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UKロックの代表格=カサビアンのイアン・マシューズが最新作、ルーツ、そしてBritish Drum Co.について語り尽くす!【Interview】

  • Interview:Satoshi Kishida
  • Translation:Atsushi Shimizu(ELECTORI CO.LTD.)
  • Special Thanks:ELECTORI CO.LTD./British Drum Co

サージ・ピッツォーノがメイン・ヴォーカルを取る新体制で再スタートを切ったUKロック・バンド、カサビアン。5年ぶりに発表したアルバム『The Alchemist’s Euphoria』は全英1位を記録。昨夏にはサマーソニックで久しぶりの来日を果たし、圧巻のステージを披露したことも記憶に新しいだろう。そんなバンドの屋台骨を担うのがドラムのイアン・マシューズ。今回、彼が創立に携わったBritish Drum Co.の日本代理店を務めるエレクトリの協力の元、初となるインタビューが実現した!

不安な気持ちでステージに上がったんだけど
感動を覚えるくらい温かく迎えてくれた
新生カサビアンの誕生の瞬間だったよ

●前作から5年ぶりの新作『The Alchemist’s Euphoria』の全英1位獲得、おめでとうございます。前作から5年のインターバルというのは、カサビアンにとって初めてと言っていい長い期間だと思います。トム・ミーガン(vo)の脱退から、サージ・ピッツォーノがメイン・ヴォーカルを取ることを決め、新作のレコーディングに入るまでの、バンド内での意思決定の流れを、簡単に教えていただけますか

イアン  トムの脱退の詳細に関しては、デリケートな話でもあるので割愛させてもらうけど、いつの日かビートルズみないな存在になれば、将来的には面白おかしく話ができるかもしれないね。いずれにせよ、ご存じの通り、パンデミックになってから直接人と会う機会が、一時的にせよなくなったこともあって、ZOOMやSkypeを使った形でメンバーとも連絡を取ってたけど、もう活動もできず、これでカサビアンも終了かなとさえ思ったんだ。

2020年の最後にamplify.linkというweb3.0のプロジェクトが始まり、そこにしばらくは没頭していた時期もあった。でも、振り返ってみればトムと出会ったのが2001年で、2004年に正式加入してからは、ライヴ活動を積極的に行っていたけど、その間に家族ができて、長期間、家を空けるのが難しくなったり、いろいろと状況は変わってきた。

2019年はいずれにせよ、カサビアンにとっては完全にオフの年で、その時期にもサージは自身のプロジェクト用の楽曲をかなりの量を作り込んでいたんだよね。それらはカサビアンではなく、彼のプロジェクトThe S.L.P というバンド用の曲で、それでサージは楽曲制作にかなり自信をつけた感じだったね。で、サージはカサビアンでも多くの楽曲制作に関わっていて、The S.L.P での活動を側から見てると、サージがメイン・ヴォーカルでも良いんじゃない?と思ったので、とりあえずサージをメイン・ヴォーカルでやってみようかということになったんだ。

2021年には、ティム(カーター/g)とサージが共同制作して、「Alygatyr」 というシングルをリリースして、アカデミー(3,000名程度が収容できるライヴ会場)ツアーをUKで開催したんだけど、とっても不安だった。久しぶりのツアーで、グラスゴーという町で初めてサージがメイン・ヴォーカルで演奏するということもあり、正直非常に不安な気持ちでステージに上がったんだけど、観衆の反応がとてつもなくすごく、未だかつてない感動を覚えるくらいに総立ちで温かく迎えてくれたんだ。新生カサビアンの誕生の瞬間だったよ。終演後に「来てくれてありがとう、これまでのサポートに感謝します」とサージが言ったけど、それまでのどんなフレーズよりも気持ちを込めて、バンド全員の心からの気持ちだったよ。アルバムの制作には18ヵ月ほどかかったけど、結果的にはNo.1にもなって良かったよ。

●新作は、デビュー以来、カサビアンが得意としてきたダンサブルでダイナミックなロックと、特にアルバム『48:13』で展開されたような非常に実験的で、ドイツのプログレッシヴ・ロックや、テクノ、エレクトロニックの流れを汲むサウンドを融合した、バンドにとっても画期的な、素晴らしい作品と思いました。新作の作風、サウンドの方向性については、どのようにイメージが出来上がっていったのですか?

イアン 特に具体的なことは決めず、自然な形で今回のアルバムになったと思ってる。バンドとしての活動歴が長くなればなるほど、バンドとしての進化ということがアルバムを出すごとに自然と湧き上がってきているような感じだと思う。

●プロデューサーに、サージの他に、アデルやサム・スミスも手がけたフレイザー・T・スミスが入っていますね。彼(フレイザー)の存在は、本作にどんなプラス作用をもたらしたと思いますか?

イアン フレイザーはご存じのようにギタリストでもあるから、カサビアンのサポート・ギタリストでもあるロブ・ハーヴェイが参加できないとき……ネブワースのフェスにサポート・ギタリストとして参加してくれたこともあるんだ。ちなみにロブは、The Musicというバンドのメンバーで、彼らのツアーがあるときには、そちらを優先しているから、フレーザーには良くサポートを手伝ってもらっているんだ。

カサビアンの楽曲制作は基本的にはサージの自宅スタジオで行われて、マルチ・プレイヤーでもあるティムが、かなりの部分で曲作りに貢献してくれている。ちなみにティムはサンフランシスコ出身で、テリー・ウィリアムスと演奏していたこともあるんだ。いずれにせよ、フレイザーはプレイヤーの視点でもアルバム制作に関わってくれて、バンド・メンバーが気づかない細かい点をいろいろと意見してくれて、それらがうまく相乗効果が出たのではないかなと思っているんだ。

ほとんどの部分はサージとティムで作りあげた感じかな。僕のドラムもサージの自宅スタジオでレコーディングしたんだ。もちろん、彼のスタジオのキットもBritish DrumのLegendシリーズだ。特別にBritish Drumのキースに作ってもらったものなんだ。少し小口径の20”のバス・ドラムと13”と14” のタムに、16”のフロア・タムがあって、シンバルもあるから、ドラム・トラックはそこですべて録音したんだ。

Legendシリーズのレビューはこちら

●本作の個々の楽曲のリズム・トラック、ドラム・パートに関して、どのように作り上げられていったのでしょか? メンバー全員がスタジオに集まって、せ〜ので演奏したら自然に完成するようなサウンドでは絶対にありませんよね。「Scriptvre」や「Rocket Fuel」は、リズム・パターンもドラム・サウンドも、何種類ものパートが複雑に重ねられています。これらの構想を形にして曲にするために、あなたはどのようにアイディアを出し、曲作りに関与していったんですか?

イアン ドラム・レコーディングは1人でやったよ。もちろんティムやサージも立ち合いの元にね。仮テイクは打ち込みで作ったリズム・トラックだけど、それに自身のフレーバーを加えていく感じかな。

これまでのキャリアで培ったリズム感でレコーディングしていくと自分でも気づかないパターンやグルーブを生み出していることもあって、自分でも驚くことがあるんだ。自分自身、ロック・ドラマーであり、ジャズ・ドラマーでもあるし、未だにさまざまなドラマーの演奏を聴くよ。

例えばトップ・レベルのメタル・ドラマーは、非常に正確なリズムで図形で表すと真四角、な感じであるのに対して、僕自身は円形な感じのリズム・グルーヴを形成していると思っているんだ。

●前作『For Crying Out Loud 』に比較して、レコーディングの仕方などで、今回変化したことや、新しくチャレンジしたことなどはありましたか? 

イアン サージのスタジオが当時もすでにあったけど、今回、別の部屋にスタジオを作り直して、そこを“Surgery”と名づけて、その場所で全パートをレコーディングしたんだ。月から金までの、9時〜17時を作業に当てたね。少なくとも今回のアルバムはある意味、サージのヴォーカルがすべてで、そこが大きな変化だよね。 アルバムの長さもちょうど良くて、個人的に何回も聴いてられる感じだと思うよ。

●「T.U.E (The Ultraview Effect)」や「Stargazr」では、加工された音の間で、生ドラムやシンバルの音が、自然に響いていて安らぎを与えてくれます。今回のようなモダンなサウンドの楽曲が並ぶ作品中で、ご自身のアコースティック・ドラムや、生のドラム・サウンドを効果的に使うことについて、工夫したことなどはありますか?

イアン オールド・スクールなリズム・マシンだけではなく、自分自身のサンプルループも使いながら、それらが結果的には面白い感じになったのではないかな。

サージの作ったデモ・トラックのリズム・パートにうまく自分の演奏を重ねた感じで、そこにはやはり今までのライヴやレコーディングでの経験がうまく生かされているかと思うよ。

●カサビアンと言えば、グルーヴィなロックがトレード・マークであり、ベースとドラムが互いに太い2本のラインを絡み合わせて、リズムを作っていくというのが、今までのイメージでした。ところが本作では、ベースとドラムの関係性がバンドの中で変わったという印象で、リズム・キープやグルーヴを担う役割として、ドラムの比重がより大きくなっていると感じたのですが、いかがでしょう?

イアン 面白い指摘だね。特に自身では大きく変化したとは考えてないけど、自分のベース・ラインに対する感覚が変化したのかもしれないね。

ベースだけでなく、全体の楽曲を考えながらドラムを叩いているので、ベースだけに集中したわけではないからね。ヴォーカル・ラインも大切にするし、シンセベースもある曲にはやはり異なるアプローチをすることもあるしね。年を重ねるとある意味、自分自身の中でも変化が出てくるので、そういった変化がサウンドに出ているのかもしれないね。

基本的なバンドの体制は変わらないけど、昔と比べて各人の経験があがるにつれて昔にはなかったようなアプローチを気づかないうちにしている可能性もあるよね。

●新体制となったカサビアンのバンド内の現在の雰囲気や、過去から現在までの音楽の作り方、考え方の変化などについて教えてください。

イアン とても変な感じがするバンドだよね(笑)。でも、今このバンドにいるのがとても楽しい。サポート・メンバーのベン・キーリー(key)、ゲイリー (アレスブロック/tp)、そしてロブ(g)も人間としても素晴らしい。スタッフやクルーも含めて、パンデミックという非常に厳しい状況で、バンドがなくなるかもしれないという状況があって、実際活動ができなかったわけだから、そんな時期を経て、バンド自身大きく成長したと思うね。

ホテルに着いたらみんなで同じエレベーターで部屋にいくし、ツアー中にもみんなで朝食も取るし、ご飯にもみんなで行くし、映画も観に行ったりすることもあるんだ。ツアーがオフの日にもみんなで出かけるくらいに仲は悪い(笑)。

●(笑)。カサビアンは、英国ロックの輝かしい伝統の流れの中にあるバンドと思います。前作はビートルズなどのビート・ポップ・ロックを感じましたし、過去にはストーン・ローゼズやオアシス、プライマル・スクリームらの影響も感じました。特にリズム面から考えた場合に、今作のような斬新な作品を作り上げ、ロックのドラミングをアップデートしていくに当たって、ドラマーとして、どんなことに留意したらいいのでしょうか?

イアン もちろんサージはオアシスの影響を非常に受けている。僕自身は年齢が彼より上なので、ジャズ・ドラマーでもある点が大きい。オアシスやプライマル・スクリームといったバンドは好きなんだけど、自分自身はそれ以上にバディ・リッチの影響を大きく受けているね。確か1969年にブリストルにバディ・リッチが来たときに、チラシにサインをもらって、まだそれを持っているよ。それ以外では、イアン・ペイス、クライブヴ・バー、ニコ・マクブレインや「Take Five」で有名なジョー・モレロといった、70年代から80年代のドラマーの影響が非常に大きいんだ。

今挙げたようなドラマーの影響がベースにあるから、サージとはすこし違った形でアウトプットしているのだと思うよ。イギリスのメディアからは“ピンクフロイドの影響は?”とか聞かれるけど、そこはないかな。基本、ジャズ・ドラマーでロック・ドラマーというのが自分の中での位置づけかな?

子供のときには両親が流すトニー・ウイリアムスなんかを車で聴いてたりしたので、自然とそういった影響もかなりあると思う。具体的に何か意識をしてということはなくて、やはり年月と共に経験が重なり、その結果として常にアップデートされている状態になっているのではないかな?

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