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クラップ音の再現に革命をもたらしたIstanbul Agop Clap Stack【連載|博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯33】
- Text:Takuya Yamamoto
- illustration:Yu Shiozaki
第33回:Istanbul Agop Clap Stack
ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、シンバルでハンド・クラップ風のサウンドを再現できる、近年大活躍のキラー・アイテムにフォーカス!
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、2018年の登場以来、各社が追随し、1つのカテゴリーといえる規模にまで成長した製品群の中から、オリジン・モデルの楽器を掘り下げてみます。
今月の逸品 【Istanbul Agop Clap Stack】

今月の逸品は、8bitのハンド・クラップ・サンプルをアコースティックで再現した、Istanbul AgopのClap Stackです。“ハンド・クラップ系のサウンドを模したシンバル”というカテゴリーで新製品が登場するたび、この楽器を振り返る必要性を感じます。
後発には後発ならではの工夫が施されており、併用するシンバルやスネア、ハイハットなどとの相性を考えると、各々が自分に合うモデルを選択する余地があります。しかし、基本的な使い方や、応用、発展、拡張性など、発売されてから広く普及して、深く研究されたことで新たに見えてきた側面もあるため、最初のモデルに触れておくことには大きな意義があります。
他の楽器パートのプレイヤーからも導入リクエストが入るほど有名で、革命的な楽器ですが、演奏するジャンルやシーンによってはまったく接点がない方もいらっしゃると思うので、まずは構造と特性を簡単に紹介します。

適度な隙間が確保されつつ、揃ったカーブで重ね合わせられる11″+13″+15″の3枚組で、一般的なターキッシュ・シンバルに見られるベルやボウがなく、全体が緩やかに湾曲。その形状は、まるで成形ポテトチップスのような、独特なものになっています。この構成と形状がこれまでになかったユニークな点で、それぞれのシンバル同士の干渉によって、クラップのようなサウンドが生じます。
次に、後発モデルとのスペック上の違いに注目してみます。素材は一般的なハイエンド・シンバルと同じく、銅80%+錫20%(+α)のB20合金が用いられており、厚みは比較的薄めに仕上げられています。表面処理は、焼いて伸ばしたままの、レイジングを施さない“Raw”や“Turk”と呼ばれるタイプで、外観には個体ごとの個性があります。
ハンマリングは最小限で、通常であればベルが存在するであろう部分を除いた、ボウ全域の内側半分ほどに、サイズによって5列から8列の、ややランダムなハンマー跡が並んでいます。この形状に辿り着く上では必然かもしれませんが、裏側からのみ打たれているのも1つのポイントでしょうか。
サウンドの傾向と、運用方法に関してのポイントを解説していきます。スタンドにセットして鳴らしてみるとわかりますが、音量は控えめです。見よう見まねで取り入れると、この音量の面で課題を感じることもあるでしょう。回線等の設備に余裕があれば、個別にマイキングするのが一番簡単でしょうか。あるいは、頭上のマイクを意識して高い位置にセットすることで、結果としてスティックの振り幅が大きくなったり、ショット・スピードが上がったりして、音量が稼げるといったこともあるでしょう。
個人的には、ある程度ウィング・ナットを緩めにセットして、発音のタイミングと成分の残し方を意識しながら演奏するのが、表現力を確保しつつ、演奏の楽しみを感じられる方法だと感じています。開発者の1人、トレヴァー・ローレンスJr.による2021年公開の解説動画は非常に参考になります。まだご覧になっていない方は、ぜひ以下からご視聴ください。
シンバル全般に共通しますが、配合の微妙な差や、原料が溶解してから最終的に常温に至るまでの温度変化の具合い、また、後続のプロセスに移るまでの時間などによって、結晶構造に違いが生じるため、同じ配合/手順であっても設備や工程が変わると、サウンド、外観、耐久性、熟成の仕方も変化します。
クラップ・サウンドを生み出すシンバルは、ターキッシュ・シンバル全体の歴史からすると、まだまだ新しい楽器です。参入が相次いでおり、さまざまなアプローチやスタンスが垣間見える貴重な時期とも言えます。現在進行形のサウンドを体感しながら、進化し続ける楽器の面白さに触れるきっかけとなれば幸いです。

Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。
Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto
【Back Number】


『That Great GRETSCH DRUMS』