材時に削っていたのは、試作中というスネア用のウォルナット・シェルで、所要時間1分にも満たないほどで、美しく均一に削られたエッジが誕生しました。エッジはドラムの音色に大きな影響を与える大切な部分ですが、削る角度だけでなく、頂点のカーブの形状なども大切な要素となります。このラボにはさまざまな刃のバリエーションが用意されて、シェルの素材や音色に合わせて選択されていくようです。ちなみに台湾の工場にも専用の刃が用意されているとのこと。

さてエッジの作業が終わると、横にあるスネア・ベッドを成形する機械へとシェルが移されます。こちらの機械は、シェルを回転台の上に載せて、タイミングに合わせて必要な部分だけ刃が触れてシェルを削る仕組みになっています。これでスネアのシェルの基本部分は完成となりますが、平面台の上に乗せて状態を確認すると、スネア・ベッドの部分には僅かな隙間が確認できます。その深さは予想以上に繊細なレベルだと感じますが、これがスナッピーの反応を高めて、キレ味の鋭いサウンドに貢献しているわけです。