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Archive Interview −クエストラヴ[ザ・ルーツ]−

  • Photo:Takashi Hoshino
  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

サンプリングしたビートにラップを乗せたスタイルで、ブラック・ミュージックに革命を起こしたヒップホップ。フィラデルフィアで結成されたザ・ルーツは、ヒップホップに生演奏を取り入れた先駆者である。バンドの頭脳であり、ドラマー&プロデューサーとしても活躍するクエストラヴは、00年以降の音楽シーンにおける最重要人物の1人。本日は彼の誕生日ということで、クエストラヴのまさに“ROOTS”に迫ったアーカイヴ・インタビューがこちら!

ヒップホップ以降の数多くの作品に参加してきたから
カメレオンのようにさまざまに役割を変化させる必要があった

●あなたのドラマーとして、ミュージシャンとしてのルーツについてうかがいたいと思います。あなたはどのようにドラムや音楽を学び、吸収し、演奏してきたのでしょうか?

クエストラヴ 俺が最初に意識した、アイドルと呼べるドラマーを1人挙げるとすれば、それはアヴェレイジ・ホワイト・バンドのスティーヴ・フェローンなんだ。俺の演奏からは、スティーヴ以外にもジョン“ジャボ”スタークスやクライド・スタブルフィールド、バーナード・パーディなんかの影響が感じられるかもしれないけど、スティーヴ・フェローンが入った後に出たアヴェレイジ・ホワイト・バンドの 6、7枚のアルバムを聴けば、俺のスタイルの基本になっているのが何か、はっきりわかるはずさ。タイトなスネア・サウンドやハイハット、アクセントやフィルの入れ方、ロールのやり方などの点で、彼はとても規則正しい演奏をしている。やっているのはファンクだけれど、ヘッドやシンバルのどの部分を叩くかといった部分まで、完璧にコントロールしているんだ。俺は子供の頃、スティーヴ・フェローンのそういうところに惹かれて、それが俺の素のドラミング・スタイルになった。フィラデルフィア・エクスペリメントのアルバムでは、素のスタイルで叩いているよ。

でも、俺はヒップホップ以降の数多くの作品に参加してきたから、カメレオンのようにさまざまに役割を変化させる必要があった。例えばディアンジェロは故J・ディラのサウンドが大好きだというのを知っていたから、俺はJ・ディラならどんなふうにビートをプログラムしただろうと考えながら(ディアンジェロの)『VOODOO』の作業にあたった。一方、ファレルのプロジェクトでは、ファレルからクインシー・ジョーンズのあまり知られていないアルバムのようなサウンドを要求された。そのドラマーはジョン・ロビンソンだったから、俺もジョン・ロビンソンになったつもりで演奏しなきゃならなかった。アル・グリーンのアルバムで「ユーヴ・ガット・ザ・ラヴ・アイ・ニード」をレコーディングしたときには、アルが「フィリー・ソウルのサウンドでやろう」と言ったから、俺はMFSBのアール・ヤングになった気分で演奏した。そんなわけで、アル・グリーンの「ユーヴ・ガット・ザ・ラヴ・アイ・ニード」とザ・ルーツの「75バーズ〜」、ダイドの新作の「ネヴァー・ウォント・トゥ・セイ・イッツ・ラヴ」など、俺が参加したレコーディングの中から無作為に5曲選んで聴いてみれば、どれもまったく違ったサウンドになっているよ。ダイドのアルバムでは、ジョン・ブライオンがフィオナ・アップルのレコーディングに参加したらどうするだろうと考えたんだ。「彼ならコンプレッションを強くかけて、俺にドラムのチューニングをさせないだろう」ってね(笑)。俺がこっそりチューニングを直したとしても、演奏を始めればすぐ、「ああ、ダメダメ、それは僕のチューニングじゃない」って言うよ。彼の耳はそれぐらい鋭敏なんだ。そうなったら、俺は「ああ、ちょっと強めに叩いたから、チューニングがズレちゃったかなぁ」とか何とか言ってごまかすしかない(笑)。とにかくダイドでは、アル・グリーンともザ・ルーツともエリカ・バドゥともやり方が違っていた。

●レコーディングの方針によってスタイルを変えられるセッション・ドラマーというのは他にもいるかもしれませんが、あなたの場合、どんなスタイルで叩いても個性を発揮するという意味でユニークだと思うのですが。

クエストラヴ そこにはまた、別の要素が関わっているんだ。黒人のセッション・ドラマーというのは、ほとんど過去の存在のように思われてきた。というのも、ポスト・モダンというか、ヒップホップ以後のブラック・ミュージックのドラムはプログラミングされたものだけど、幸い俺は、自分の役割というものを確立できたからね。つまり、俺がセッションをするときは、単にドラマーとして呼ばれたときでも、プロデューサーとしても機能しないわけにはいかなくなるんだ。最近参加した、メラニー・フィオナというユニバーサルの新人アーティストのセッションでもそうだった。俺はドラマーとして呼ばれて、普通ならそれ以外のことには手を出さずに、自分のやるべきことだけをやって帰るところだけれど、新しいアーティストのプロジェクトだということもあって、プロデューサーの仕事までやったんだ。ブレイクビーツみたいなドラム・サウンドにするにはどのマイクを使ったらいいのか、ロックのサウンドにはどのマイクが向いているのか、深みのあるサウンドにはどのスネアを使えばいいのか、甲高いサウンドにはどのスネアを選べばいいのかといったことを、俺はすべて心得ているからね。スタジオで仕事をするにはそういった知識が必要で、本来ならその大部分はエンジニアの領分だけれど、最近のエンジニアだと、うまくいかなかったりするから、結局は自分で自分のエンジニアリングをしなきゃならなくなる。ドラマー兼エンジニア兼プロデューサーになる必要があるんだ。

●さまざまな音楽のスタイルを身につけるために、実際にいろいろなドラマーをコピーしましたか?

クエストラヴ う−ん、変な話だけれど、俺は自分のシグネチャー・サウンドと呼べるようなものがあるとは思っていないんだ。さっきも言ったように、俺の素の状態はスティーヴ・フェローンだし、ヒップホップをやるときにはJ・ディラを目指しているし、過去にロックをやってタイトなドラム・サウンドを求められたときには、スチュワート・コープランドを意識した。でも、ロイヤーのリボン型マイクやRCAの44マイクが使えれば、ジョン・ボーナムを意識していたはずだ。そんなわけで、俺がセッションに参加するときには、自分のスタジオでレコーディングさせてくれるようにお願いするようにしている。そこでなら、どんなサウンドがふさわしいかがすぐにわかるからね。ドラム専用のスタジオで、10種類くらいセットが用意してあるから、どんなサウンドが欲しいのか言ってもらえれば、すぐお望み通りのサウンドが作れるんだ。