プランのご案内
  • UP

    命日に振り返るアーロン・スピアーズの独創的なドラミング|ジョジョ・メイヤーが語る天才の素顔

    • Translation:Akira Sakamoto
    • Interview:Rhythm & Drums Magazine/Photo:Tetsuro Sato

    2023年10月30日、47歳の若さでこの世を去ったアーロン・スピアーズ。圧倒的なテクニックと独創的なフレージングで世界中のドラマーに衝撃を与えた彼の命日に、ドラム・マガジン2024年1月号に掲載したジョジョ・メイヤーの追悼インタビューの全文を公開。生前のアーロンと親交が深かったジョジョが、2人の出会いや教則DVD『Beyond the Chops』の制作秘話、音楽的な革新性、知られざる素顔を語る。当時の誌面には収録しきれなかったエピソードも加えた完全版として、稀代のドラマーの才能と魅力をあらためて振り返る。

    同じことを二度やるのを聴いたことがない
    常に新しいものを生み出していたからね
    アーロンは違う世界を開拓し続けていたんだ

    彼は知性よりもむしろ魂で演奏していたんだ

    ●まず、アーロンとの出会いについて教えてください。初めて彼の演奏を観たときの印象はいかがでしたか?
    ジョジョ: 最初に会ったのは確か、モダン・ドラマー・フェスティヴァルだったと思う。何年だったかは覚えていないけれど、僕がバンドで出演した次の年に、ゲストとして呼ばれたときだったんじゃないかな。彼はたしかアッシャーの曲を演奏して、とても印象的だったよ。彼のドラミングもとても気に入ったから、ショウの後で声をかけたら、彼も僕のドラミングが大好きだと言ってくれて、それから連絡先を交換したりして仲良くなったんだ。その次に会ったのは、ハドソン・ミュージックの教則ビデオの撮影だった。1人のドラマーが別のドラマーにインタビューする形式のシリーズで、アーロンのインタビュアー役を務めてくれないかという依頼があったから、僕は2つ返事で引き受けたんだ。

    ●それが教則DVD『Beyond the Chops』ですね。
    ジョジョ: そう。それでハドソンの担当者と僕とで、インタビューの進め方や内容を決めたんだ。この手の教則ビデオでは、主役のドラマー自身が話す内容やその内容を選んだ理由なんかを決めるわけだけれど、巷にはそういった教則ビデオが溢れていて、すべてが良いとは限らない。ある程度有名になればみんなビデオを作るから、というだけの理由で作られているようなものもあるんだ。スティーヴ・スミスやデイヴ・ウェックルみたいに、ドラマーに伝えるべきものを持っている人達なら良いけれどね。

    まあ、そんなわけで、アーロンのビデオのコンセプトもハドソンの担当と僕で決めたわけだけれど、なぜかと言うとアーロンは天性のプレイヤーで、何か素晴らしいことをやったときに、「それ、すごいね、今やったことについて説明してくれる?」と言っても、説明できないからなんだ。頭の中で鳴った音をそのまま叩いているからね。だから、「今やったことを、今度はテンポを落としてやってくれる?」と言ってもできない。でも、それが天性のプレイヤーである彼の個性なんだ。これはとても興味深いことで、演奏する内容の背景には何らかの理論があるはずなんだけれど、アーロンの場合はそれをまったく意識していない。天性でいきなり結論に達してしまうんだ。

    ●演奏を理論的に説明できなくても、音楽を生み出すことができれば、ミュージシャンとしてはまったく問題ないわけですよね。
    ジョジョ: そう思うよ。ミュージシャンとしては、音楽をクリエイトできるということが肝腎なんだからね。その意味ではアーロンは驚異的で、シーンで最高のドラマーの1人だった。彼みたいなゴスペル・スクールのドラマー達というのはフレーズの語彙力が勝負で、みんながお互いにコピーし合うもんだから、誰もが似通ったサウンドになってしまう傾向があるけれど、アーロンは1小節も聴けばすぐに彼だとわかる。でも、彼はどうしてそうなるのか説明できない。普通とは違う演奏を思いつく彼の創造力は、ミステリーとしか言いようがないわけで、そこに彼の素晴らしさがある。彼は知性よりもむしろ、魂で演奏していたんだ。

    ●あなたから見て、アーロンの最も特別だった部分はどこにあると思いますか?
    ジョジョ: 音楽をやる姿勢や演奏に込める魂だね。彼の魂はとても明るくて、決して暗くなることはなかった。彼はとにかく明るい人間だったんだ。人は誰でも困難に直面することはあって、僕がバンドのツアーで中国に行って、彼もたまたま同じときにクリニックで中国にいたことがあったけれど、彼は体調を崩して、そのまま中国で入院しなきゃならなくなったんだ。外国でたった1人で入院するのは大変だ。家族は地球の反対側にいるわけだからね。それで僕は、何か役に立つことはないかと思って彼に電話したら、「大丈夫だよジョジョ、心配しなくてもいい、何とかなるから。どうもありがとう!」と言っていた。彼にはそういう精神の強さがあって、その強さが演奏にも表れていたんだ。

    他のドラマー達のために新しい扉を開いた

    ●ドラミングの面では、アーロンのどんなところに独自性を感じましたか? また、彼が影響を受けたドラマーについてはどう考えていますか?
    ジョジョ: デニス・チェンバースやヴィニー・カリウタ、デイヴ・ウェックル……彼らの世代の影響はあったよね。あとはアーロンの上の世代のゴスペル系のドラマーの影響ももちろん感じられた。だけど、アーロンは小節線を跨ぐような演奏をするようになった最初のドラマーだったと思う。小節線を跨ぐこと自体は彼が最初ではないけれど、彼のようなドラミングの語法でそれをやるのは、僕らにとっては耳新しいことたった。彼と同世代で同じようなことをやろうとしていたドラマーは、他にもジョージ“スパンキー”マッカーディみたいに何人かいるけれど、その方向を推し進めて他のドラマー達のために新しい扉を開いたのは、アーロンが遺した貢献の1つだったと思う。

    あと、僕が彼の演奏を聴いていて思うのは、やっていること自体はかなり複雑なのに、とても自然でダイレクトに感じられたということだね。自分の能力をひけらかすんじゃなく、自分を正直に表現していたんだ。グルーヴもタイム感も信じられないほど素晴らしいし、サウンドも素晴らしい。あそこまでできるようになるために、アーロンはものすごい努力を重ねていたに違いないんだけれど、演奏はあくまでも自然なんだ。彼の音楽がどこから来るものなのかはわからないけれど、とにかく正真正銘彼ならではの表現になっていた。だからこそ、彼の演奏を他人がコピーするのはものすごく難しいんだと思う。

    ●『Beyond the Chops』では、アーロンに演奏の“強度(インテンシティ)”について質問されていました。なぜ、そのテーマを取り上げたのでしょうか?
    ジョジョ: あのビデオは確か2日間かけて撮ったと思うけれど、僕らスタッフの側は、細かい部分に分解して説明してもらうことはできないと悟った。「あのグラミー賞の授賞式でジェームス・ブラウンと共演したときのフィルだけれど、何百万回も再生されているんだよね。どうやっているのか細かく分けて説明してくれる?」なんて聞いても、「ウーン、覚えてないなぁ」で終わっちゃう(笑)。ヴィニー・カリウタやデイヴ・ウェックルなら、すべてを完璧に説明してくれるだろうけれどね。

    とにかくそれで当初の方針を変えて、教会でやっているような“強度”を保ちながら小さな音量でやるときにはどうするか、みたいな質問をしたり、演奏する上での精神面について質問したりすることにしたんだ。あのビデオはもう何年も観ていないけれど、撮影がとても楽しかったのは確かだよ。彼の演奏をすぐ横で観られたわけだからね。あと、彼はいつも謙虚で、撮影の合間に休憩で控室に入った途端に、「ジョジョ、これはどうやってやるの?」って僕にいろいろと質問してくるんだよ(笑)。ビデオでは彼が講師で僕がいろいろ質問しているけれど、カメラが止まっている間は僕が彼の質問攻めにあっていた。そんなアーロンがいなくなってしまって本当に寂しいけれど、僕はむしろ、彼のような人間が存在していたことを喜ぶべきだと思っているんだ。

    常に新しいものを生み出していた

    ●アーロンの代名詞とも言える“ゴスペル・チョップス”について、テクニックの面から分析すると、どんなところがユニークだったのでしょうか?
    ジョジョ: どうなんだろう……テクニックの面で彼がユニークだったとは思わない。彼がユニークだったのはむしろ、想像力の面だと思う。彼は面白いことを言っていた……「僕が演奏を始めると、周りの世界が止まる。世界が止まって、僕と音楽だけになるんだ」ってね。ゴスペル・チョップスの世界っていうのは、以前流行ったブレイク・ダンスみたいに、他の人よりも、もっとクレイジーなことをやろうとする競争みたいな状況になっているけれど、アーロンはそういった競争心を超越したところにいたんだ。

    ドラム・キットに座った瞬間、アーロンの世界からは、うまく叩けるかとか、みんなはどう思うだろうとか、ミスをしないように気をつけなきゃとか、そういった雑念が消え去ってしまう。そこには音楽しか存在しない。だからこそ、アーロンはあんなふうに、何物にも束縛されない、獰猛とさえ思えるような演奏ができたんだよ。とても自由なんだ。アーロンが同じことを二度やるのを聴いたことがない。常に新しいものを生み出していたからね。僕らはみんな、それぞれのシグネチャーと言うべき、お決まりのフレーズを持っているものだけれど、アーロンは常に違う世界を開拓し続けるようなところがあった。

    ●アーロンがこれほど多くのドラマーに影響を与えたのは、そうした音楽への集中力や精神性も大きかったのでしょうか?
    ジョジョ: ただもう、信じられないほど素晴らしい演奏をしたということだと思うよ。彼の演奏を観れば「うわぁ……」ってなるんだ。何かとてつもなく素晴らしいものに触れたときには、自分もそれにあやかりたいと思うだろう? 僕はアーロンとはまったく違うタイプのドラマーだけれど、彼の演奏を観た後でドラム・キットに向かうと、何か感覚が違うんだ。彼はそれぐらい強いインスピレーションを与えてくれるドラマーなんだよ。