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ナッシュビルより世界へ広がるスティック・ブランド Innovative Percussion(前編)

  • Contents & Text:Rhythm & Drums Magazine 
  • Photo :Takashi Yashima 

要注目スティック・ブランドの
歴史と製法、製品の魅力を紹介!

音楽の町、ナッシュビル発のスティック・メーカー=イノベイティブ・パーカッション。1992年に小規模のマレット製造専門会社としてスタートした同社は、やがてドラム・スティックにも着手するようになり、ジェームス・ギャドソンやジョン“JR”ロビンソン、チャド・ワッカーマン、ジョーイ・ワロンカーなど、幅広い世代のドラマーが愛用するビッグ・ブランドへと成長(2022年で30周年!)。今回、歌モノ~インストはもちろん、ジャンルの枠を超えて活躍する名手=芳垣安洋&伊藤大地に同社のスティック、ブラシ、ロッズ、ビーターを試奏してもらい、その実力を検証してもらった。前編はスタッフ・インタビューをお届け! ブランド立ち上げの経緯や製品の特徴、こだわりなどを聞いた。

*イノベイティブ・パーカッションに関するお問い合わせは、HPのお問い合わせフォームへ
製品公式HP 

●まずは、イノベイティブパーカッションがどのように誕生し現在に至るのか、簡単な歴史を教えて教えてください。

IP Innovative Percussion(以下IP)の社長であるエリック・ジョンソンは、ミドルテネシー州立大学の打楽器専攻の卒業生で、当時マリンビストであるマーク・フォードに師事し、マーク氏と共にコアのラバーが硬い重量のマレットを探していたことがきっかけとなり、1992 年に会社を設立し、小規模のマレット製造専門会社としてスタートしました。創業当時はアパートのリビングから始まり、1年後は2台分の車庫とその上の1室を使える程度の小規模な会社でした。96年に100 平米ほどの新しいオフィスを建て、99 年にかけて大きく成長することができ、01年に現在の場所へと移り、保有面積も約460 平米から1,200 平米へと広がりました。こうなれたのは、この30 年、マーチング、コンサート、ドラム・セットの各分野のトップ・アーティストと共に開発を続けていることが最も大切なことと信じており、これを守り続けていることが成長に欠かせない重要な要因です。現在も社長のジョンソンとCEO のジョージ・バレット、オペレーション担当の副社長クリス・ロングと共に会社と製造工程を監督し、品質管理を徹底しており、今後も市場で常に最高のデザインを持った高品質の製品を生み出すことにこだわりを持ち続けています。

社長のエリック・ジョンソン氏
1996年のInnovative Percussion Office

●ちなみに初めて手がけた製品は?

IP 初めてデザインしたのは、今日の代表モデルであるマレット、“Soloist Series”です。現在もIPマレットの中で一番人気のシリーズで、鍵盤楽器全体の中でも最も人気のあるモデルの1つです。Soloist Seriesのコアはハードラバーで、ウェイトも増やし、彼の学生時代の想いを実現させたとても温かいサウンドを生み出します。その後は、パーカッション・アンサンブルやヴィブラフォン、シロフォン、グロッケンなどの鍵盤楽器向けのマレット製造をしていく中で、99年にマーチング分野やドラムコーに向けたドラム・スティックの販売を始めました。00年の夏にはローズモント(イリノイ州)のキャバリアーズというような世界的に有名なドラム・コーが専属でIPの製品を使い始め、キャバリアーズはFred Sanford High Percussion AwardとDCIのチャンピオンを同時に獲得し、ブランドの知名度を高めることができました。

Soloist Seriesのマレット
LIVE! From The Rose – The Cavaliers 2021 Percussion Ensemble (OFFICAL RELEASE)

●ドラム・スティックはその後なんですね。

IP 04年にジャズ界のレジェンド・ドラマーであるエド・ソフと共に、最初のドラム・セット用のスティックを思案し始めました。エドはノース・テキサス大学におけるジョンソンのドラム・セットの先生で、彼と(エド)シグネチャー・モデルを2機種作り、またVintage Seriesのデザインにも大きく貢献してもらいました。Vintageは継続して一番の人気シリーズとなっています。それから同社は、Legacy Series、Innovation Seriesなども開発してきました。今もなおドラム・セット用スティックのラインナップは拡大中です。どうぞご期待ください。

Vintage Series 5A(IP-5A)

●スティックの木材やサイジング、チップの形状やテーパーなど、IPならではのこだわりを教えてください。

IP 品質面のコントロールが重要と考えたため、16年に全ドラム・スティックの製造を自社工場で行うようになりました。材料はすべて極上のホワイト・ヒッコリーを採用しています。その中で重量のある真っすぐで締まった木目、含水率が8%〜10%でピッチの高いものを厳選し、高品質のドラム・スティックを作るために不可欠な厳しい条件を設定しています。木材加工は高精度の旋盤機械を用いサンディングを行います。旋盤加工後、両端の余分な部分をカットする独自の設計に基づいた機械を通過し、チップとグリップ・エンドをそれぞれのモデルごとに削り出します。その後、コーティング工程(Tumbling Process)へと進み、特別なラッカーでコーティングされた後、45 分ほど回転させて仕上げます。ラッカーの特徴は滑らかで薄めですが、十分に粘りを持たせることで、ドラマーにとって心地良いグリップ感を重視した塗膜となっています。そして研磨工程を経て、ウェイトおよびピッチのペアリングへ進みます。ペアリングには3つの工程があります。

①反りのテスト:反りのあるものはすべて工程から除外されます。

②重量のチェック:自動的に重さに応じた容器へ振り分けられ、正確に1.9 グラムごとに振り分けられます。

③ピッチのチェック:スティックを回しながら小さいマレットで3回叩き、コンピューターで3つの異なる場所のピッチをヘルツで読み取ります。

この工程により、部位によるピッチのバラつきや、ピッチが低すぎるものを取り除き、その後スティックはもう一度仕分けされ、完全に同じピッチとウェイトに分けられます。この厳しいペアリング・チェックが完了したスティックにInnovative Percussionのロゴと個別のモデル番号がスタンプされますが、条件をクリアしない限り、Innovative Percussionのロゴが与えられることは決してありません。

  • 機械制御によるスティック成型の後、手作業による太さのチェックの工程
  • 削り出しと上下裁断の完了したスティックは湿度管理を行いながら緩衝材入りのボックスに保管される
2020 IP Commercial
製造工程の一端が見られるIPのプロモーション動画

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各シリーズの紹介&ブラシやロッズ、ビーターを紹介!