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デヴィッド・ボウイを巡るドラマーたち〜5周忌追悼特集〜
- Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
- Interpretation & Translation:Akira Sakamoto(Mark Guiliana)
- Interpretation:Mutsumi Mae/Translation:Rie Amano(Mick “Woody” Woodmansey)
- Photo:Michael Ochs Archives/Getty Images
Archive Interview ②
マーク・ジュリアナ
もう1人は最後のスタジオ・アルバムとなった『★(Blackstar)』に抜擢されたマーク・ジュリアナ。現在はトップ・ドラマーとして活躍するマークだが、最初に共演した2014年当時は、まだ世界的にはそこまで名の知れた存在ではなく、本作への参加をきっかけに、その名を轟かせたと言っても過言ではない。そんな彼がレコーディングを通して感じたデヴィッド・ボウイの姿を語ったアーカイヴ・インタビューがこちら!
デヴィッドも含めたバンド全員が可能な限り最高のレコードを作ろうと力を合わせていた
●惜しくも先日他界したデヴィッド・ボウイの『★(Blackstar)』についてうかがいます。あなたもアルバム発売直後に彼の訃報に接して衝撃を受けたでしょうね。
マーク ものすごいショックで、とても悲しかったよ。
●初めて彼と会ったときの印象は? 確か初共演は先行して発売されたシングル「Sue」のレコーディングでしたよね?
マーク そう、マリア・シュナイダーのバンドとレコーディングしたときだった。彼がどんな人なのかはまったく知らなかったけれど、とにかく彼ほど親切な人はいないと思ったよ。実際に彼と最初に会ったのはレコーディングに向けてのリハーサルのときで、曲はまだ完全には出来上がっていなくて、彼はマリアと一緒に曲の細かい部分を煮詰めている状態だった。それはともかく、リハーサルを指揮するデイヴィッドは集中力がものすごくて、一生懸命に仕事をして、とても親切で、とてもエキサイティングで、人生のすべてを注ぎ込んでいる感じだった。彼はリハーサル・スタジオに誰よりも早く顔を出して、誰よりも遅くまで仕事をしていた。「Sue」が発売された後、友達から「へぇ! ボウイの曲に参加したのか! それで、彼とは会ったのかい?」って言われたけれどね(笑)。つまり、まずバンドだけでレコーディングして、デヴィッドは別の日に歌入れをしたと思ったみたいなんだ。そう考えるのは僕もわかるし、アーティストによっては残念ながらそういうこともあるけれど、デヴィッドの場合はまったく違っていた。『★』のレコーディングのときには、彼も含めた全員が、同じバンドの対等なメンバーような気がしていたからね。それが音楽に対して大きなプラスの効果をもたらしていた。お偉いアーティスト様が下々のバンドマンに命令を下すという構図とはまったく違って、デヴィッドも含めたバンド全員が、可能な限り最高のレコードを作ろうと力を合わせていたんだ。
●レコーディングの話が来る前まで、デヴィッド・ボウイの音楽についてどの程度の知識がありましたか?
マーク 誰もが知っているようなヒット曲は、僕も子供の頃からラジオで聴いたり、MTVで観たりしていたよ。でもジャズやエレクトロニック、実験的な音楽を研究したりするようになったあとで最初に強い興味を惹かれたのは、“ベルリン三部作”と呼ばれる『Low』と『Heroes』それに『Lodger』だった。実際にはデヴィッドとブライアン・イーノのコラボレーションで、かなり実験的な、信じられないような作品だった。デヴィッドと実際に会って強い印象を受けてからは、彼の作品群をすべて勉強して、それまでに彼がやってきたことに対して深い感銘を受けたね。
●「Sue」に続いてフル・アルバムの全編に参加してほしいと言われたときには、どんな気持ちでしたか?
マーク もちろん光栄に思ったしワクワクしたけれど、どうなるのかはわからなかった。これがデヴィッドにとって最後のアルバムになるとは思っていなかったから、彼が声をかけてきたときにはただ、「さあ、みんなで最高のアルバムを作ろう!」と言われたような感じだったね。その後、送られてきたデモにはあらゆるパートが盛り込まれていて、ドラム・パートもリズム・マシンで大体の感じがわかるように打ち込んであった。僕らはそれを基に宿題をやって、スタジオ入りして1日1曲のペースで作業を進めたんだ。さっきも言ったように、作業中のデヴィッドはとても親切で寛大で、僕らがそれぞれの個性を発揮できるように配慮してくれた。彼は僕のBeat Musicのレコードも聴いていて、とても楽しかったと言ってくれたし、曲の説明をするときにも、僕らが過去に参加したアルバムを例に挙げることもあった。彼も自分自身の宿題をしっかりとやって、僕らのことを調べてくれていたんだ。デヴィッド・ボウイが自宅でBeat MusicのCDを聴い
ている姿を想像すると、何だか奇妙な感じがしたけれどね(笑)。
●アルバムで聴けるドラム・パートは、彼が用意したデモにどのぐらい近いものなんでしょうか?
マーク デモに基づいているのはもちろんだけれど、打ち込みのパートをいかに自然な形でアコースティック・ドラムの演奏に置き換えるかが、僕にとっての課題だった。でも、例えばタイトル曲ですべてのアップ・ビートにスネアが入っている奇妙なビートは、「どうやって考えたんだい?」とか「思いもよらないビートだね」とか言われるけれど、あれはデヴィッドのデモにあったもので、僕はそれをドラム・セットで演奏するために自分なりに解釈しただけなんだ。
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