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    【芳垣安洋のドラム・ノーベル賞!第187回】アフロ・スピリッツ・ジャズの重鎮、カイル・エルザバール

    • Text:Yasuhiro Yoshigaki

    【第187回】アフロ・スピリッツ・ジャズの重鎮、カイル・エルザバール

    DISCOGRAPHY



    『The Continuum』 『Be Known: Ancient/Future/Music』
    Ethnic Heritage Ensemble Ethnic Heritage Ensemble
       
    『Renaissance of the Resistance』 『Conversations』
    Ritual Trio Ritual Trio
       
    『Kahil El’Zabar’s Spirit Groove』
    Kahil El’Zabar feat. David Murray
       

    今回は、アフロ・アメリカン・ルーツの音楽を聴いてみようかと思います。

    シカゴの前衛黒人ミュージシャンによる音楽団体、AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)のことは以前にも書きましたね。この集団にはさまざまな音楽家やグループが属しています。

    有名なところでは、ジャック・ディジョネットがこのグループの出身でした。彼はチャールズ・ロイドやマイルス・デイヴィスらに見出され、NYのジャズ・シーンへと活動の場を移して世界的に名を馳せましたが、近年は古巣であるAACMの中心メンバー達とライヴ・アルバムをリリースしたりなどもしています。60年代、ディジョネットとサックス奏者のロスコー・ミッチェル、ヘンリー・スレッギルの3人は、シカゴの南部にある高校のクラスメイトで、よく一緒にジャム・セッションする仲間でした。その後すぐにディジョネットはピアニストのリチャード・エイブラムスのバンドに参加することになり、65年にエイブラムスがAACMを主宰したときには、ディジョネット、ミッチェル、スレッギルの3人とも初めから深く関わり、そのグループの傘下でそれぞれコンサートを行い、お互いの活動に参加し合うという仲でした。この3人とAACM主宰者であるエイブラムスを含めたメンバーでのライヴ盤が、ECMからリリースされた『Made In Chicago』です。短いモチーフをミニマルに展開する爽快なフリー・ジャズとでも表現しましょうか。ディジョネット、叩きまくってます。スピード感満載。

    最近では、ACCMのメンバーとして、“シカゴ音響派”(トータス、ガスター・デル・ソルなどのバンドを中心とした音響的なテキストを音楽の大きな要素として表現するスタイル)と呼ばれる一団にも籍を置く、トランペッターのロブ・マズレックと共に活動するドラマー、チャド・テイラーもその一員であることが知られています。他にも、フィリップ・ウィルソンドン・モイエなど素晴らしいドラマーが多く参加しています。

    今回は、彼ら以上に特徴的なACCMのメンバーで、40年以上ユニークな活動を継続し、シカゴだけにとどまらず、アメリカの中でも最もアフロ・アメリカンとしてのアイデンティティを強く示し続けてきた打楽器奏者を紹介しようと思います。それが、もはやシカゴ・ジャズ・シーンの重鎮といえる存在になっている、“カイル・エルザバール”です。

    カイルはドラム・キットを叩くとき、スウィング・リズムを中心としたジャズ的な演奏が多いのですが、ドラム・キット以外にもさまざまなパーカッションを演奏して、スウィング系のリズム以外にいろいろな形態のリズムを表現します。コンガやジェンベのような一般的に知られる打楽器以外にもさまざまなアフリカやカリブの打楽器、ムビラ、サンザなどの親指ピアノなどをよく演奏します。また、伝統的なアフリカのリズムだけでなくファンク、ヒップホップなどの要素をミックスしたオリジナルのリズムを作り、少ない編成のアンサンブルの中でもシンプルながら力強いボトムを作り出します。

    彼の主宰するグループの中で最も歴史があるのは、Ethnic Heritage Ensemble(エスニック・ヘリテッジ・アンサンブル)で、カイルが24歳のとき、76年にシカゴで結成されました。ベース奏者を擁しない独特の編成で奏でられる、独創的なアフリカ系スピリチュアルジャズが評判を呼び、81年の『Three Gentlemen From Chikago』、82年の『Impressions』、84年の『Welcome』と、コンスタントにアルバムをリリースします。この頃、アメリカとヨーロッパを回る大規模なツアーを通して世界的な人気を集め、88年にはデファンクトのリーダーで、トロンボーン奏者のジョセフ・ボウイが参加。ジャズ・ナンバーをアフリカ色が非常に強いリズムで演奏する『The Continuum(1998)』、ジャズ的な演奏をドラムキットで演奏する曲が多く収録されている『Freedom Jazz Dance(1999)』などをリリースしました。

    その後もメンバー交代を繰り返し、現在はトランペットのコーリー・ウィルクス、サックスのアレックス・ハーディングにゲストを加えた編成で活動しています。2019年には、過去のレパートリーのセルフ・カヴァー的性格のアルバム『Be Known: Ancient/Future/Music』をリリースします。ピアニストのランディ・ウエストン、セシル・テイラー、トランペッターでコンガ奏者、ジェリー・ゴンザレスらへの追悼曲「N2 Deep」は、カイルのカリンバとパーカッションと歌をベースにリリカルなサックスとトランペットが絡む曲。

    他にも、初期の頃からのレパートリー「Freedom Jazz Dance」はサックスのベース・ラインとドラム・キットによるファンク、不思議な6/8拍子で始まりスウィングに変化していく「Little Sunflower」などなど、ジャズとファンクをずっと見つめてきたカイルの音楽感が強く表れている作品です。

    カイルの活動のもう1つの中心となるユニットは“Ritual Trio”です。80年代にスタートしたこのグループは、エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンにも参加したことのあるサックス奏者、アリ・ブラウンとアート・アンサンブル・オブ・シカゴのベーシスト、マラカイ・フェイバースとのトリオ編成です。トリオのみのアルバムは、94年の『Renaissance of the Resistance』がオススメです。ちょっと滑稽なメロディのジャズ曲「Sweet Meat」、シンプルなベースとカリンバのリフの上でサックスがむせび泣く、静謐なイメージの「Renaissance of the Resistance」などをまず聞いてみてください。

    このトリオは有名なミュージシャンをゲストに迎えたりもして、アルバムを多く出しています。ファラオ・サンダースとの『OOH Live!』、ビリー・バングとの『Big Criff』、『Live At River East Art Center(DVDもあります)』、アーチー・シェップとの『Conversations』などです。シェップとのアルバムはジョン・コルトレーンのジャズの継承という意味合いが非常に強い作品で、その精神がシカゴ・ジャズに受け継がれたことをがよく理解できるのではないかとも思います。04年、マラカイさんが亡くなってしまったのですが、新メンバーを入れてこのトリオも現在活動中です。

    そして、カイルはバンド以外でもさまざまな表現活動を続けてきました。歌とカリンバをメインに、時々打楽器を演奏するというスタイルで、ソロ演奏やサックス奏者、デビッド・マレイとのデュオなどもリリースしたり、ヒップホップ的なイベントやDJアーティストのコラボレーションなどの作品づくりや作曲なども手がけています。昨年リリースされた『Kahil El’zabar’s Spirit Groove(feat. David Murray』、04年の『WE IS: LIVE AT THE BOP SHOP』もぜひ御一聴ください。

    今回は、NYのジャズとは一線を画したシカゴのAACMを代表するミュージシャン、アフロ・スピリッツ・ジャズの重鎮。カイル・エルザバールにドラム・ノーベルを。

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    ◎Profile
    よしがきやすひろ:関西のジャズ・シーンを中心にドラマーとしての活動を始める。モダンチョキチョキズ、渋さ知らズなどのバンドに参加後上京。民族音楽/パーカッションなどなどにも精通し、幅広いプレイ・スタイルで活躍している。菊地成孔やUA、ジョン・ゾーン、ビル・ラズウェルなど数多くのアーティストと共演し、自身のバンドであるOrquesta Libre、Vincent Atmicus、Orquesta Nudge!Nudge!をはじめ、ROVOや大友良英ニュー・ジャズ・クインテットなどでも活動している。ジャンルやスタイル、国籍などを取り払い、ボーダレスに音楽を紹介するレーベル=Glamorousを主宰している。

    ◎Information
    芳垣安洋 HP Twitter