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デヴィッド・ボウイを巡るドラマーたち〜5周忌追悼特集〜

  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
  • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto(Mark Guiliana)
  • Interpretation:Mutsumi Mae/Translation:Rie Amano(Mick “Woody” Woodmansey)
  • Photo:Michael Ochs Archives/Getty Images

デヴィッドはヒット・レコードを作るために努力をしていたわけじゃなくて、自分が作らなければと思った芸術作品を作ろうとしていたんだ

●デヴィッドの復帰作となった13年発表の『The Next Day』は、全員が一斉に音を出しながらレコーディングしたそうですが、今回はどうだったんですか?
マーク 『★』も同じで、デヴィッドはすべてのテイクで僕らと同じ部屋で歌っていた。自分だけブースに入ったりはしなかったから、ドラムの音はヴォーカル・マイクに被るわ、彼の声はドラムのオーヴァーヘッド・マイクに被るわ、という状態で、僕にはとても意外な気がした。音被りを完全に避けるために全員がそれぞれのブースに入って、長い時間をかけて作業する人が多いけれど、彼の場合はその真逆だったからね。でもそれは、アンサンブルによる演奏のエネルギーを、そっくりそのまま記録するためだったんだ。アルバムからも、全員が一緒に演奏して、お互いに反応し合っている様子が伝わってくると思う。すべてのトラッキングが終わったあとは、もちろんデヴィッドがトニー・ヴィスコンティと一緒に、ヴォーカルのオーバーダブやエディットといった、アルバムを仕上げるための作業をするわけで、彼らが最終的に僕の演奏のどの部分を使うのかはわからなかった。だから、完成したアルバムを最初に聴いて、ドラムのパートがテイクの最初から最後までそのまま使われているのを知ったときには、本当に驚いたよ。ほとんどの曲がそうなんだ。ダニー(マッキャスリン)はウッドウィンド、ジェイソン(リンドナー)は複数のキーボードをオーバーダブしていたけれど、各パートの多くの部分は、スタジオでレコーディングしたときの演奏がそのまま使われていた。まさに、バンド全員が一生に演奏している雰囲気が捉えられているんだ。

●ミックス・バランスもドラムの音が大きくて、デイヴィッドもドラム・グルーヴをアルバムの軸に据えていたように感じますね。
マーク 彼の意図がどうだったのかはよくわからないけれど、ドラムの存在感がかなり大きいのは確かで、聴いていてもワクワクするね(笑)。

●タイトル曲は演奏時間9分に及ぶ大曲ですが、これはどのようにして作っていったのでしょうか?
マーク あれは二部構成で、それぞれの部分はテンポも違うから、別々にレコーディングしたけれど、デイヴィッドの頭の中には完成形が見えていたはずで、第一部の終わりの部分を、第二部とできるだけ滑らかにつながるようにして欲しいという指示はあったよ。アルバムで使われているのは、ファースト・テイクだったんじゃないかな。

●ドラムのサウンド作りも、あなたに任されていたのでしょうか? 特にスネアは、曲ごとにキャラクターが明確に区別されているように思います。
マーク デヴィッドの指示のほとんどは、現場の言葉よりもデモのサウンドで示されていた。それで僕は基本的に3種類のスネアを使い分けて、タイトル曲と「Lazarus」、「Dollar Days」は低い音のスネア、「’Tis A Pity She Was A Whore」や「Girl Loves Me」、「I Can’t Give Everything Away」ではいわゆるトラディショナルな、ミュートをしないオープンなサウンドのスネア、「Sue」ではサステインが短かくて高いピッチのスネアを使った。現場でも、レコーディングする曲ごとに使うスネアをデヴィッドに確認してもらったけれど、基本的にはデモの音を参考にして決めたんだ

●スネア以外のドラム・キットは何を使いましたか?
マーク グレッチのブルックリンで、20インチのベース・ドラム、12インチのラック・タム、16インチのフロア・タムを使ったよ。

●レコーディング中で印象に残っているエピソードはありますか?
マーク デヴィッドはとにかく自由にやらせてくれたね。リスクを冒すようなことを試したり、僕らの頭の中で鳴った音を出したりするように励ましてくれた。もちろん、うまくいかなければダメ出しがあったけれど、信じられないほど自由にやらせてくれたよ。彼は明確な構想の枠組みの中で、僕らが個性を発揮するための余地もたっぷりと残していたんだ。うまくいくかどうかの判断は微妙で、自由にやりすぎるとあまりにも抽象的なものになってしまうし、細かい部分にこだわりすぎると意外性の生まれる余地が失われる。でも、僕らが伸び伸びと演奏できるような雰囲気を作ってくれたのは確かで、それが僕らから最良の演奏を引き出す結果を生んだと思う。

●言うまでもなく、彼の声や歌詞には説得力がありますが、それらに刺激を受けた部分もありましたか?
マーク 僕らがレコーディングした段階では、まだ歌詞が出来上がっていない曲もあったけれど、さっきも言ったように彼はガイドとしてどの曲も一緒に歌った。その強力な歌が僕らの演奏に大きく影響したのは間違いないよ。

●デヴィッドとのレコーディングで、あなたはどんなことを学びましたか?
マーク 妥協のない作品作りと取り組む、デヴィッドの姿は素晴らしいものだった。他の誰も思いつかないような構想があって、それを実現させるために、最初から最後まで細かい作業を1つ1つ丁寧に進めていった。でも、僕にとっては彼の勤勉さが一番印象的だったかな。アーティストとして率直な表現を生み出すまで、とにかくひたすら仕事を続けていた。デヴィッドはヒット・レコードを作るために努力をしていたわけじゃなくて、自分が作らなければと思った芸術作品を作ろうとしていたんだ。

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