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    【Report】WOLFGANG MUTHSPIEL TRIOが4年半ぶりに来日! 紡ぎ出すどこまでも美しいサウンド

    • Photo:Tsuneo Koga/Photos courtesy of COTTON CLUB, Japan
    • Report:Kazuaki Yokoyama

    前回の来日の際に東京で録音された新作『Angular Blues』を引っ提げ、約4年半ぶりの来日となったWOLFGANG MUTHSPIEL TRIO(ウォルフガング・ムースピール・トリオ)。3人がステージに現れた時点で何とも神々しく、また、すでに音楽が始まっているかのようでもある。

    Wolfgangは椅子に座ると、手に持っていたクラシック・ギターをそのまま弾き始め、アコースティックなソロ・ギターからセットが始まる。繊細なギターの音色に耳をそばだて、静寂の中にスーッと引き込まれていくようだった。そのムードを引き継ぎながらScottとBrianが加わるのだが、クラシック・ギターのナイロン弦のニュアンスがしっかり感じ取れる程にデリケートでありながら、豊かで深い表現に舌を巻く。

    ブライアン・ブレイド
    ウォルフガング・ムースピール
    スコット・コリー

    例えばワイヤー・ブラシのグリップ・エンド部をシンバルに軽くツンッ……と当てた音が、これほどまでに豊潤な響きに聴こえてくるとは。1音1音が沁み渡るように美しく広がり、会場全体を満たすのだ。最初の数曲はそのままクラシック・ギターを弾き、Brianもブラシを手にする場面が多かったように思うが、どんなに繊細なタッチであれ、旨味が消えず、歌の表情が明瞭に聴こえ、思わずため息が出てしまう。まさに、絶品である。

    続けて、新作からタイトル曲が披露され、気持ち良くスムースにハマるメトリック・モジュレーションに、単にキレイに揃うという話ではなく、より深い部分でのバンドの呼吸というものを感じた。フィールもストレートとスウィングを行き来し、変幻自在に美しく形を変えていく。長年の活動の中で共有してきた音楽に対する価値感、積み重ねてきた信頼感といったものが滲み出ている……と言えば良いのだろうか。とにかく3人が深いところで繋がっているのがよく伝わる演奏だった。

    セットの中盤、Wolfgangがエレクトリック・ギターに持ち替えてからは、どこまでも神経が行き届いたかのようなデリケートさはそのままに、さらなる高みに上り詰めていくかのようなエモーショナルさが加わり、段々と熱を帯びていく。お互いのテンションの高まりがピタリと重なり、絡み合い、一気に最高潮に達し、しかもそれが波のように次々と押し寄せてきたときは本当にすごかった。ショーのハイライトだったように思うし、あの化学反応の起こり方は奇跡を見ているようだった。

    どこまで行っても3人の紡ぎ出すサウンドは美しく、そしてブレンドし合ってさらに豊かな響きとなっていく。トリオは強く結束しながらも、それぞれが広大な空間を自由に泳ぎ回るように音を奏でていく。しかし、この豊かさというのは一体どこから来るのだろうか? 音に現れる、微細で多彩な表情の変化、奥行きや広がり、柔らかさ、膨らみ、艶やかさ……これらは、リラックスし囁くような音量感で会話を始めていくからこそ得られるものなのだろうか。以前、ある人が「多くのドラマーはダイナミクスが上に広がっていくのに対し、Brian Bladeという人はダイナミクスが下に広がっていく」と話していたのを覚えているのだが、まさにその通りだ。

    また、あらためてショックだったのは、あのトーンはBrianの身体から生まれてくるということ。軽やかな動作の中に感じる体幹の強さと、自在な体重の乗せ方のコントロール、そして楽器、音楽と一体化する意識。彼自身が楽器であり、音楽である。そう思えてくるのだ。機材そのものの良さはもちろん、しかしながら、最終的に音はその人から聴こえてくるものなのだと。

    アンコールではWolfgangが再びクラシック・ギターを手に取り、フォーキーなテイストのシンプルな曲を奏で、静かにショーを締め括る。音から映像が見えてくるかのような、どこまでも美しい夜だった。

    2月にカルフォルニアで行われたトリオでのライヴ映像

    『Angular Blues』ウォルフガング・ムースピール
    Recorded at Studio Dede, Tokyo(2018-08-12)
    詳細はこちら→https://onl.sc/DDMyht7