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Archive Interview – エリック・ハーランド

  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine Special Thanks:Blue Note Tokyo
  • Photo:Takashi Yashima、Yasuhisa Yoneda(live) Interpretation & Translation:Yuko Yamaoka

自分が何者であるかそれはとても大事なことだよ

●プリミティヴなリズムでのプレイと、ビートでのプレイ、どういうときにどちらをやるかについてはどのように考えていますか?

エリック 僕はそういうことを考えてプレイしていないんだ。例えばね、男性が他の男性と話すときと女性と話すときとでは、口調や雰囲気が違ったりするものだよ。だから相手によるというのかな……。誰かがすごく厳しい口調で君に話しかけてくるのと、君が愛している人と話すのでは絶対に自分が放つ空気って違うよね? 音楽もそれに似たようなものがあるよ。僕はそういうふうに聴いている。

何をいつプレイすべきかは自分で選んでやっていることじゃないからわからない。チャールス(・ロイド)がタロガトー(クラリネットの一種)をプレイするときはすごくプリミティヴなサウンドになるので、僕もかなりプリミティヴなドラム・サウンドでやりたくなるよ。だから僕自身の気分にもよるし、その状況において最適だと思えることをやっているんだ。

●影響を受けたドラマーは誰ですか?

エリック すべての人達からだね! あらゆるドラマーから影響されたよ。みんなそれぞれまったく違うから。それらのプレイを聴いて、それらの要素を自分のプレイに取り入れていくんだ。特に顕著にインスパイアされたのはエルヴィン・ジョーンズ、ジャック・ディジョネット、ロイ・ヘインズ、トニー・ウィリアムスのように革新的かつ大変ユニークで独自のサウンドを開発した人達だ。

あとは素晴らしいテクニックに惹かれた人もいるよ。デニス・チェンバースや……アキラ・ジンボもそうだ。彼のテクニックは素晴らしいよ。あとデイヴ・ウェックルのフュージョン・ミュージックに対するアプローチはとても好きだ。インド音楽のザキール・フセインも素晴らしい。

他にもホーン奏者から学ぶこともあるよ。ジョン・コルトレーンがプレイした音符やパターンをドラムに応用させてやってみようとしているんだ。僕はピアニストの演奏を聴くのも同じ理由で好きだ。実は僕が一番最初に演奏した楽器はピアノだったんだよ。僕はピアノをやっていたから、現在のようなスタイルでプレイしていると言えるかも。ピアニストのように僕はフレーズが聴こえてくるんだ。それに反応して指を使ったりしている。

多くのドラマーはバック・ビートでプレイしているけど、僕はそれとは違うアプローチでやってみたりするんだ。それに僕はクラシック・パーカッションもやっていたので、プレイしながらパーカッションのサウンドが聴こえてくることもあるよ。

●ではドラムをプレイする際、心がけていることはありますか?

エリック 自分が何者であるか—それはとても大事なことだよ。僕にとって何より大切なのは常に音楽だ。音楽の中で何が起こっているのか、ステージとオーディエンスの両方に注意を払っていたい。音楽と調和することができるとすべてにおいてオープンになれるよ。ステージで面白いことになっていてもオーディエンスにそれが届かなかったり、オーディエンスが置いてけぼりになっていたら意味がないんだ。

ステージ上でミュージシャン同士が互いに音楽で会話をしていて、それをオーディエンスが聴いている。それがあまりにオーディエンスからかけ離れてしまってはいけないんだよ。オーディエンスが聴いてくれなければ、感動は生まれない。みんなに聴いてもらって一緒に旅立っていかないとね。みんなで旅に出ることが一番大切だよ。一人旅はあまり面白くないからね(笑)!

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エリック・ハーランドがチャールス・ロイドと共演した近年のアルバム2作をレビュー!

チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルス『トーン・ポエム』

「今、私の楽器から鳴る音は若い頃にはなかったものです」と、今年83歳になったチャールス・ロイドは語る。その音は、枯れた渋い音というよりも、むしろ若々しくて艶っぽい。ザ・マーヴェルスのメンバーと作った新作は、オーネット・コールマン、セロニアス・モンク、レナード・コーエン、ガボール・ザボ、ビーチ・ボーイズ(ボーナストラック)などのカヴァー曲とオリジナル曲で構成されている。ジャンルや国境を越えた楽曲を聴いていたら、良い音楽は良い、好きな曲を演奏したいという純粋な思いが伝わってきた。違いを認めながら共存する。今、世の中に求められている世界が、このアルバムの中にある。そう思うのは私だけではないはずだ。(坂田 学)

チャールス・ロイド『8:Kindred Spirits』

何て素晴らしい音色だろう。彼のテナー・サックスの音の中には、煙が漂う60年代のジャズ黄金時代の空気、ECMの浮遊感、メンフィスのソウル、自然など、さまざまなイメージを呼び起こす何かがある。このライヴの当日80歳の誕生日を迎えたチャールス・ロイド。生き方が音になっているのだろうか。言葉にできない感動を覚える。若い世代と組んだ新しいバンドは、繊細さとアグレッシヴさが絶妙。ドラムのエリック・ハーランドは、とにかくタッチが素晴らしい。完全にコントロールされたストロークで奏でる驚異的なドラム・ソロには感服しました。後半には、ブッカー・T・ジョーンズやドン・ウォズも参加し、花を添える。ぜひライヴで見たいバンドだ。(坂田 学)