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Archive Interview -【追悼】トニー・アレン

2・4拍のリズムは本当に退屈
違った視点からリズムを考えたい

●1969年にアメリカに行ったそうですが、ジェームス・ブラウンといったファンク・ミュージシャンにはどんな印象を持ちましたか?

トニー みんなグレイト、素晴らしいミュージシャン達だったよ。彼らがレコーディングしたアルバムもすごいと思うよ。ジェームス・ブラウンは当時ナイジェリアでもすごく人気があったし、それどころかアフリカ全土、いや世界的なアーティストと言ってもよかったじゃない?

●ジェームス・ブラウンもあなた方の音楽に高い関心を持っていたようですが。

トニー ジェームス・ブラウンとフェラ・クティがお互いどのように影響し合っていたか、論じられることがあるんだけど、実際彼らが演奏していた音楽にあまり共通点はなかったと思うんだ。僕はジェームス・ブラウンのドラマーのように演奏したことはないし、逆に彼らも僕と同じような演奏をしていたわけじゃない。強いて言えば、グルーヴに何らかの共通点が見られるということなんだろうか……。僕にはよくわからないな。ジェームス・ブラウンがナイジェリアに来たとき、彼のスタッフが僕のドラム・パートを採譜していたんだ。僕は全然構わなかったけど、それが実際に演奏されるところを一度も観たことも聴いたこともないんだよ。

●フェラ・クティからはどんな影響を受けましたか?

トニー 彼は誰よりも優れた音楽家だったので、それまで一緒だったバンドをやめてでも彼と活動したいと思ったんだよ。音楽的にはずっと影響を受けていたんで、彼のバンドを脱退したときはソロでやっていくしかないと思ったくらいだ。彼の代わりになるような音楽家を見つけるなんてまず無理だからね。

●あなたのスネア、ハイハット、バス・ドラム、そしてタムを取り入れた独特のコンビネーションによるリズムはまるでループのような効果をもたらしますが、そういったアプローチは自然と身についていったものですか? それとも長年の経験によって作り上げられていったものだと思いますか?

トニー 経験によるものだと思う。これまでになかったようなドラム・スタイルを確立するために自分なりに随分研究したつもりだよ。当時は4人分のリズムを1人で叩くにはどうしたらいいか考えていたんだ。だから今のスタイルに辿り着くまで多くのことを克服しなければならなかった。君が指摘したようにまるでループのようにリズムを演奏することができるけど、それには相当な規律(ディシブリン)が必要なのさ。これを身につけているドラマーは意外と少ないよ。

●リズムも2・4拍にスネアが入るといった典型的な西洋のパターンではないですね。

トニー ああ、そんなのは大嫌いだ。どんなセッションだろうが、作曲者にそういった型にはまったリズムを求められたら僕は断るよ。それだったらマシンにやってもらうか、そういったリズムを喜んで叩いてくれるドラマーに頼めばいいのさ。僕はそんなの叩きたくないよ。キャリアをスタートさせた頃散々プレイしたからね。それはアメリカ人のスタイルであって、僕のではない。

●ところでナイジェリアではどんなドラムを使用していましたか?

トニー フェラ・クティと活動していた頃には自分のセットを持っていなくて、クラブやスタジオに置いてあるのを使用していたんだ。ソロ・アルバムの時は確かプレミアを使ったんじゃないかな。バンドを脱退してソロ活動を始めるとき、さすがに自分のドラムがないとまずいと思ってパールのセットを買ったんだ。今もパールを使い続けているよ。

●アフリカ70が最近になってまた再評価されていますが、なぜだと思いますか?

トニー う〜ん、なぜだろう。随分時間が経っているのにね。もちろん文句を言うつもりはないよ。より多くの人達に聴いてもらって、理解してもらえるんだったら喜ばしいことじゃない? さっき言った通り、2・4拍のリズムじゃないから当時はすんなり受け入れてもらえなかったけど、今の方がむしろ面白いものとして関心が持たれるのかもしれない。今でも素晴らしいメロディ・ラインやギター・パートやホーン・パートを作れる優れた作曲家がたくさんいるけど、なぜかドラム・パートになると決まりきったリズムをつけてしまうことが多い。あまり関連性のないリズムをつけてしまうことによって曲が台無しになってしまうんだ。2・4拍のリズムは本当に退屈だよ。僕はなるべく他のドラマーとは違った視点からリズムを考えたいんだ。

●機械によるループやリズムで成り立っているテクノやヒップホップについてはどう思いますか?

トニー 全部とまではいかないけど結構好きだよ。ドラム・パターンが2・4拍といった型にはまったものでなくて、工夫を凝らしたリズムがプログラムされていればたとえ機械でも気持ちよく聴ける。何というか、説得力のあるグルーヴならテクノでも十分楽しいよ。そう言ったテクノ・グルーヴを自分のドラム・グルーヴに取り入れてみたいと思っているんだ。テクノ・サウンドが入っていれば若い音楽ファンもとっつきやすいだろうし、より多くの人達にアピールするはずだ。

●日本のドラマー達に一言アドバイスを。

トニー 人と同じことをやる必要はないんだよ。自分のスタイルを追求してほしい。機会があったら僕のドラミングを聴いてほしい。ハイハットの刻み、スネア、バス・ドラムを叩くタイミング、ライドのグルーヴなどが参考になるかもしれない。将来は教則ビデオを作りたいと思ってる。そうすれば僕の奏法をみんなに伝えることができるからね。