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ドラムが叩けるプライベート・スタジオ ― コンテスト活用術 Vol.2

  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine Photo:Takashi Yashima

ドラマーであれば “自宅でドラムを叩きたい!”という願望を誰しも一度は抱くもの。ドラマガ本誌では、プロ用のスタジオやライヴ・ハウスの防音/音響工事も行うアコースティックエンジニアリングによる施工で実現した“夢の自宅スタジオ”を紹介する連載をお届けしているが、今回はその特別編、“誌上ドラム・コンテストでの自宅スタジオ活用”をテーマに取材を実施。第2弾としてフィーチャーするのは、本誌2021年1月号で取材した今井義頼。彼が二次審査員を務めた昨年のコンテスト課題曲「Symbiosis」の実演動画を、自宅スタジオ=“Imai TKR studio”で撮影していただいた。

▲前回の誌上ドラム・コンテスト「BACK to the FUSION」で二次審査員を務めた今井に、自宅スタジオで当時の課題曲「Symbiosis」をプレイしていただいた。「審査は楽しくて仕方なかったです。この楽曲にハマった演奏をすると、シャカシャカと後ろで鳴っているシーケンスの音がしっかり浮き出てくるんですよ。シーケンスも曲の一部なので、ハマらないアプローチをしていたり、ドラムの音量を上げてごまかしたりしちゃうと、それでグルーヴに欠けた演奏になってしまう応募者の方もいたのかなって。映像の良さは付加価値的なものなので、基本の演奏を大事にしてこそ、動画の中で注目してほしいフレーズを目立たせるような演出を生かしていける気がします。ちなみに、この動画の編集はリットーミュージックさんにお任せするはずだったんですけど、やっていたら楽しくなっちゃって、最後まで自分で仕上げてしまいました(笑)」と今井は語る。

今井義頼宅 Imai TKR studio

Profile●いまいよしのり:1987年生まれ。20歳でプロ・ドラマーとしてのキャリアをスタートさせる。フュージョン由来のテクニカルかつパワフルな演奏で幅広いアーティストのライヴ/レコーディングなどをサポートする他、有形ランペイジ、Blind Spotのメンバーとしても活動中。新作CD『Blind Spot V』のドラム・パートは、この新しいスタジオでレコーディングしたそうだ。最新の活動情報は、TwitterYouTubeなどの各種公式SNSをチェック!

もともと10畳だった部屋をリフォームした約7.9畳(収納含む)のスタジオ。住宅のスタジオとしては驚異的なレベルの遮音性能を確保。新たにLANケーブルを配線し、 安定した通信環境でリモート・レコーディングやオンライン・セッションが行えるのもこのスタジオの強みだ。既存の大きな掃き出し窓は、砂とセメントを使用した遮音壁により、外に対してD-80等級という非常に高い性能を獲得。ヤマハ・ライブカスタムハイブリッドオークに計16本のマイクがセットされた様子は圧巻。背後の板張りの壁が中央に向かって折れ曲がっているのは、今井の知人のエンジニアによるアイディアで、主に高音域を拡散し、低域を板の振動で吸音することですっきりとした響きを実現している。家具などを塗装する業者による仕上げも美しく、本人曰く「このスタジオで一番気に入っている部分の1つです(笑)」。

空いた時間を有効に使って
作品づくりの一連の作業を
自宅で思い通りに完結できる

今井:僕が誌上ドラム・コンテストへの応募を始めたのは2003年で、当時、僕は高校1年生でした。その年のエントリー方法は、今みたいに演奏動画をアップするのではなくて、課題曲のオケに自分のプレイを合わせて録ったMDなどのメディアを、直接編集部に郵送するという形だったんですよね。

それで、父が持っていた昔のTASCAMのミキサーに、2000円で買ったカラオケ用のマイクをつないで何とか録音した音源で応募したのが最初です。“自分なりに良い音で録りたい”という気持ちと探究心もあったので、それ以降の年も、知人が貸してくれたMTRを使って8chで応募用音源をレコーディングしてみたりと、いろいろな録り方を手探りで試していました。

その後、2009年の「最強プレイヤーズ・コンテスト」で準グランプリに選出していただいたんですけど、当時の成績は、コンテストの最終審査まで残ることはできてもなかなか入賞できないという結果が続いていたこともあって、“賞には入れないんだろうけど、せっかくだから応募しよう”というくらいの気持ちだったんです。

それで、わりと力を抜いて好きなようにプレイしたものをミキサーで録って応募したんですけど、後日、編集部から電話が突然かかってきて、コンテストの決勝進出の連絡をいただいたのにはびっくりしました(笑)。決勝大会はライヴ審査という形だったのですごく緊張しましたけど、楽しかったのを覚えています。

▲ドラム・セットの反対側は収納スペース。所有機材リストに沿って図面上でシミュレーションを繰り返し、すべての機材が収まるように設
計された。扉は布張り+グラスウールで音を透過させ、収納スペース自体が主に低域を吸音する。これも室内のクリアな響きに貢献している。

今回は、アコースティックエンジニアリングさんに施工していただいたスタジオをコンテストでどう活用するかというところで、去年のコンテストの課題曲「Symbiosis」の演奏動画を実際に撮影してみました。実はこの動画、深夜に撮影を始めて、午前2時半ごろに録り終えたものなんです。自宅の周りにはけっこう民家があるんですけど、こうして時間を選ばずに自分の家でドラムを叩けるのは、アコースティック(エンジニアリング)さんの技術のおかげですね。

遮音性はもちろん、スタジオ内での音の響き具合いまで整えていただいたので、遊びにきてくれたドラマーの方にも「部屋の響きが良い。レコーディングではルーム・マイクを使うと良さそうだね」と言ってもらえるほどクオリティの高いスタジオに仕上がりました。本当に素晴らしいなと思います。

ドラムの演奏動画を撮っていると、自分の感性が刺激されて、カメラの位置などもいろいろとこだわりたくなりますよね。“憧れてきたあのアーティストの映像っぽく撮りたいな”とか、そういうイメージを投影していく作業が1つの楽しみになってくるというか。僕の場合はiPhoneを使って撮影しているんですけど、例えば、ドラムの左斜め前にカメラを置いて、下からちょっと見上げるようなアングルから撮影したりするのがけっこう好きで。

そういうふうに“こう映すとカッコいいんじゃないか”とこだわりながら撮っていくと、自然とドラムのアプローチと映像とをセットで考えることになるので、自分の中では1種の作品づくりのような感覚で捉えています。今回の動画を作るときも、そういう楽しさを存分に味わえました(笑)。

▲圧巻の多点セッティングに組み込まれているシンバルは、すべてジルジャンで統一。フット・ペダルは、ヤマハの最新モデル=FP9を愛用している。

レコーディングでは、自分でデータ納品まで担当するお仕事をけっこうさせていただいています。いつもロジックを使って録るんですけど、プラグインやマイク、そしてインターフェイスについてもいろいろ考えながら揃えてきた機材には思い入れがありますし、それをいつでも使えるのはプライベート・スタジオならではの魅力ですよね。

この映像の中では、横にあるスネアをパーン!と叩くアプローチをしているんですけど、あれはその場での思いつきで入れたものなんです。例えば、エンジニアさんだったり、人と一緒に何かを作っていく環境の中だと、細かい打ち合わせが必要になりますよね。

だから、こういう思いつきのアプローチとか、自分が描きたい通りのことをそのまま実現するのはけっこう大変で……その点、自分の空いた時間を有効に使って、作品づくりの一連の作業を自宅で思い通りに完結できる環境が整うのも、プライベート・スタジオの強みなんじゃないかなって。プロはもちろん、アマチュアの方の手も届く範囲で、こんな夢のような環境を提供されているアコースティックエンジニアリングさんはすごいなと思います。

▲吸音パネルの一部は取り外しが可能で、中は鏡になっている。レコーディング時に響き具合いを調整することができる。

▲出入り口の外にある段差部分には、機材の搬入と搬出をスムーズに行えるようにスロープを設置。

前回のコンテストではありがたいことに2次審査員を務めさせていただいたんですけど、自分でこの課題曲を演奏したときにあらためて実感したのは、一番大事なポイントはやっぱり、“楽曲のリズムにしっかりハマってノれる演奏ができているかどうか”というところになってくるんだなと思いました。

まずは演奏が音源にしっかり噛み合っていなければ、どんなに映像や音色にこだわってあれこれやったとしても説得力に欠けてしまいますよね。逆に言うと、曲にハマったアプローチを映像の中で効果的に演出できたら、何倍も面白い応募動画に仕上がるんじゃないかと思います。

▲メインのドラム・セットに対面する形で、もう1台セッティングが可能。スタジオが完成したタイミングでステージカスタムヒップを新たに導入したそう。

今の時代は、不特定多数の人に演奏を見てもらえるSNSがあることも大きいですよね。コンテストの応募動画をYouTube上にアップロードするという今の応募方法もすごく良いなと思います。実際に動画を見にいくと、審査期間中もコメント欄が盛り上がっていたり、再生回数がグッと伸びたりしているんですよ。

僕の知人にも、応募した動画を形として残しておけることをすごく喜んでいる人や、“今はコロナ禍だから人と合わせる機会はないけど、目指す場所があるのがうれしい”と、コンテストに思い入れを持って、アプローチや映像を作る過程も楽しみながら応募している人がけっこういるんです。もし腕に自信がなかったとしても、1つの作品を完成させるまでの過程で思いがけない楽しさに出会うかもしれませんし、自分の世界を拓くきっかけにもなるイベントだと思うので、今年のコンテストもぜひ、たくさんの方に挑戦してみてほしいですね。

アコースティックエンジニアリングとは?

株式会社アコースティックエンジニアリングは、音楽家・音楽制作者のための防音・音響設計コンサルティングおよび防音工事を行う建築設計事務所。1978年に創業して以来、一貫して「For Your Better Music Life」という理念のもと、音楽家および音楽を愛する人達へより良い音響空間を共に創り続け、携わった物件の数は2,000件を超えている。現在も時代の要請に答えながら、コスト・パフォーマンスとデザイン性に優れ、「遮音性能」、「室内音響」、「空調設備」、「電源環境」、「居住性」というスタジオの性能を兼ね備えた、新しいスタイルのスタジオを提案し続けている。

株式会社アコースティックエンジニアリング
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