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大阪から世界へ復活の狼煙! SAKAE OSAKA HERITAGE Vol.02

  • Text:Yusuke Nagano
  • Interview:Rhythm & Drums Magazine
  • Photo:Takashi Yashima(Gear)/sencame

Interview SAKAE OSAKA HERITAGEの“ものづくり”

辻 俊作[SAKAE OSAKA HERITAGE Producer]

SAKAEのドラムには芯がある
それがあるとどんな楽器と合わせても
埋もれずに絶対にヌケてくる
そこは変えてはいけない部分

まずはSAKAE OSAKA HERITAGEの全貌に迫るべく、プロデューサーである辻 俊作氏のインタビューをお届けしていこう。氏は旧SAKAE時代よりドラムをデザインし、そのサウンドを手がけてきた中心人物で、ARも兼任し、SAKAEを愛用するドラマー達から絶大な信頼を得ている。インタビューでは、その立ち上げや気になる生産拠点の変更について、そしてEvolvedに込めた想いなど、多岐に渡って語ってもらった。

“進化させていく”こと
それが全体のコンセプト

●SAKAE OSAKA HERITAGEのプロジェクトはいつ頃スタートしたんでしょうか?
○始まったのは2018年で、その時期っていうのはまだ準備段階で。実際にちゃんと動き出したのは年末くらいで、その時点ではもうある程度のプロトタイプもありましたね。

●ブランドを新たに立ち上げるに当たってコンセプトはあったんですか?
○以前やっていたことを引き続きやるっていうことにプラスして、さらに良いものにするのはマストで。求められるものっていうのは時代によって変わってくるので、さらにそこを加味していく。まぁそれもやっぱり前からやってたことで、コンセプトは変わらないんですけど、さらに発展しながら進んでいくというか。物に対しても、音に対しても、“進化させていく”っていうのが全体のコンセプトではありますね。

●SAKAE OSAKA HERITAGEは “Designed by OSAKA”をテーマに掲げ、その拠点がこの大阪工場になるわけですが、この工場はどういった機能を果たしているんでしょうか?
○ここは今のところ量産の工場ではなく、ラボ的な存在で、開発であったり……塗装もできるので、新しい色を作ったり、アーティストのドラムや特注品の塗装もここでやります。あとは図面を書いたり、そういう研究の場所で、そして後々にはMade In Japanのスネアを制作していく工場にもなります。スナッピーは今もここで作ってます。

●いろいろな機能を備えているんですね。ドラム作りの核となる部分は、この大阪の“ラボ”で行なっていくのでしょうか?
○そうですね。基本的なスタンスは前と変わらないです。ただ特に新しく始めるに当たって、何か特別にすることはないんです。仮に「こういうスペックで作って」って伝えて、出来上がったものは、イメージ通りの音になっちゃうんですよ。未知の材料を使う場合は、またここで1から設計してってなるんですけど、それ以外のデータは頭の中に入っていますから。厚みや深さ、材の違いでどういう音になるのかっていうのは全部わかってます。

●経験の蓄積があるわけですね。量産の拠点は台湾になるということですが、台湾の工場を選んだ理由は?
○今、世界のドラムの半分くらいは台湾で作っているんです。クオリティのコントロールさえできていれば、日本でやるのも、アメリカでやるのも、中国や台湾でやるのも、基本的にどこでやっても一緒と思っているんですよ。中でも台湾にはそういう(ドラムを作る)工場がいっぱいあるし、ハードウェアも含めて、なるべく慣れてるところにやってもらうのがいいと思って台湾を選びました。

●現地でSAKAEのドラムを作っている職人の技術や熟練度は、辻さんから見てどう映りましたか?
○まったく問題ないです。細かいリクエストにも応えてくれて、言ったら言っただけ(結果が)返ってくるんですよ。だから日本でやっていたときと、クオリティはそんなに変わらない。工場が内にあるか、外にあるかの違いで、「何ミリの板をこういう形で重ねてください」って伝えると、その通りのものが上がってくるんです。こっちの要求に対してちゃんとついてきてくれるので、向上心がある。だからその部分ではまだまだ上に行けるんじゃないかなっていうのがあります。

●その上でクオリティ・コントロールを辻さんが中心となってやっていくわけですね。
○そうですね。そのために現地に行って「SAKAEのドラムではこうしてください」っていう技術指導もしました。向こうのやり方そのままだとやっぱり思った通りにはならないので、エッジをスムーズにするやり方だったり、サンディングの方法だったり、音に関わるところはもちろん、塗装も色の感じやフェードのかかり具合いだったり、ここでやるのと同じレベルまで持っていけるように指導してきました。

最終的な音の落としどころは
現場じゃないとダメ

●SAKAE OSAKA HERITAGEブランドとして初となるEvolvedが発売になるわけですが、これはどんなドラムを目指したものなんでしょうか?
○これも今までやってきた流れの延長線上ではあるんですけど、押し出しを強くするとか、インパクトっていうのは気にしたポイントです。メイプルを使ったドラムということで、以前作ったThe Almighty Mapleをイメージする人が多いと思うんですけど、それを超えるために、SAKAEの持ち味であるミッド・ローあたりのふくよかさや、パンチがあるっていう部分をより強調した形にはなっています。その上で、例えばステージで使うとして、ドラマーが叩いて気持ちいいのは当然で、良い音でお客さんに届くことが基準なんです。ドラマーとお客さんがどちらも気持ちいいのがベストで、よりマイク乗りが良かったり、PAの人が操作しやすい……マイクを通したときに作りやすい音ですね。そういうことも考えて、厚みや重ね方とかも考えていきました。それで出来上がってきた最初の試作品は、ねらった通りの音だったんですけど、実際に現場に持っていくとレンジが広過ぎたんです。ドラマーが叩いて気持ちいい音だったけど、他の楽器と帯域が被ったりして、PAが扱うのがちょっと難しかったんです。“こんなにレンジを広げる必要がない”ということがわかって、それで改良したのが完成品で、試作は結局、4.5パターンくらい作りました。

●現場で徹底的に検証するのも、変わらないスタイルですね。
○そうですね。最終的な音の落としどころは現場じゃないとダメだと思っています。それも“ここでしか使えない”っていうものじゃ意味がないと思うので、ホールからライヴ・ハウスまでいろんな現場で検証しました。

●その他に以前から引き継いでいる部分はありますか?
○これは変えていいところと、変わっちゃいけないところがあるんです。変えたところで言うと、今回は(フロント・ヘッドの)ロゴにSAKAEという文字が入ってないんです。モノグラムのマークだけで。ロゴっていうのはどんどんアップデートするのが良いと思っているんです。時代を反映して、デザインされていたりするので、そこは変えていいと思いました。

●では変えてはいけない部分とは?
○SAKAEのドラムは芯があるんです。音の芯とは音の密度なんです。波形で見ると、どれくらい詰まっているかで芯が出てくる。だから高域・中域・低域のどこでも芯を出すことは可能です。そして音の芯は音圧につながっていきます。音圧がちゃんとあると、どんな楽器と合わせても埋もれずに絶対にヌケるポイントが出てくるんです。そこは変えてはいけない部分ですね。

●お話をうかがって、旧SAKAE時代の“ものづくり”の精神を受け継ぎながら、進化していこうとしているのがよくわかりました。最後に今後の展望を教えてください。
○プレイヤーが気持ちいいと思う音をもっと追求したいですね。将来的にこうなっていきたいっていうのも大事なんですけど、1つ1つのことをちゃんとやっていく。もちろんアイディアはいっぱいあって、すでに取りかかっているものもあるので、それをしっかり展開していきたいと思っています。あとはとにかく多くの人に触ってもらいたいですね。まぁそれも以前からやってきたことなんですけど、今後もそういう機会を作っていけたらと思っています。

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