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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯11 〜Moongel Damper Pads〜

  • Photo & Text:Takuya Yamamoto
  • illustration:Yu Shiozaki

第11回Moongel Damper Pads

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。第11回目はドラム・サウンドに変化をもたらすミュート/マフラーのバリエーションを考察していきます!

いつもご覧いただき、ありがとうございます! 前回の#10ではスネア・ワイヤーというテーマでお気に入りの製品をピックアップしつつ、セッティング方法や、楽器の設計、選び方などを盛り込んで書いてみました。

#1の”COB”スネア・ドラムや、#5のスネア・スタンドでも示唆した通り、音はすべて振動に帰結します。連載を通じて、大小さまざまな製品についてレビューを積み重ねてゆくことで、初期から構想していた、“練度に応じて読み取れる情報が変化する、何度も読める記事”として、形になってきたのではないかと思っています。

その流れで、今回はミュート/マフラーを紹介いたします!

いきなりですが、私は、楽器を始めてすぐに、できる限り鳴りを妨げない状態の、楽器本来の豊かな響きそのものに魅了されてしまったので、かなり長い間ミュートという行為が苦手でした。

しかし、音楽を聴いて、演奏して、作ってゆくうちに、音色の適切な加工は、音楽のために必要な処理であることに気づき、それからはありとあらゆる方法を取り入れることにして、今も日々研究しています。

現代の代表的なツールとしては、リング、ジェル、シート、テープ、アウトサイド・マフラーが挙げられるでしょうか。シートはリングと地続きになっている面もありつつ、近年急激に流行してバリエーションが増加しており、設計にも思想の違いがあることから、収斂進化のようなものとして、あえて別にしてみました。

また、SnareweightのM1bM80のように、リングの一部を切り出したような形状でもあり、アウトサイド・マフラーの要素もあり、振る舞いや使い方はジェルに似る、という製品も存在しているので、これは2022年現在のふんわりとした分類例であることも記しておきます。

リング・ミュート

リングは、スネア・ドラムに同梱されていたり、内蔵されているヘッド(POWERSTROKE 3など)があるので、ほとんどの方が一度は使ったことがあるのではないでしょうか。簡単に言うと、高域を大胆にカットして音色を安定させる方向に導くツールです。おいしい成分と、タッチで変化する部分が損なわれるとも言え、効き具合いの微調整も難しいので、マフラー全般の中でも最も苦手なタイプでしたが、ミュートが必要な状況では、ある程度しっかりと処理した方が良い結果を生むことも多く、レコーディングには既製品と自作のもので十数枚のバリエーションを持ち込んでいます。

14インチ用で3つのタイプがセットになったRMF-14と、キットを想定した複数サイズがセットのROS-40はベーシックとして持っておいて損はありません。10インチ用の小さいものを14のスネアに置いても問題ありませんし(私はテープで座標を固定します)、ライド・シンバルに引っ掛けて、軽く高域をマスキングするのも良いでしょう。

ジェル・ミュート

ジェルは、使い方で大きく化けるツールです。振動をよく吸って、ヘッドそのものの振動数にも影響を与える質量があるので、位置や個数、硬さと重さで、音色が大きく変化します。手軽なようで奥が深く、真価を発揮するには、きちんと耳を鍛えて、音色の知識を蓄える必要があります。

粘性の高い液体がヘッドに乗る格好なので、どちらかというとタイトでフォーカスされた方向に変化します。湿った本革や、丸いエッジから生まれるしっとりとした感触でもあり、打面ヘッドの高域を削る一方で、スネア・ワイヤーの成分はそのまま出てくるので、ざらっとしたある種のドライさも感じられます。

音色の表現として、ダーク、ブライト、ドライ、ウェットと、いろいろありますが、正反対の要素が同居することもあるのが、説明の難しいところです。ワインでよく言われる“濡れた犬”ほど難解ではないと思いますが、あまり先入観を持たず、出ている音と録れている音に向き合うのが大切です。

そんなジェルの中から、今月の逸品として、Moongel Damper Padsを紹介します。

今月の逸品 【Moongel Damper Pads

歴史の長い製品で、長方形の6個入り、ジェル全体の中では柔らかめの部類に入ります。オリジナルのカラーはブルーで、近年クリアも登場しました。ケミカル製品全般に言えますが、着色のための混ぜ物が入ると硬さが微妙に変化します。

手触りで区別できる程度には違いますが、音でわかるほどではないので、好みで選んで良いでしょう。タムとスネアに乗せたときの滑らかな重心の下がり方はこのジェル特有のもので、ジェルによる調整はこのMoongelから始めることがほとんどです。

リングの上に乗せて質量を利用したり、ジェルの上にリングを乗せて吸い方を調整したり、アイディア次第でいろいろ使えます。スティックの木片や埃で汚れやすく、洗浄すれば、ある程度は粘着力が復活しますが、劣化してくると剥がれやすくなってくるので、幅の狭い養生テープで軽く固定することが多いです。

もう1つ、同じくらい重要なジェルとして、SlapKlatzが挙げられます(次ページに続く)。

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