GEAR

UP

【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯17〜SONOR Phonic Snare Drums〜

  • Text:Takuya Yamamoto
  • illustration:Yu Shiozaki

第17回SONOR Phonic Snare Drums

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回はソナーが誇る名器、Phonicのスネア・ドラムに迫ります!

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 今回は久々の入荷となったロング・セラーのスネア・ドラムに注目してみたいと思います。

今月の逸品は、SONOR社の傑作、Phonic Seriesのスネア・ドラムです。

Phonicは、創業から100周年にあたる1975年に登場したモデルで、地元ドイツで採れるビーチ材を用いたシェルに、現代的な内側45度タイプのエッジを採用した、現代的なSONORドラムの“マイルストーン”とも呼べるシリーズです。

グローバル市場では、後発のSignature、Sonorlite、Hiliteといった、いわゆるプロ・モデルとの併売が長く続きましたが、Designerが登場した1990年代半ばに一旦ディスコンとなりました。しかし、日本国内ではその間も継続して販売され続け、2012年なって正式に復活したという、少々変わった経緯があります。

そんな背景もあってか、現行の日本国内向けのバリエーションは4種類ですが、グローバル市場ではRe-IssueのSpecial Snareとして、2種類のみが販売されています。シェル構成が2種類、深さが2種類、その組み合わせで4種類というラインナップなので、整理してみます。

今月の逸品 【SONOR Phonic Series】

D-515PA/14″×5.75″(ローズウッド化粧板)

シェルの構成は、ビーチ・シェルをベースとして、両面にローズウッドの化粧板を施した通称“PA”と、アウターにのみレッド・マホガニーが用いられた“MR”の2種類。そして深さは、5.75インチ(D-515)と6.5インチ(D-516)の2種類。品番で表すと、D-515PA、D-516PA、D-515MR、D-516MRの4種類で、日本ではこのすべてのバリエーションが入手可能です(グローバルではD-515PAと、D-516MRのみ)。

ドラムは、フィニッシュの違いで音色が異なりますが、ローズのPAとマホガニーのMRは全体の厚さにも違いがあり、その差も音色に現れています。“PA”は12ply、10.5mmということで、1989年ごろのマイナーチェンジの特徴を強く受け継いでおり、Signature系統のパワフルさ、重厚さ、タイトさ、ソリッドな質感を備えています。

“MR”は9ply、8.5mmということで、初期の設計に近い仕様です。厚みの違いによるものはもちろんですが、インナーがビーチということもあり、相対的にナチュラルで、わずかに柔らかさが感じられ、ふくよかで、アンサンブルによく溶け込む性質がある、と言えるかもしれません。

しかし、8.5mmという厚さは決して薄いものではなく、ダブルエンドの10lug、SONOR特有のヘヴィなダイキャスト・フープという組み合わせもあって、どちらもタッチに対して敏感に反応し、極めて広いダイナミクスレンジを備えており、ドラム・セットに組み込むスネアとしては、異色の部類になります。

D-516MR/14″×6.5″(マホガニー・レッド化粧板)

ローズウッド仕様はウッド・スネアが登場する前の最初期からのもので、当時のカタログのメイン・ヴィジュアルにも採用されていたので、シェルが薄いレッド・マホガニーこそオリジナルに近い、というわけではありませんが、シリーズそのものが長く販売されていたこともあり、Phonicに対してのイメージは人によって幅があると思われます。

現行品はテンション・ボルトが一般的な太さにあらためられているので、フープ交換も比較的容易です。オリジナル系の音色を掘り下げるならば、トップに厚めのプレス・フープ、ボトムに薄めのプレス・フープといった、往年の仕様に寄せることも可能なので、それも頭の片隅に置いていただけると、モデル選びの一助になるかもしれません。

ここで、新発売されたKompressorでフィーチャーされている、“OSM(Optimum Shell Measurements)機構”について触れておきます。シェルを少し小さく整形するというこの仕組みは、Phonicにも採用されています。SONORサウンドを決定づける、重要な仕様の代表的なものです。いわゆるオーバー・サイズと呼ばれる古い楽器の個性もあるので、これはメリット・デメリットの話ではなく、単なる違いとして捉えていますが、サウンドへの影響はそれなりに大きいものでもあると感じています。

わかりやすい特徴としては、打点による音色の変化が大きく出る傾向が挙げられます。演奏に対して正確に反応する点では、自由自在で表現力があるとも言えますし、一定で安定した音色・音量で叩き続ける必要があるシーンでは、シビアであるとも言える特性です。もちろん倍音の構成や、ピッチとテンション・打感、音量の関係にも影響してくるので、この性質を組み合わせて活用したり、真価を引き出すには、ある程度の経験や知識が必要になってきます。

日本の独特な環境のおかげで、このスネアで技術を身につけてからドラム・セットに転用、レンタルする他社ドラム・セットと共に運用する、という状況が起こりやすくなっています。Phonicは個性のしっかりした楽器なので、どうしても難しい組み合わせというものも存在してしまいます。近年は一周して逆手に取るという手法もよく見かけるので、よくわからないまま真似して苦労する、という状況は容易に想像できます。

まだPhonicを触ったことがない方は、この機会にスネア・ドラムの表現力の真髄を。 すでに所有していて、ドラム・セットを持っていない方は、同等クラスのSONORのドラム・セットと組み合わせたときの扱いやすさを。 考えたり、体感してもらうきっかけになれば、幸いです。


Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

【Back Number】

過去のバックナンバーはこちらから