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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯14 〜DW-6710UL〜

  • Photo & Text:Takuya Yamamoto
  • illustration:Yu Shiozaki

第14回DW DW-6710UL

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。2023年の第一弾は博士も愛用している軽量なシンバル・スタンドにフォーカスしていきます!

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 2023年もよろしくお願いいたします。今回はシンバル・スタンドを紹介いたします。この記事のみでも参考になるようにしていますが、#5のスネア・スタンドの回(こちら)と一緒にご覧いただくと、より深く理解できると思いますので、以前お読み頂いた方も、まだの方も、ぜひこの機会にご覧いただければと存じます。

今月の逸品はDWのDW-6710ULです。

今月の逸品 【DW-6710UL

通称“ウルトラ・ライト”と呼ばれる、極めて軽量なモデルです。部位ごとに、スティール、アルミ、ブラス、樹脂などが巧みに使い分けられており、耐久性と可搬性、フラットなサウンドのキャラクターが、優れたバランスで同居しています。太くてガッチリしたスタンドの丈夫さはすぐにイメージできると思いますが、このスタンドは十分な耐久性を持っています。

個人的に2016年に購入して、2023年の現在に至るまで、ライヴ/レコーディング問わず、メインで使用していますが、これまでにアルミ製とみられるウィング・ナットが1つ破損したのみ。しかも、そのパーツも、現行品ではより強度のあるタイプに置き換わっています。どんなに頑丈な道具も、使い方によっては壊れてしまいますが、前述の改善の方向性も含めて、それなりに高い信頼性があると感じています。

可搬性は目を見張るものがあり、発売当初は約1.3kgとして登場しました。ナットのマイナーチェンジにより、多少重くなっていると思われますが、それでも十分に軽い水準です。前述のナットを現行品に交換した私物を計量したところ、1,274gでした。

参考までに、個人的にスネア・スタンドやスローンで愛用しているDW9000シリーズのブーム・スタンド(DW-9700)は、約5.5kgです。シンバル・スタンドは複数本使用することが多いので、この差が使用する本数の分、効いてきます。6710ULなら、4本でも約5.2kgとなり、その軽さがイメージしやすいでしょうか。

続いて肝心のサウンドについて、掘り下げてみましょう。

この手のコンパクトなフラット・ベースのスタンドは、CamcoやLudwigのヴィンテージ・シンバル・スタンドと並べて語られるケースが多いと思います。スタンドそれぞれに個性があり、各々の好みは、“良さ”として認識されますが、このシンバル・スタンドは味つけの少なさが特徴と言えると思われます。目に見える揺れから、触ってみてようやくわかるような微細な震えのようなものまで、あらゆる振動は音と密接に関わっています。細さと軽さ故に、それなりに揺れて、ツブ立ちがややマイルドな方向になっているなど、それらしいキャラクターでもありますが、使われている素材に特徴があります。

シンバル留め部分のボルトと、レッグはアルミ製、シンバル・スリーブは樹脂、ティルターにはブラス製の部品が含まれており、ダイキャストパーツは亜鉛系の合金でしょうか。もちろん、スティールや、ステンレスが使われている部分もあります。ここまで多くの素材が使われることはめずらしいことです。これは、軽量化を施しながら、強度を確保しようとした結果だと思われますが、副次的な効果として、振動のピークが生じにくくなっています。

ティルター部分を拡大した写真。さまざまな素材が用いられています。

シンバルは、体鳴楽器に分類されており、楽器本体の振動が音になっています。シンバル・スタンドは、シンバルに直接触れて重さを支えているので、楽器が鳴っている間は常に振動の交換が起きており、スタンド側に振動のピークがあると、音色への影響が大きくなる場合があります。これらを総括して、いろいろなシンバルを乗せてみて、実際に聴こえてきた鳴り方を、“フラットなサウンドのキャラクター”として解釈しています。

基本は、脚部の長い部分を床と平行にして、安定性を上げてセッティングします。
マイク・スタンドとの干渉を軽減する目的で、浮かせてセッティングすることも可能です。

気になる点としては、パイプ同士のクリアランスがギリギリなこともあって、重いシンバルを乗せた際のたわみなどにより、内部でパイプ同士が接触して、マレットで鳴らした際などにジリジリと鳴ってしまうことがあります。ジョイント位置を調整したりするなど、即興でも多少の対策は可能ですが、録音などで遭遇した場合は、手っ取り早く重たいスタンドに交換する場合もあります。

なお、確認している範囲で、少なくとも2回のマイナーチェンジが行われており、執筆時点の現行品では、無段階ティルターと、7000シリーズなどと共通の大ぶりなウィングナットが搭載されています。最初期はギア式のティルターが搭載されており、無段階化した直後は小型で軽量なアルミ系のウィングナットが搭載されていた時期もあるので、中古などで購入の際は注意が必要かもしれません。

シンバルのサウンドはスタンドで変化がありますが、スティックの硬さや、ショットスピード、会場の床などとの兼ね合いもあり、何がベストかは、ドラマーの数以上に答えがあります。

奏者側のスキルで調整する幅を持つことも大切で、問題や希望をスタンドだけで解決することはできませんが、所有して使用してゆくことで座標が明確になり、対応方法を身につける助けになることもあるでしょう。

スタンドに関しては、初めて購入したエントリーモデルに付属のスタンドや、先輩などから譲り受けたものをずっと使っているという方も少なくないと思います。物を大切にして、長く使うということは、環境のためにも大切なことなので、無闇に買い替えは勧めません。

ただ、優れた音楽を生み出そうとする過程では、些細なことを積み重ね続けて、やっと到達できる水準が存在することは間違いありません。スタンドの交換は、単純なサウンドの変化や演奏前の運搬による疲労の改善、知覚することによるスキルへの影響など、湖面に投じた小石による波紋のように、じわじわと影響していきます。

この記事が考えるきっかけになれば、うれしく思います。


Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

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