UP

Archive Interview −ジョジョ・メイヤー −

  • Photo:Taichi Nishimaki
  • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto
  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

打ち込みのビートを取り入れたドラミング・スタイルは、現在では当たり前となっているが、そのパイオニア的な存在と言えるのがジョジョ・メイヤー。エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーらが創り出す、新感覚なビートにいち早く反応し、それらを人力で表現するイベント、“Prohibited Beatz”を90年代に主催。自身のバンド、NERVEを結成し、そのコンセプトを押し進めてきた。本日1月18日は彼の誕生日ということで、ドラム、ビートに関する話を聞いた、2016年のアーカイヴ・インタビューを公開! 時代の先を捉えるジョジョの語りは必見!!

ヒップホップの登場以降、“ビート”の認識に変化があった

彼の存在を世界中に知らしめたModern Drummer Festival 2005のパフォーマンス

●あなたは20年ほど前にプロヒビテッド・ビーツ(Prohibited Beatz)というイベントを主催していましたが、この“Beatz”というワードには、単にある特定のジャンルのリズム・パターンを意味するのではなく、より広い、曲や演奏のモチーフやインプロヴィゼションの土台になるようなもののような気がするのですが、いかがでしょう?

ジョジョ “ビート”はもともと広い意味を持っていたと思う。ポピュラー・ミュージックの文脈の中で、実際よりも意味が狭くなっていったんじゃないかな。ビートは“リズミックな音形の繰り返しを組織的に並べたもの”で、アフリカやキューバやインドなんかのものも含まれるわけだし、中には何千年も前から存在するものだってあるんだからね。西洋音楽という狭い視野で時代ごとにいろいろと定義されてきただけで、ビートはものすごく洗練された複雑な言語なんだ。ただ、ヒップホップの登場以降、確かにその認識に変化はあったように思う。まず初期のヒップホップはドラム・ビート以外にほとんど何もなかったからね(笑)。曲はドラム・ビートを中心に構成されていて、ブレイクビーツやドラム・マシンを使う音楽様式の始まりでもあった。ヒップホップはもともと、サンプラーやターンテーブルといった古いものをリサイクルして、ビートを切り刻むところから始まっているわけだしね。ヒップホップは、そういったマシンが、サブ・カルチャーの人達にも利用できるところまで技術が進化した時代に登場した音楽だった。70年代後半から80年代前半までの間は、そういったマシンは最先端のもので高価だった。ヒップホップは、その先端技術がさらに進化したことで、ローテク化した古いマシンを利用して作られていたんだ。最初はターンテーブルだけだったわけだしね。そんなわけで、ドラム・ビートに再び焦点を当てたという意味では、ヒップホップが重要な音楽だったのは間違いないね。

●あなたがプロヒビテッド・ビーツを主催してから20年経ち、ドラマーとマシンの間にあった壁はドンドン取り払われ、あなたが示した方向性は正しかったように思います。

ジョジョ 僕はドラマーだからもともとビートが好きだし、マシンも使うし、プログラミングもする。当時は“マシンみたいなビートを(生の)ドラムでも叩けるかもしれない”というところからスタートしただけで、それを楽しんでいただけなんだ。

●なるほど。ただ振り返ってみれば、時代時代でポピュラーだった音楽も、ドラマー中心に回っていたとも言えますよね。ジャズの時代はチック・ウェッブやマックス・ローチ、ロックではリンゴ・スターやジョン・ボーナム、ファンクではジャボ&クライド、という具合いに……。

ジョジョ ドラムのパートは音楽の骨格というか、心臓の鼓動だからね。メロディは飾りの部分で、ドラムはメロディの一部も担ってきた。ビートは音楽の骨格を成すもので、その骨格を抜き取れば、象とライオンの区別はなくなってしまうし、イカと他の魚の区別もなくなってしまうし、我々人間はタコみたいになってしまう(笑)。リズムはテンポや音量、厳格か開放的かの違いなど、音楽のメリハリの部分を明確にする機能をねらっていて、そこが決まったところから音楽が始まるんだ。サックス・プレイヤーは昔から似たようなスタイルで演奏している一方で、ドラム・ビートは大きく変化してきた。音楽においてリズムを強調するという意味では、ジェームス・ブラウンの果たした役割は大きかったと思う。彼はあらゆる楽器をリズム楽器のように扱って、楽器演奏の語法を大きく変えたからね。彼はソウルの創始者と言われているけれど、ある意味ではヒップホップの創始者でもあるんじゃないかな。ラップも古くからあるもので、1940年代にはすでに、リズムに乗ってしゃべるように歌うということをやっていたからね。

次ページ 20世紀のドラミングの歴史という“監獄”からの脱出