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    【有料会員限定】イベント追体験|沼澤 尚が紐解く“TOTOのジェフ・ポーカロ”/全曲解説+実演つき本編映像

    • Photo & Movie:Akito Takegawa

    永遠のグルーヴ・マスター、ジェフ・ポーカロの命日である8月5日に開催され、即完となった「沼澤 尚 the Greatest Playlist feat. ジェフ・ポーカロ♯2」。イベントではジェフ本人とも親交があった沼澤 尚さんが厳選したTOTOにおけるジェフの名演8曲のプレイリストを軸に、実演を交えて名演に隠されたドラミングの凄さを解説。ここでは沼澤さんが語った各楽曲の解説コメントをダイジェスト動画と共にお届けする。

    Introduction
    TOTOの楽曲を年代順に追いながら
    時代ごとのジェフのドラムを紹介

    初めてジェフを生で観たのは1982年TOTO2度目の来日の時の武道館でした。そのときにジェフがPearlを使ってPearlのTシャツを着ているのを見ちゃったんで、「自分がドラムを持つことになったらPearl以外にない」って思っていたんです。

    今だったら、何を使っていて、何プライで、シェルが何で、みたいにいろいろ調べられますけど、当時はそんな時代じゃなかったですから。とにかくPearlだったら何でもいい、くらいの感じでした(笑)。それで翌1983年にP.I.T.の学生時代に手に入れたセットが、今日持ってきたPearlのBXで、もちろん今でも頻繁に使っています。

    自分にとってのTOTOはやはりスタジオ・ミュージシャンとして好きで聴いていた人達が突然集まって始めたバンドという印象で、バンドとして売れて、個人よりも“TOTO”という名前が知られるようになった。個人個人として大好きなスタジオ・ミュージシャン達が集まって作ったバンドがあそこまで名実共に大成功したというのが、自分にとってはすごく特別だったし、もちろんバンドの大ファンでしたから、ジェフが亡くなるまで毎回ライヴを観に行っていました。

    今回はTOTOの楽曲のみにフォーカスして年代順に追いながら、その時代その時代のジェフのドラムを紹介していきます。自分がジェフ本人に初めて会ったのが1983年の3月で、その時にバスドラの目の前2〜3メートルの至近距離で聴いた衝撃の生音を当時のラジカセで録音していた音源をもちろん今でも持っていて、今日はそれを聴いてもらったり、実際に自分が見たり、本人から聴いた貴重な話なども交えながら、話していこうと思います。

    ♯1「Hold the Line」

    ♯1のときに、ジェフが有名になったグルーヴの1つとして、デニース・ウィリアムズの「When Love Comes Calling」を取り上げたんですけど、「Hold the Line」も基本になっている6/8、12/8、4/4グルーヴは同じです。

    これはジェフ本人がはっきり言っていたんですけど、元になっているのはSly & The Family Stoneの「Hot Fun in the Summertime」。ピアノのイントロもほとんど一緒で、テンポが少しだけ違うくらい。グレッグ・エリコが叩いているオリジナルを聴くと、ハイハットの感じまでも参考にしてるのがわかります。

    この2曲を続けて聴いてみると、いかにジェフがこのグルーヴをコピーしようとしていたのがよくわかりますし、そういう種明かしを常にみんなに公言する人でした。「このドラム、すごいですね」と言っても、「いや、これはグレッグ・エリコだから」とか、「これはパーディだから」と必ず言うんです。「この曲の元になっているのはこれだから」っていつもみんなに伝えてました。

    自分は時代的にもジェフを最初に聴いているから、もちろんジェフのグルーヴをオリジナルとしてその当時には捉えてましたが、すべてそのルーツが当たり前のようにあってそれを本人から必ず教えてもらうことができました。この3連グルーヴは、その後もドナルド・フェイゲンの「Ruby Baby」やアル・ジャロウの「Black and Blues」、ハービー・ハンコックの「Paradise」、ファイス・ヘンダーソンの「Lovers」など、いろいろな曲で聴くことができます。

    ♯2「Miss Sun」

    「Miss Sun」はTOTOの初期に作られていて、当時録っていたデモの1つです。結局ファースト・アルバムには入らなかったんですけど、1980年リリースのボズ・スキャッグスのコンピレーション/ベスト・アルバム『HITS!』にボズ・スキャッグス・バージョンが新録/収録されて、ジェフが亡くなった後、TOTO結成20周年のタイミングで発売されたTOTOのベスト・アルバムに、このTOTOのこのオリジナル音源が収録されたことで公式に聴けるようになりました。

    TOTOのヴァージョンは、デヴィッド・ペイチがアル・グリーンを意識して作っていて、歌い方なども含めてかなり真似してるのが、はっきりわかります。ジェフがアル・ジャクソンJr.やハワード・グライムスのメンフィス・ソウル・グルーヴとサウンドを意識しながら、その上で、そこはただで済ませないジェフ本人ならではのハイハットやスネアのバリエーションが見事に演奏されているところがものすごいです。

    当時のTOTOの作品はもちろん、ジェフがこの時期に参加している尋常じゃない数の数えきれないアーティスト達のレコーディングでは、まったくクリックを使ってませんが、この曲でもその感じがよくわかります。世界中の誰もが知っている「Rosanna」でもそうですけど、TOTOは我々には到底気がつかないレベルで、バンド全体で少し遅くなったり速くなったりすることを普通にやってますけど、それをすべてジェフがまるで指揮者のごとくリードして全体をコントロールしていることもよくわかります。「Miss Sun」もそういうテンポの動きが曲を通して演奏されていることで、聴いている我々の気分やムードが極々自然に動かされているという正に匠の奥義を体感できます。

    ボズ・スキャッグス版は少しテンポが速くなっていて、後半ではバスドラやゴーストノートやハイハットがよりシンプルになることでメンフィスっぽさがさらに強く出てくるのが解るので、TOTOのオリジナルバージョンと聴き比べると、ジェフが同じ曲をどう変えていったのかがよくわかります。

    ちなみに最後に入っている女性ヴォーカルは、当時ジェフの彼女だったリサ・ダルベロ。1977年にデヴィッド・フォスターのプロデュースで出した『Lisa Dal Bello』にはジェフが全面的に参加していて、聴きどころ満載のジェフのドラムが恐ろしくカッコいいので興味があったらぜひ聴いてみてください。

    ♯3「99」

    MVを見るまでもちろん気がつかなかったんですが、この曲でジェフはカウベルをハイハットのクラッチの上にセットしていて、16th grooveハイハットを刻みながらカウベルを同時に演奏してます。カウベル1音の直後にオープン・ハイハットを入れて戻る。カウベルを後からダビングしているのではなくて、同時にレコーディングしていたことがわかります。ハイハットとカウベルを行き来しているのをイメージしながら聴いてみてください。まだ25歳のジェフとデヴィッド・ペイチ、ルカサーは22歳という若さでこの演奏クオリティは本当に信じられないです。

    ♯4「LIVE FOR TODAY」

    この曲は『Turn Back』が出た頃にプロモーションでやったスタジオ・ライヴの映像を自分が学生の頃にテレビで観ていて、その印象がものすごく強かったので選びました。少しテンポが速かったり、演奏内容がいろいろとオリジナルから変化している「LIVE FOR TODAY」と「Goodbye Elenore」、さらにドキュメンタリー的にかなり貴重なシーンも収録されているすごい内容の映像です。

    ジェフならではのリムを叩きながらのフィルや、ギターのフレーズに合わせたブレイクなど、ジェフが何をやっているのかが細かく観られます。YouTubeにアップされているのでスタジオ版と聴き比べてみると面白いと思います。

    さらにこのスタジオ・ライヴでは、まだPearlを使う前で、スネアを含めてすべてYamahaのセット一式を使っていて、その後にPearlを使うようになって『TOTO IV』以降亡くなるまですべてのライヴでPearlドラムだけを使うんですけど、それぞれのサウンドを聴き比べると楽器が違っても結局彼自身のサウンドが何も変わらないのが驚きです。

    アルバム『Turn Back』では、ジェフがヴィンテージのSlingerland Radio Kingを使っていて、自分がRadio Kingの存在を知ったのもこのアルバムでした。「古いドラムをロックンロールで使うとこういう感じになる」という話をジェフ自身がしていて、サウンド・クオリティが素晴らしいこのレコーディングでその生々しい音が体感できます。

    ♯5「Waiting for Your Love」

    この曲はさっき聴いてもらった「Miss Sun」と基本的には同じビート。右手のパターンは同じですが、スウィングしているか、していないか、でこんなにもガラっと変わっているところに注目してください。

    グラミー賞を独占したこのアルバムでもクリックを使っていないことがよくわかります。TOTOはダビングもたくさんしているバンドなのに、ここは速く、ここは少しゆっくり、また速くなる、というテンポの動きをバンド全体でごく自然にやっている。それによって曲がエモーショナルに聴こえたり、少し遅くなるところでグッときたりする。そういうことをさりげなくやっています。

    ジェフを世界的に有名にしたのは、彼ならではの独特なスネアの位置ですが、この「Waiting for Your Love」同様のスウィング感の名曲「Pamela」などを聴いてもはっきりわかるように、誰よりも後方で2+4=バック・ビートを演奏をしているレイドバック感が全体のグルーヴを確実に決定づけています。偉大な歴史を築いたメンフィスのドラマー、アル・ジャクソンJr.は当時の若者達を踊らせるために4拍目だけを後ろにするようなレコーディングをたくさん残してきたことも興味深いです。

    ♯6「Lion」

    『TOTO Ⅳ』から『Isolation』へという時代はアメリカで生活し始めるという自分自身の人生としても最も変わっていった時期だったんですが、TOTOが来日した大学4年のときにアメリカへ行こうと決めて、ただその時点ではもちろん、ドラマーになろうとすることが目的でも何でもなくて、音楽学校に行きながらアメリカに住んで英語が喋れるようになればまぁ就職できるだろう、と。

    ジェフのお父さんのジョー・ポーカロと、自分が大好きだったラルフ・ハンフリーが教えていたから、「この2人に会いP.I.T.に行って、ついでに英語も喋れるようになって帰ってきて就職しよう」と思ってました。

    1983年の3月に入学して、何とその直後にグラミー賞授賞したばかりのTOTOのメンバーが学校にやって来た。武道館で観たばかりのジェフが今度は自分の目の前にいて、その生のドラム・サウンドを浴びまくるという経験はさすがに22歳の子供には衝撃的過ぎました。自分が最も好きなドラムの音がいまだにこの43年前から何も変わってない理由がここにありますが、自分の年齢と共にさらに益々その気持ちが強くなっていることもよくわかります。

    この頃がTOTO自体の変化が最も大きかった時期で、アルバムもシングルも世界的に大成功を収めて、グラミー賞までも獲った直後にリード・ヴォーカリストとベーシストが変わり、それまでアナログ機材だけのレコーディングだった作品作りに、いきなりデジタル機材が使われる時代になっていった。学校に来てくれたジェフ・ポーカロ、スティーブ・ルカサー、ディヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ポーカロ、マイク・ポーカロ……バンド・アンサンブルについてはもちろん、ドラムのマイクの使い方などを含めたいろいろなレコーディング方法についてまで、『Isolation』のアルバム・レコーディング中の新曲をデモ演奏しながらという何とも贅沢すぎるワークショップ。

    目の前2メートルで鳴っていた驚愕の生のドラム・サウンドを、膝に乗せたラジカセでカセット・テープに録音していた音源を今日来てくれたみなさんに少しだけ聴いてもらいつつ、これがこの時代のデジタル・レコーディングの到来でいかに音楽シーンが大きく変化したのかを理解してもらえると思います。

    ♯7「Lea」

    スティーヴ・ポーカロの曲で本人がリード・ヴォーカルの曲。特にこの曲とこのジェフのグルーヴとサウンドが大好きなので選びました。スティーヴはデビュー・アルバムに「Takin’ It Back」、『TOTO Ⅳ』に「It’s a Feeling」と、自分の作詞作曲で歌う曲がアルバムに入っていましたけど、この「Lea」のイントロを聴くだけで、マイケル・ジャクソンの「Human Nature」を書いた人なんだっていうのもすごくよくわかると思います。

    ジェフのドラムとジム・ケルトナー、スティーヴ・ジョーダン、パウリーニョ・ダ・コスタのパーカッション・チームの素晴らしいグルーヴが全編を通してのベースになっていますが、これが「Africa」と同様にジョー・ポーカロとレニー・カストロの一番いいパーカッションのグルーヴを切り取ってテープ・ループさせたものか、それとも編集なしなのかどうかはわかりません。

    スティーヴ・ポーカロの曲でジェフのドラムが聴ける曲についてさらにつけ加えると、彼のソロ・アルバム『Someday/Somehow』に収録されている「Back to You」という曲は、『TOTO IV』のアルバム制作時に録っていた曲で、アルバムには入らなかったけど、後に当時録音していたジェフのドラムを使ってスティーヴのソロ作品用に、ジェフが亡くなった後に完成した曲です。当時のジェフの演奏がそのまま使われている、素晴らしいトラックです。

    ♯8「These Chains」

    TOTO「Rosanna」はもちろん、「Mama」、アル・ジャロウの「Mornin’」、「Breakin’ Away」、Airplayの「Nothin’ You Can Do About It」でも聴ける、世界レベルで有名になったジェフのグルーヴ。このハーフタイム・シャッフルについても、レッド・ツェッペリンの「Fool in the Rain」やバーナード・パーディの「Home at Last」が元になっていることは彼の教則ビデオでも詳しく説明してますから、もうみなさんはよく知っていると思います。

    ジェフが残したどのハーフタイム・シャッフルでも必ず聴ける左手から始まるスネアのフィルは、右手でハイハットを刻んでいるところから左手でフィルに入って、右手はギリギリまでハイハットにいます。そしてこの「These Chains」のオープニングのフィルはダブル・ストロークが絡んでいて、こちらは確実に右手からスタートしているのもわかります。

    ジェフのさまざまなグルーヴでこのように左手からフィルに入って左手だけで完結することが多いんですが、そのスピードのキレとテンションで左手の強靭さと、何よりもほとんど気がつかれていないかもしれない、四肢のとんでもない超高速&超絶技巧っぷりはジェームス・ギャドソン同様に、完全に人間の能力を超越してます。この「These Chains」と「Rosanna」を聴き比べるとドラム・セット・プレイのいろいろがわかって、またすごく興味深いです。

    この曲はスティーヴ・ルカサーとランディ・グッドラムの共作で、この2人は「I Won’t Hold You Back」、「I’ll Be Over You」、「Anna」などTOTOの作品で素晴らしいバラードを常に一緒に書いてますが、関連してぜひ聴いてほしいのが、ランディ・グッドラムの『Fool’s Paradise』という彼のソロ・アルバム。ジェフが全編参加していて、そしてそのプレイが当たり前ですが、とにかく素晴らしいので興味があれば、こちらも是非聴いてみてください。

    沼澤 尚が紐解くジェフ・ポーカロ