PLAYER

UP

“自分らしさ”を惜しみなく詰め込んだニュー・アルバムが示すピエール中野の“現在地” 【Interview】

  • Interview & Text:Isao Nishimoto

凛として時雨の最新作『last aurorally』が4月12日にリリース。激情をそのまま音にしたような独特のサウンドはさらに純度を高め、激しさを増している。その一端を担うピエール中野のドラムもまた然りで、アルバムを通して聴くと“ピエール中野の集大成”といった印象を受ける。本誌としては久しぶりの本格的なインタビューとなる今回は、近年ドラマー以外の活動がますます多彩になっている彼に、ドラムの話だけをたっぷりと聞かせてもらった。

体力作りで始めたトレーニングが
ドラムの演奏にも良い影響を与えた

●アルバムのリリースは5年ぶりですが、その間もシングルや配信で新曲を発表していましたから、今作はそんな5年間の記録として受け止めました。
ピエール まさに、そういう意味合いが強いですね。ライヴ活動も、配信をやったり、観客の制限はありましたが止まっていたわけではないので、バンドとしてはずっと動いていた感覚があります。今回のリリースに関しては、ずっと凛として時雨が主題歌をやらせてもらっている『PSYCHO-PASS』シリーズの劇場版新作で、ありがたいことにまた声をかけていただいたのが大きかったです。そこから、さらに新曲を作ってアルバムまでもっていこうという流れが自然と出来上がりました。

●とは言え、コロナによる行動制限が特に厳しかった2020年の活動は、1stアルバム『#4』のリマスター盤リリースと配信ライヴに留まっていました。中野さん自身、ドラムに接する時間が少なくなった時期はありましたか?
ピエール ドラムを叩けなかったという感覚は特にありませんでした。その理由の1つは、40歳になってパーソナル・トレーニングに通い始めたことです。子供ができて、一緒に遊ぶための体力をキープするには何かしなきゃと思ったのがきっかけですが、これが意外とドラムにも良かったんです。そもそも、ずっと脱力でドラムを叩いてきたので、筋肉をつけ過ぎると動きが鈍ってしまうんじゃないかという怖さがあったんですけど……。

●筋肉をつけることがマイナスになる場合もある?
ピエール 変に力が入っちゃったり、力を入れることができることによって動きが鈍ったり、速度が落ちてしまうんじゃないかという心配がありました。でも、トレーナーの方も凛として時雨のことを知ってくれていて、演奏の映像を観たり、実際の動きをジェスチャーで説明したりといったやり取りがあった上で、ドラムの邪魔にならないように筋肉をつけていきましょうということで始めたら、うまい方向に転がっていって。

●どんな変化があったのですか?
ピエール 今までだったらけっこう大変だと思っていたフレーズが、だいぶ楽に、しかも芯を捉えるように演奏できるようになりました。基本的に脱力して演奏しているのは変わらないんですけど、どこかでグッと力を入れる瞬間というのがあって、そこでちゃんと絶妙な身体の動きをしてくれるなと。芯を捉える力の入れ方ができるようになって、しかも全然演奏の邪魔にならないし、なんなら速度も上がって、さらにパワーも稼げる。これは有利だってことに気づきました。

ただそれは、ドラムを始めて約25年間、ずっと脱力というアプローチで演奏し続けていたからこそで、そこに対して筋肉をつけたことによって良い方向に向かったというイメージがあります。最初からドラムのために筋肉をつけてやっていたら、違う結果になったんじゃないかと思います。

●トレーニングは今も続けているのですか?
ピエール 週に1日、継続しています。レコーディングとかライヴの前は、負担をかけ過ぎて筋肉痛になってしまうと困るので軽めの内容にしてもらったりして。これは自分の生活にとってけっこう大きな変化で、だからドラムを叩けなかったストレスというのは、実はそんなに感じていないんです。

自分のドラムの魅力をわかりやすく強調する
今はそれを意識しています

●2020年に発売されたアーティスト・ブック『ピエール中野 [凛として時雨]』で、前作『#5』では大きな達成感があったと話していましたが、今回のアルバムはどうでしたか?
ピエール 正直、ドラムに関しては、アプローチも技術的な面でも『#5』でやり切った感がかなりありました。その印象は今でもあまり変わっていないんですけど、今回のアルバムを録り終えて、さらに次のステージに行ったというか、また別のアプローチでピエール中野のドラムを構築していかないといけないなと感じていて。

もともと持っていた自分のドラマーとしての魅力を、もっとキャッチーでわかりやすくして伝えたいという方向に移行している感じがあります。というのも、僕は何年も前から、近い将来レコーディングの演奏がAIに置き換わっていくんじゃないかと思っていて、特に最近はそれが現実味を増していると感じるんです。それこそ『#5』のときは、“ここまでやったらあとはピエール中野のドラミングをAIに学習してもらって……”みたいなことをうっすら考えていました。だから自分自身は、AIにはできないアプローチを突き詰めていかなければいけないなと。

今回のアルバムのドラミングも、わりとわかりやすく、よくやるフレーズが詰まっていると思います。それは“本人じゃないと出せないところをどう強調していくか”を、ドラマーとして意識した結果です。“ピエールはこればっかりだよね”っていうくらい、過剰に同じことをやり続けるみたいな(笑)。

●音色面でも中野さんらしいサウンドが炸裂していて、あらためて感じたのはドラム・セット全体が塊のように聴こえるところです。音数の多いテクニカルなドラムの場合、1つ1つの音が際立つ音作りをすることが多いと思いますが、時雨のドラム・サウンドはそうではありません。でも中野さんが影響を受けてきたドラマーは、クリアな音作りの人が多かったのではないかと思うのですが。
ピエール そうですね。マイク・ポートノイとかジョーイ・ジョーディソン、真矢さんや淳士さんのように、わりと分離良く聴かせる、カラフルな演奏をするドラマーが好きでよく聴いていました。でも一方で、YOSHIKIさんはけっこう塊で出していくタイプのドラマーで、スタイル的にはそっちの方が自分に合っているんだろうな、と。

あとやっぱり自分の原点として、ドラムを始めた一番のきっかけはYOSHIKIさんで、使っている楽器も同じTAMA+ジルジャンで、もしYOSHIKIさんがX JAPANじゃなくてスタジオ系の仕事をするとしたらどんな働きぶりをするだろうかと想定しながら演奏しているところもあって。音も演奏も特徴的で、これはYOSHIKIさんのドラムだなって一発でわかるのがYOSHIKIさんだし、そこを自然とねらっているというのはあるかもしれないです。TK(vo、g)は、そんな僕の特徴をどう生かすかを考えた曲作りやサウンド・メイクをしてくれていて、そういうところにはバンドらしさを感じますね。

●レコーディングで使ったドラムは、以前と同じくTAMAのRockstar(BD)+Silverstar(TT、FT)で変わらずですか?
ピエール はい。音に変なクセがなく、マイクを通したときに音作りがしやすいので、レコーディングではメインで使っています。スネアはTAMAのパット・トーピー・モデルとソナーのベルブロンズ、あとはカノウプスのハンマード・ブラスも使いました。あれは去年の12月にナンバーガールの解散ライヴを観に行って、機材を知ってる人に“スネア何使ってました?”って聞いて、同じのを買ったんです(笑)。

スタジオでのピエール。ドラムはTAMAで、バス・ドラムにRockstar、タム、フロア・タムにSilverstarという氏が絶大な信頼を寄せる組み合わせ。スネア・ドラムはパット・トーピー・モデルがセットされている。

●Twitterにアップされているスタジオのセッティング写真を見ると、シンバルはスプラッシュ/チャイナ/スタックのエフェクト系がジルジャンで、ハイハット/クラッシュ/ライドがパイステのTwentyですね。
ピエール そうです。僕はTAMAとジルジャンのエンドーサーですが、他のメーカーの製品も使える契約にしてもらっています。こういう緩い形の契約の方が、今の時代に合っていると僕は思います。ライヴではチャイナだけパイステのRUDEで、あとは全部ジルジャンです。

●ジルジャンとパイステ、それぞれどういうところが気に入っていますか?
ピエール もともとパイステは好きだったんですけど、ジルジャンと契約してからジルジャンの良さにもあらためて気づいて、ライヴで自分の最大限のパフォーマンスを引き出すシンバルはやっぱりジルジャンだったりするんです。演奏中に感情が高まったとき、ジルジャンは自分の気持ちとシンクロする音をちゃんと鳴らしてくれる。たまに“こんな音出るんだ!”みたいな音を出してくれたりもするので、ライヴでは替えが効かないです。

一方、レコーディングでは、マイクに乗ったときにどれだけクリアに聴こえるか、そしてタイコとの分離感もかなり重要で、特にうちの場合はTKが自分でマイクを立てて録るので、パイステの方が伸びも綺麗でミックスもしやすいという意見があって。それでパイステの中からいろいろ試したんですけど、ちょうどTwentyが発売されたときに叩いてみたら、ジルジャンとパイステの両方の良さを併せ持っていて、レコーディングのメインになりました。ただ、すぐ生産終了になってしまったので、良い中古があったら買うようにしています。

次ページ 各楽曲のドラミングについて