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ミニマルなビートなんだけど
少しギミックがあるのが僕にとってベスト
●アルバムのストーリーの世界観を楽曲に落とし込むという点では、ビートもすごく練られているように感じます。
荒田 WONKとしては、コード進行をちょっと凝って、メロディ・ラインで担保するっていうポップさの手法を取ってるんですけど、そこに対してビートが攻めすぎるとごちゃごちゃになってしまうんですよね。そのさじ加減が難しかったんですけど、そこはかなりこだわっていきましたね。例えば「EYES」では普通の4つ打ちっぽいサウンドなんだけど、ポリリズムがバックで鳴っているようなビート・メイクにチャレンジできました。
●一定のパルスを刻むバス・ドラムも、絶妙な攻め具合いですよね。
荒田 そうですね。あれ以上凝ってしまうとメロディ・ラインとの絡みが意味不明になってしまうような気がしたんです。それこそIO君のバンドで培ったことを生かして、このキックのパターンはかなり攻めたなというのは自分の中で思っています。
●確かに今作は、メロディ・ラインもかなりポップになっている印象があって、その中でドラムのフレーズについては遊びすぎず、耳馴染みが良い上に楽曲ごとのビートのバリエーションも多彩だと思いました。
荒田 僕自身、遊びまくるプレイ・スタイルではやりたくなくて。クエストラヴが好きなので、基本的にはドラムで無駄なことはしてほしくないんですよね。ただ、例えば今までのヒップホップの作品でも、基本的にはシンプルなビートでありたいんですけど、ギミックは入れたいなというのは意識しているんです。ミニマルなんだけど、少しギミックがあるというのが僕にとってベストで、無駄なことはあまり好きではないんですよね。
●今作のビート・メイクにもそのスタイルが忠実に再現されていたと思います。以前からクリス・デイヴやJ・ディラなどからも影響を受けていたというお話は聞いていましたが、最近では他にどういうドラマーやビート・メイカーに注目していますか?
荒田 前のフル・アルバムから今作をリリースする3年間で、新しいビート・メイカーの楽曲も聴くようになって、自分の打ち込みや生ドラムのフィールにもかなり生きているのを実感するのですが、その1人が、モンテ・ブッカーというビート・メイカーで、ラッパーのスミノと一緒にやったりしている人がいるんです。彼のビートはぜひ聴いてほしいんですけど……サウンドがトラップでありながらも、キックは丸い音を使ってて。新しい音作りなんだけど、フィールがわりとJ・ディラを継承しているんですよね。今回のアルバムの音作りやトラップの打ち込みでも参考にしました。
●打ち込みと生ドラムの楽曲ごとの使い分けについてはどうしていますか?
荒田 ネオソウルや最近のブラック・ミュージック系統が上モノのときは、極力打ち込みにはしているんです。ヨレを生かすドラムを叩くときに、個人的にはスネアの余韻がいらないんですよ。できるだけタイトでいたいし、1つ1つの音がタイトだからこそ、ヨレてるビートが引き締まると思うんですよね。そこでスネアの余韻を聴かせすぎると、余計ダラダラしているような印象を受けてしまって、締まるべきところが締まらないなって。逆に上ネタが打ち込みの場合は、コントラストをつけたくてドラムは生にしたいなと思うときはありますね。
●それこそ「Fantasist」は全部生ドラムで収録していますよね?
荒田 あ、そうですね。あの曲はリチャード・スペイヴンをイメージして生ドラムで叩いています。これが一番フレーズが細かいですよね。僕がいつもやるような感じのドラムではないんですけど、アルバム全体の中では良いアクセントになったかなと思います。今作は生ドラムのレコーディングを数時間しか行っていない中でも、「Fantasist」が一番時間かかったかもしれないですね。チューニングから音作りまでかなりこだわって、結構細かいことを叩くので何テイクか重ねたんですけど、この曲に時間をかけすぎて、そのあとに録った「Third Kind」と「If」の2曲はそれぞれ1テイクで録りました。幹さんと「ヤバい、ヤバい〜!!」って言いながら(笑)。
●「If」はビートもかなり作り込まれてる印象があったんですけど、1テイクで決めていたんですね(笑)。打ち込みのビートの楽曲で言うと、「Mad Puppet」はヒップホップ調で展開するキレのあるタイトなビートが、メロディとの絡みも含めて耳に残って印象的でした。作曲はどのように?
荒田 これはめちゃくちゃ前に作ったんですよね、記憶が……(笑)。これは僕と幹さんで作ったんですよ。かなりディアンジェロを意識した曲で、サビをタイトめにしつつ、ホーンのセクションも入れてちょっと派手にしようっていうのが最初のコンセプトだった気がします。
●このアルバムの中では古株の曲なんですね。
荒田 そうですね、もうだいぶ前からライヴでもやっているんで。ネオソウル以降のファンク的な要素も入れて、そこに若干ポップに寄った聴きやすい展開をつけて、うまい具合いに全体調整していきました。ギターとベース、ホーンの絡みがあって、コーラス・ラインもいろんなパターンで録ったので、ドラムに関してはほぼ何もやらなくていいと思ったんです。ジェイムス・ブラウンじゃないですけど、常にキープして、グルーヴの根幹のところはまったく動かないみたいな意識で作った記憶があります。