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デヴィッド・ボウイを巡るドラマーたち〜5周忌追悼特集〜

  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
  • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto(Mark Guiliana)
  • Interpretation:Mutsumi Mae/Translation:Rie Amano(Mick “Woody” Woodmansey)
  • Photo:Michael Ochs Archives/Getty Images

イギリスを代表する偉大なシンガー・ソングライターで、ミュージシャンのみならず世界中の“アーティスト”に多大な影響を与えたデヴィッド・ボウイ。そのあまりに突然の訃報から、1月10日で5年目を迎える。60年代から活動を続けてきた彼は、さまざまな音楽的要素を貪欲なまでに取り入れながら、時代の先を行く刺激的な作品を数多く残してきた。ここではその功績をあらためて振り返る意味も含めて、彼の作品にその名を刻んだ2人ドラマーのアーカイヴ・インタビューを掲載する。

Archive Interview ①
ミック・ウッドマンジー

デヴィッド・ボウイの『世界を売った男』の再現ライヴのため、トニー・ヴィスコンティと共に2015年にビルボード・ライブ東京へ来日したミック・ウッドマンジー。
Photo:Masanori Naruse/Special Thanks:Billboard Live Tokyo

まずはデヴィッド・ボウイのグラム期を支えたバック・バンド、スパイダース・フロム・マースのドラマーとして活躍したウッディことミック・ウッドマンジー。ボウイと共にロック史に残る多くの名作を生み出した彼が、その誕生秘話を語った2001年3月号に掲載されたアーカイヴ・インタヴューがこちら!

“ウッディは何も言わなくても僕がやってほしいことをやってくれた”
そうボウイに言われてうれしかったね

●デヴィッド・ボウイと一緒にプレイするようになったきっかけは?
ミック スパイダースに加入する前は英国北部の工場で働いていたんだ。いろいろなバンドをやりながらね。そんな頃にミック・ロンソンがやっていたRATSというバンドに入ったんだ。工場で働きながらやってたなぁ。どうやって時間を作っていたのか覚えてないけれど。俺が加入する前にRATSにいたドラマーがロンドンへ行ったんだ。その頃ボウイは自分の曲をちゃんと表現して演奏できるバンドを探していたんだ。そのドラマーがボウイのためにいろいろ力を貸したみたいなんだ。ボウイはギタリストも探していたから、そのドラマーの彼が“ミック・ロンソンというギタリストがいるんだけど”と言って、ミックを紹介した。何ヵ月か後にミックが“俺はもっといいドラマーを知っている”とボウイに言って、俺に“ロンドンへ来ないか?”と連絡が来たんだ。

●当時のボウイの曲は単なるロックンロールというより、構成も複雑でしたし、他のバンドとは一線を画していたと思うのですが、演奏するときに苦労した点はありますか?
ミック 普通のパートはそこそこ叩けたけど、ストリングスが入るパートはついていくのが難しかった。クラシックの要素が入っているからね。クラシックの中にロックンロールを入れる、ということを考えなくてはならなかったし、クラシックのアレンジも学ばなくてはならなかったんだ。しかもクラシック的な叩き方でロックンロールをやっていたわけだから、今思うと自分でもよくやったなと思うよ。そういえば『ジギー・スターダスト』はロンドンのスタジオでギターもベースもドラムも一遍に録音したんだ。しかも1日で。でも翌日聴いてみたらイマイチだったんで、全部やり直したんだ。それがあのアルバムさ(笑)。

●結局、2日でレコーディングを終えてしまったというわけですか?
ミック あぁ、そうだよ。それから2週間後にミックスを終えたんだ。

●曲のドラム・パートはボウイから指示されたものをプレイしたのですか?
ミック 何も言われなかったよ。ボウイが昨年、イギリスのドラム雑誌でインタビューを受けていたんだ。「いろいろなドラマーとやってきたと思うのですが、誰が一番でしたか?」と聞かれて、「ウッディだ。彼は何も言わなくても僕がこうやってほしいということをやってくれたからね」と言ってくれた。うれしかったね。

●あなたがドラム・パートを作る上で、注意していたことはなんですか?
ミック 当時はメンバー全員が同じ家に住んでいたんだ。その地下に防音設備が整った小さな部屋を作って機材を置いたんだ。そこでボウイが作曲した曲を聴かせてくれたんだ。それでボウイが「良い曲だから録音しよう」と言ってレコーディング・スタジオに行くんだ。ずっと一緒にやっていたから、リハーサルなんかもそんなにはやらなかったよ。だからスタジオに入ってもほとんどが一発録りで、たまに2~3テイク録音するぐらいだった。ただ、どんな感じの曲で、曲に込められたメッセージを思い出しながら演奏する、という感じだった。ほとんどが即興だったね。それで、終わったものを聴いて“あぁ、いい感じだね”ってなもんさ。「ライフ・オン・マース?」なんかは“OK、ここでストリングスがこう入るから、こうやって叩こう”と考えたけれど、他に関してはほぼ即興だったね。ただ演奏することを楽しんでいたし、いろいろなレコードを聴いていたから、身体で覚えていたことを音にするという感じだったね。「ファイヴ・イヤーズ」は面白かったな。曲に合うように叩くことは簡単だ。でも、前に聴いたことがあるような演奏をしたくない、曲にもっとメッセージを与えて膨らませたい、そう思ったんだ。曲の起伏にドラムのパワーやビートを加えたいとね。ドラムは曲において最も重要だと思っている。キッチンでコーヒーを入れながらラジオを聴いていると、歌が始まる前に自然と足でリズムを取ったりするだろ。それで“あぁ、これはあの曲だ”とわかる。曲のグルーヴを感じているんだね。良い曲というのは最初から身体がそのグルーヴを感じているんだな。だから、ドラム、リズム1つで曲の良し悪しが決まるんだ。

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