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たたきびと ♯5 “握り方”は身体が教えてくれる

  • Photo:Takashi Yashima Special Thanks:CANOPUS

2014〜16年にお届けした玉田豊夢と朝倉真司による連載セミナー=“たたきびと”をドラマガWebに転載! 打楽器の魅力、楽しさを伝えることを主軸に置いており、ドラム&パーカッションを初めてみようという方に最適な内容です。第五回目となる今回は、スティックの握り方=グリップをメイン・テーマに、ドラムと身体の不思議な関係性について語り合います。

これからドラムを始めてみたいという方は「ビギナーお助け記事まとめ」をチェック!

結局、自分のやりたいことが
きちんとできていれば
握り方は何でも良いんじゃないかと思う (朝倉)

諦めずにやり続けていくと
自然と自分なりの使い方みたいなものを
身体の方が教えてくれる
そういう発見は今でもあります (玉田)

●今回はスティックの握り方=グリップについて、お聞きしていきたいと思います。スティック選び同様、今の握り方に辿り着くまでには試行錯誤があったんでしょうか?

玉田 いろいろ試しはしましたけど、昔からほとんど変わっていない感じがしますね。僕は第一関節を支点にして握っているんですけど()、思い返してみると、結構最初の方からそうやって握っていたように思います。

●第一関節を支点にしたグリップは、誰かに教わった方法なんですか?

玉田 誰かに習ったというわけではなくて、ドラムを始めた頃に音楽番組とかライヴ・ビデオで観た人達の握り方を参考にしながら自分なりに試行錯誤したんだと思います。でも握り方って本当に人それぞれで、僕みたいに第一関節を支点にする人もいれば、第二関節でガッチリと空間を空けずに閉めて握る人がいたり、逆にスティックに触れてないくらい軽く握る人もいますし。

特に専門学校に行っていたときは、先生によって教え方が違うので、すごく惑わされたのを憶えていますね(笑)。でも、いろんな先生の話を聞きながら思ったのは、“要するに何でも良いんだな”、と(笑)! やっぱり自分が叩きやすくて、音も良いと感じる握り方が一番だと思います。

●朝倉さんはどのようにして現在の握り方になったんですか?

朝倉 私は中学校のとき吹奏楽部に入っていて、1つ打ちから細かく一通り指導されたような気がします。具体的にどんなことを教わったのか、今ではまったく思い出せないんですが(笑)、でもそのときに教わった握り方がベーシックにあると思います。豊夢君も言ったように、人によって教え方がまったく違うので、それでいろいろ悩んだ時期もありましたね。今はイメージを大切にして、緩く握ったり、あとはスティックを逆に持ったりすることも多いので、基本的に短く持っています。一度“朝倉はスティックじゃないものでドラムを叩いていた”とライヴ・レポートで書かれたことがあるんですけど(笑)、それくらい短い。

玉田 それは昔からなんですか?

朝倉 そう、昔から。絶対長く持った方が楽っていうことはわかっていて、実際に何度も試してはいて、“楽だし、音も大きいし、鋭いし、スピードもある!”とか思うんですけど、演奏していると自然と短くなってしまうんです。自分の中で原始人みたいに素手とか丸太棒で叩いているようなイメージなんですかね?

玉田 なるほど。朝倉さんの演奏を見ていると確かに、そういう感じに見えますもん。

朝倉 (笑)。ストレートなことしかやらないので、本当にそういうイメージなんでしょうね。結局、自分のやりたいことがきちんとできていれば、握り方は何でも良いんじゃないかというところですね。

玉田 そうなんですよね。やっていると身体が勝手に教えてくれるようなところがあって、変なところに力が入ったりしているとどこかが痛くなったりしますし、そうすると身体が自然とあるところに収まってくるような感覚があるんです。

●フォームもグリップも、やり続けていく中で自然と“自分に合うやり方”へ集約されていくというわけですね?

玉田 ええ。無理なく自分が持ったり振ったりできる筋肉や関節の使い方に、身体の方が調整してくれるというか。人それぞれで、身体が違うから、そこで個性が出てくるとは思うんですけど、ずっとやっていると自分なりの正しい道筋みたいなものができてくると思います。

もちろん最初はマネとかで良いと思うんです。マネの元になっている人は、楽そうに叩いているのに、“自分は何だか苦しい”とか、そういうことにぶつかることもあるかとは思いますけど、それでも諦めずにやり続けていくと、自然と自分なりの使い方みたいなものを身体の方が教えてくれるというか。そういう発見みたいなことは、今でもあります。特にドラムを始めた頃の方が多かったですね、そういう劇的な発見は。それこそ何日に1回か“ん!?”という発見があったり(笑)。

朝倉 わかる(笑)。椅子の高さとか、フォーム全体にそういう発見する瞬間があった。第一印象でこれくらいの高さにしていたけど、低くしたら“なるほど、全部これで解決じゃん!”とか。そこから何年か経って“ちょっと極端だったかな”と少し戻してみたり。

玉田 そういうことの繰り返しですよね。感情と身体とスティックが一致しないときもあるんですけど、それがある日“ギュッ!”と一致する瞬間が訪れるんですね。それも楽器の楽しさというか。ドラムを始めたばかりという人も、そういう瞬間って必ず訪れると思うんです。すぐに訪れるものではないので、根気強く、頑張ってやってみてほしいですね。

※補足……2022年現在、玉田のグリップの支点は第一関節と第二関節の間に変化しているとのこと。

たたきびとの“握り方”を考察

ここでは玉田&朝倉のグリップをチェックしていこう。ドラムを叩き続けていく中で、自然と身についていったその“握り方”には、それぞれの個性が宿っているはず。自分のグリップとぜひ見比べてみてほしい。また、“ビギナーズ・スコア”担当、長野祐亮氏によるテクニカルな解説も必見。

玉田の“握り方”

玉田豊夢のグリップは、写真1枚目を見ると、人差し指の第一関節と親指の腹のやや内側でスティックに触れており、親指と人差し指の間の空間からはリラックス感も伝わってくる。写真2枚目では、中指以下の指が先端に近い部分でスティックに触れている点にも注目で、一般的に指は先端に近いほど鋭敏なコントロールを発揮しやすくなる。ただしスネアの強いアクセントでは人差し指を伸ばし、手の平でスティックを受け止めるようなグリップも用いる。

朝倉の“握り方”

朝倉のグリップは、写真1枚目を見ると、人差し指の第二関節付近と親指の内側サイドがスティックに触れているのがわかる。この形はスティックがやや深めにホールドされるため、手の平との密着度が高まって一体感や安定感を得やすくなる。2枚目の写真では、スティックを短めにグリップする様子もうかがえるが、そのためスティックを逆に持った左手も、くびれた細い部分ではなく比較的太くなった箇所に指を添えられるも安定感のポイントとなるだろう。

※本記事は2014年12月号の連載セミナーを転載した内容となります。

朝倉真司●音楽家、ドラマー、パーカッショニスト 。1996年にLOVE CIRCUSのメンバーとしてデビュー。その後、ヨシンバ、パーカッショングループ ”Asoviva!”のメンバーとして活動しながら、森山直太朗、一青窈、くるり、秦基博、あいみょん、Superfly、ONE OK ROCK、岸谷香、いきものがかり、レキシなどのさまざまなアーティストのライヴ/レコーディングに参加している。
2017年9月には森山直太朗劇場公演「あの城」(本多劇場・2018年3月映像作品化)、2019年7月には20th century(V6) TWENTIETH TRIANGLE TOUR「カノトイハナサガモノラ」
(グローブ座、北九州劇場、梅田芸術劇場・2020年3月映像作品化)にそれぞれ役者としても出演している。
玉田豊夢●1975年生まれ。20歳の頃からサポート活動をスタート。100s、C.C.KINGのメンバーとしても活躍。これまでに中村一義、小谷美紗子、斉藤和義、レキシ、いきものがかり、Superfly、フジファブリック、ポルノグラフィティ、宮本浩次など数多くのアーティストのライヴ/レコーディングに参加。13年には自身のシグネチャー・スネアを発表した(生産完了)。

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