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“ロザーナ・シャッフル”を検証 Vol.01〜ジェフの“後継ドラマー”が語るそのグルーヴの魅力〜

1992年に急逝した伝説のドラマー、ジェフ・ポーカロ。先日公開した生前のアーカイヴ・インタビューにも大きな反響が寄せられ、その死から28年経った現在も不動の人気を誇っている。そんな読者の声に応えて、ここでは彼の名を語る上で欠かすことのできないリズム=“ハーフタイム・シャッフル”にフォーカス。第一弾となる今回は、スティーリー・ダン不動のライヴ・ドラマーであり、2014〜2015年には“TOTOのドラム”の座にもついたキース・カーロックのアーカイヴ・インタビューから、あの魅惑のグルーヴに迫ってみたい。

ロザーナ・シャッフルとは?

「ロザーナ(Rosanna)」は、1982年に発売されたTOTOのアルバム『TOTO IV〜聖なる剣』に収録されている。このアルバムはTOTO最大のヒット作となり、グラミー賞6部門も制覇した名盤。その1曲目で聴ける「ロザーナ」はシングルとしても大ヒットとなった。そして、当時すでにスーパー・ドラマーであったジェフ・ポーカロだが、この曲で聴かせた“ハーフタイム・シャッフル”のプレイは、以降の名刺代わり(!?)的なグルーヴになったと言ってもいいだろう。譜例がその基本型。言うなれば“ロザーナ・シャッフル”である。繊細なゴーストノートを盛り込んでいるのが特徴だ。これを譜面通りに叩くだけでもかなり難しいが、正確に叩けたとしても、それでジェフのフィーリングを出せるわけではない……。

Interview with Keith Carlock

本インタビューは、キースがTOTOへの参加が発表された2014年、デビュー35周年を記念した来日ツアーの直前に行われたもの。スティーリー・ダン、そしてTOTOとジェフの後を受け継ぐことの多い彼が、その魅力を語ってくれた。

シャッフルは大好きだけれど
うまく演奏するのが一番難しいグルーヴでもある

●あなたにとってジェフ・ポーカロはどんな存在ですか。あなたも若い頃には、彼の演奏をコピーしたり分析したりしたと思いますが。

キース 僕が彼に惹かれた理由の1つは、彼が究極のグルーヴ・プレイヤーだったからさ。楽曲のために演奏することに集中して、素晴らしいフィーリングのグルーヴを生み出す。僕はジェフのそういうところが大好きなんだ。彼の楽曲解釈やドラム・パートはとにかく完璧だった。曲の各パートが移り変わる部分の処理も理に適っていて、バンドのすべてが彼の生み出すフィーリングを中心に組み立てられていた。そういう彼の演奏はとにかく他に類を見ないもので、しかもそれがごく自然に聴こえるんだよね。サウンドもフィールも彼ならではのもので、聴けばすぐにジェフだとわかるし、とにかくグルーヴが素晴らしいから、音楽が心地良く聴けるんだ。「ロザーナ」のグルーヴは代表的で広く知られているし、ドラミングの定番ということで、みんな練習している。僕も彼のグルーヴに耳を傾けたし、彼の演奏をもっと聴きたいと思っていたよ。

●ジェフはあなたも参加したスティーリー・ダンでも演奏していますよね。彼がレコーディングした曲を演奏する機会もあったと思いますが……。

キース 僕は1990年代の後半からスティーリー・ダンの作品に参加してきたし、2003年からはツアーもやるようになっているから、ジェフがレコーディングした曲をライヴで演奏する機会もたくさんあったね。中でも、『ケイティ・ライド』に入っている、彼が大得意にしていたロック・シャッフルの「ブラック・フライデー」や、アルバム『ガウチョ』のタイトル・トラックは大好きだよ。だから、僕にとってはTOTOやスティーリー・ダンといった、ジェフがその音楽の一翼を担った代表的なバンドに入って、彼の足跡を辿ることができるのは素晴らしいことなんだ。本人と実際に会ったことはないけれど、自分もスティーリー・ダンやTOTOで演奏することで、少なくとも音楽的には彼とのつながりが持てるわけだからね。それに、前回日本へ行ったのはラリー・カールトンのツアーで、ジェフはワーナー・ブラザーズ時代にラリーと共演していたから、ここでもまたジェフとの縁があったことになるね。

●「ロザーナ」は日本のドラマーの間でも、シャッフルのお手本として知られています。このグルーヴを叩くためのアドバイスをいただけますか?

キース 実際に叩いて見せるのは簡単だけれど、言葉で説明するのは難しいな。シャッフルにはスティーリー・ダンでバーナード・パーディが叩いていたハーフタイム・シャッフルや、レッド・ツェッペリンでジョン・ボーナムが叩いていたシャッフルなど、いろいろなタイプがあって、ジェフ・ポーカロが「ロザーナ」で叩いているグルーヴは、そういったものからの影響も受けていると思う。ジェフがそれについて語っているインタビューを読んだこともあるしね。でも、あのフィールをきちんと出すには、演奏をよく聴いて、音符を置く位置、つまりハイハットのシャッフルとスネアの装飾音の位置をきちんと見定めて、個々の音符のダイナミクスにも気をつけて、安定した強力なバック・ビートを叩くことが大切だよ。強く叩く音と弱く叩く音の区別……グルーヴの中でそういった細かい部分を叩き分ける必要があるんだ。ただ音符を鳴らすだけじゃなく、リズム面やサウンド面も含めた音符の置き方が決め手になっている。ジェフと同じように叩くためには、そういった部分を深く研究して、彼の演奏を何度も聴いて、聴きながら一緒に叩いてみるといい。自分の演奏をレコーディングしたものを聴いてみるのもいいよ。自分ではきちんと叩けているつもりでも、客観的に聴くと違うこともあるからね。で、それを修正する方法を考えて再びやってみる。ああいうグルーヴはスティーリー・ダンの「バビロン・シスターズ」や「ホーム・アット・ラスト」でバーナード・パーディが叩いていた、有名な“パーディ・シャッフル”も参考になるし、「ブラック・フライデー」や、あとはテキサスやシカゴのブルースのシャッフルも参考になる。とにかく、シャッフルと言ってもいろいろなタイプがあるから、そういったものを広く聴いて参考にするのがいいね。僕もシャッフルは大好きだけれど、うまく演奏するのがいちばん難しいグルーヴでもある。今ではあまり教えてもらう機会がないだろうし、ブルースのバンドにでも入っていないと、シャッフルを頻繁に演奏することもできないだろうからね。そんなわけで、シャッフルはある意味“失われた芸術”のようになってしまっているけれど、よりうまく、強力なシャッフルが叩けるようになりたいと思っているよ。TOTOやスティーリー・ダンでは代表曲のグルーヴで、演奏する機会が多いのは幸運だね。

ジェフは練習と努力を重ねてあのグルーヴ感を身につけたと思いますか? それとも天性の感覚で叩いていたと思いますか?

キース 彼には天性のものがあったと思う。ジェフにとっては、何をやるにしても猛練習の必要はなかったんじゃないかな(笑)。もちろん、彼が努力家じゃなかったと言うつもりはないけれどね。あくまでも個人的な感想だけれど、彼はそもそも音楽的感覚に優れたドラマーで、彼が特別な存在だった理由もそこにあると思うんだ。バーナード・パーディやジョン・ボーナムのグルーヴも参考にしただろうけれど、彼はそこから独自のシャッフルを創り出した。「ロザーナ」のキック・ドラムのパターンもユニークで、他とはかなり違うフィーリングを生み出しているし、ハイハットをごく軽く叩いて3連符の装飾音も軽く叩くのは彼ならではのやり方で、その躍動感を曲の全体に渡って維持することで、あの曲を特別なものにしていたんだ

●TOTOで演奏するにあたって、ジェフのどんな部分を受け継ぎたいと思っていますか?

キース やはりしっかりとグルーヴを出すということだね。バンドでは、僕のやりたいことをやる余地も与えてくれていると思うけれど、やはり歴史を踏まえて、ジェフに敬意を払うような演奏をしたいな。リラックスした雰囲気を生み出したり、場合によってはレイドバックした雰囲気を創り出したりする、彼の音符の置き方が大好きだから、その部分はしっかりと受け継ぎたいね。

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