NOTES
Autumn 2024
【A】=アルバム 【M】=ミニ・アルバム 【E】=EP 【V】=DVD、Blu-ray
d:ブライアン・ブレイド
アンサンブルは誰が欠けても成り立たないと言えるが
特にブライアン以外のドラマーではまったく考えられない
昨年、惜しくも急逝したウェイン・ショーターの2014年のライヴの模様。ドラマーはブライアン・ブレイド。20年以上続いたレギュラー・バンドで演奏のかなりの部分がインプロヴィゼーションで成り立っているのだが、その息の合いぶりは奇跡的だ。このアンサンブルは誰が欠けても成り立たないと言えるのだが、特にブライアン以外のドラマーではまったく考えられないものだろう。僕はこのバンドやそれ以外のバンドでのブライアンとウェインの共演を生で観る機会があったが、信じられないほどの集中力で行われる音楽にこちらも引き込まれ、時間の過ぎるのがあっという間だったのを覚えている。ブライアンの芸術的シンバル・タッチ、爆発的な瞬発力によるクラッシュ、凄まじいベース・ドラムの音圧、スネアの破壊音、どれもが唯一無二。このアルバムでもその静と動のコントラストが見事に収められていて、ファンにとってはため息しか出ないだろう。長丁場だが、後半に向けての盛り上がりはライヴならではのものだ。(大坂昌彦)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ウェイン・ショーター(sax)、ブライアン・ブレイド(d)、ジョン・パティトゥッチ(b)、ダニーロ・ペレス(p)
発売元:ユニバーサル 品番:UCCQ-1208/9 発売日:2024.08.23
d:イアン・ペイス
ロック・ドラムのオリジネーターとして、常に現役として
見事なドラミングを披露し続けてきたイアン・ペイスの今
ディープ・パープル、数多あるUKロック・バンドの中で、ストーンズやザ・フーに次ぐ長寿バンドとして常に大きな存在感を誇ってきたモンスター・バンドです。70年代に大ヒットを飛ばしたロック・クラシックスのイメージが強いのですが、メンバー交代を繰り返し、バンド・サウンドを変化させながらも、常に一貫したスピード感溢れる太いグルーヴと、ギターやオルガンのキャッチーで力強いリフなど、過去の大ヒット曲だけでなくバンドの演奏力などで長らく聴き手を魅了し続けてきました。唯一の創設メンバーとして、そしてロック・ドラムのオリジネーターとして、後進の尊敬を集めるだけでなく、常に現役として見事なドラミングを披露し続けてきたイアン・ペイスの今が聴ける作品です。ハイハットを4分で刻みながらの速い8ビートや、シャッフルなどハネたリズムのタイミング、独特の6連符を使ったフィルイン、転がるように流れるリズム、小さなストロークでの太い音、まさにイアン・ペイス節。ボーナス・トラックのライヴ音源もうれしい。(芳垣安洋/Orquesta Libre、On The Mountain、他)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】イアン・ペイス(d)、ロジャー・グローヴァー(b、per)、サイモン・マクブライド(g)、ドン・エイリー(key)、イアン・ギラン(vo、cho)、ボブ・エズリン(tambourine、cho)、他
発売元:NEXUS 品番:KICP-4075 発売日:2024.08.07
d:林 立夫
林 立夫と小原 礼による最高峰のサウンド&グルーヴ
世界に誇れる本物の音楽表現
林 立夫、小原 礼、鈴木 茂、松任谷正隆……1970年代から現在も確実に日本音楽シーンの頂点に存在し続けるレジェンド達。彼らが半世紀以上も止まることなく築いてきた日本の音楽史は、この先永遠に語り継がれることは間違いない。つまり100年先、200年先でも人々はサディスティック・ミカ・バンド、ティン・パン・アレー、キャラメル・ママ、はっぴいえんど、小坂 忠、吉田美奈子、大貫妙子、荒井由実、YMO……を普通に聴いてるはず、ということ。ティーンエイジャー時代から一緒に演奏してきた幼馴染み4人が、50年経った今、驚くほど精力的に活動を続けていて、そして書き下ろし/オリジナル曲を生み出しては、レコーディング~リリース~そしてツアー、と本当に心身共にものすごく健康的で元気なのが一聴してわかる。中学生時代からの大親友=林 立夫と小原 礼の、1音目から最後までの最高峰のサウンド&グルーヴ……日本では誰も真似できない、世界に誇れる本物の音楽表現。(沼澤 尚/シアターブルック、ブルーズ・ザ・ブッチャー、他)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】林 立夫(d)、小原 礼(b)、鈴木 茂(g)、松任谷正隆(key)
発売元:日本コロムビア 品番:COCB-54372 発売日:2024.07.24
d:マーク・ジュリアナ
電子音楽の再解釈や生演奏でのトレースによって
シーンに存在を示すための音楽ではなくなっている
“宅録DTMが達者なマルチ・インストゥルメンタリスト”というステータスが、もはやドラマーの必須条件にすら感じられる昨今、その極北の1人であるマーク・ジュリアナの新譜を聴いた。ドラムには楽音が乏しくハーモニーを奏でる機能が少ない。だから主にドラマーとして知られている人がどんな響きの和音や旋律の嗜好があるのかは、例えばピアニストやギタリストに比べて、知られづらい傾向にあると思うのだ。そこでこういう作品を聴くと、ああこの人はこういう感じの音楽にエモを感じてるんだな、意外だなぁとか思う。昔はマーク・ジュリアナかジョジョ・メイヤーか、みたいな認識だったので、電子音楽の再解釈や生演奏でのトレースがうまい系ドラマーだと勝手に思ってたんだけど、そういうシーンに存在を示すための音楽ではなくなっているのが良かった。コード進行少なめのパーカッション多重録音系の曲に関しては、これならジュリアン・サルトリウスの方が僕は好みだけど、音階楽器が豊かに充満して、リズムはオマケみたいな感じの曲の方が、目新しい感じがした。(大井一彌)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】マーク・ジュリアナ(d、per、marimba、p、organ、etc.)
発売元:コアポート 品番:RPOZ-10097 発売日:2024.07.10
d:山木秀夫/シェーン・ガラス/玉田豊夢/河村“カースケ”智康/鈴木英哉
それぞれのドラマーがいたからこそ引き出される
“ソロ・アーティスト=稲葉浩志”の歌声
M1のドラムが鳴った瞬間、ケタ違いのエネルギーが伝わってこよう。もはや説明不要のシェーン・ガラスがアルバムの冒頭を飾る。アルバム通して彼の参加した3曲は異次元の“ドラム圧”を放ち、稲葉さんを“誰もが知る稲葉浩志”にしていく。その一方でB’zの名作を支えてきた山木秀夫が5曲、近年の作品やスタジオ・ライヴにも参加の玉田豊夢が2曲、“FRIENDS Ⅲ”のアルバム&ライヴに参加した河村“カースケ”智康、そして前回のソロ・ツアーに参加していたミスチルの鈴木英哉が1曲ずつ参加。それぞれのドラマーがいたからこそ引き出される“ソロ・アーティスト=稲葉浩志”の歌声に、このアルバムの魅力とソロ活動の意義を強く感じた。(山本雄一/RCCドラムスクール)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】稲葉浩志(vo、g)、山木秀夫/シェーン・ガラス/玉田豊夢/河村“カースケ”智康/鈴木英哉(d)、徳永暁人/ 日向秀和/ 麻井寛史(b)、DURAN / 大賀好修(g)、サム・ポマンティ(p、wurlitzer、cho)、他
発売元:VERMILLION RECORDS 品番:BMCV-8069 発売日:2024.06.26
d:柏倉隆史
押し引きが今まで以上に明確でスムースな聴き心地の一方
聴き逃すにはもったいないフレーズとニュアンスの宝庫
toeの音楽は定点カメラに映る風景のようだ。見慣れた街、あるいは見知らぬ場所の景色は緩やかに表情を変えながら、叙情を零れ落とす。俯瞰性を伴うエモーションには衒いがまったくないから、聴き手は素直に胸を打たれる。今作のハイライトはやはり割合の増えたヴォーカルだと思うが、要所でスパイス的に使われる、バンドの基本編成以外の音色のチョイス(M4のグライド・ベース!)もさすがのセンス。そんなアンサンブルを駆動させる柏倉のドラムスは、さまざまな現場で蓄積されたであろう経験則による押し引きが今まで以上に明確でスムースな聴き心地。そのフローの気持ち良さに身を任せて聴き逃すにはもったいないフレーズとニュアンスの宝庫でもある、という素敵な矛盾を孕んだ素晴らしい作品。(木暮栄一/the band apart)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】柏倉隆史(d)、山根さとし(b)、山嵜廣和/美濃隆章(g)、徳澤青弦(cello)、児玉奈央(vo)
発売元:Machu Picchu Industrias 品番:XQIF-91002 発売日:2024.07.10
d:AKANE
音楽に対する理解力や洞察力が全員等しくハイレベル
骨太なドラミングとハイテクなフィルにAKANEのすごさを実感
もはや世界的な人気を誇るBAND-MAIDの新作。メキシコのガールズ・バンド=ザ・ウォーニングとのコラボやインスト曲など、多彩な内容であるのは言うまでもないが、彼女達のバンドとしての完成度の高さが随所に感じられる作品となっている。メロディに限らずドラムがギターやベースと絡みまくり、サウンドの完成度が恐ろしいほどに高い。これはすなわち、メンバーそれぞれが均等な力でお互いを引っ張り合っている証であり、音楽そのものに対する理解力や洞察力が全員等しくハイレベルなのだと思う。ドラマーAKANEの骨太なドラミングに惹きつけられつつ、合間にねじ込まれるハイテクなフィルによって彼女のすごさをあらためて実感させられた。(武田光太郎)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】AKANE(d)、MISA(b)、KANAMI(g)、小鳩ミク(g、vo)、SAIKI(vo)
発売元:ポニーキャニオン 品番:PCCA-06330 発売日:2024.09.25
d:石若 駿
per:Taikimen
個性豊かなゲスト陣の与える彩りと質感の変化
しかし、常にその中心に感じる石若 駿という存在
冒頭のフィルの切り込みに心を掴まれ、聴き進めていくほどにビートや表現の多彩さにノックアウトされるだろう。J-Jazz界きっての精鋭達のセンスとクリエイティヴィティを全投入、各人のソロをしっかりとフィーチャーし、音楽的には尖ったところも見せつつも、決して聴衆を突き放したりせず、音楽の喜びと楽しさで大きく包み込む。この濃さで、ここまでポップかつバラエティ豊かに仕上げてくるバランス感覚には恐れ入る。個性豊かなゲスト陣の与える彩りと質感の変化。しかし、常にその中心に感じる石若 駿という存在。シリアスなテンションを保ちつつ、雑多な要素をごった煮にし、パーティーに仕立ててしまう様は、まさに彼そのものではないだろうか。(横山和明)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】石若 駿(d)、Taikimen(per)、マーティ・ホロベック(b)、若井優也/海堀弘太(p、key)、佐瀬悠輔(tp)、MELRAW(sax、g)、中島朱葉/ 馬場智章(sax)、井上 銘(g)、KID FRESINO(dj)、他
発売元:ユニバーサル 品番:UCCJ-9250 発売日:2024.08.07
d:ルイス・コール、他
管弦楽と器楽と声楽を奇天烈ポップなトンマナで統一
それが果たして彼の本気か遊びなのかがわからない
音楽、ドラム、機材、録音、ミックスにマスタリング等々の超超超超弩級オタが本気出したらこうなるんすね。もう、怖い。あえてなのか自然にやるとこうなのか定かではないが、17曲1時間越えのボリュームながら管弦楽と器楽と声楽が、実に“らしい”奇天烈ポップなトンマナで統一されており、それが果たして彼の本気なのか遊びなのかがわからないところも怖いし、緻密なレコーディングではなくライヴ録音の編集がほとんどであるところも怖い(どおりで演奏がやたらと迸っとるわけだと納得もしたが)し、だからこそなのだろうがこの内容で超楽しくスルッと聴けてしまうところが一番怖い。まずは一際ポップなM13か、ドラマガ的にはラストの爆叩きで爆笑できるM11をどうぞ。(庄村聡泰)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ルイス・コール(d、b、g、key、syn、organ、vo、etc.)、サム・ウィルクス(b)、ペドロ・マーティン(g)、ジェイコブ・マン/ ライ・シスルスウェイティー(key)、デヴィッド・ビニー(sax)、メトロポール・オーケストラ(orchestra)、他
発売元:Brainfeeder 品番:BRC765 発売日:2024.08.09
d:松浦千昇
極限にシビアな状況ながら
タッチの使い分けやツブの揃い方が半端ない
20代前半から卓越したテクニックと確かなタイム感を武器に、SHAGを初め活躍の幅を広げている若手注目株の筆頭、松浦千昇のソロ・ドラム作品。ビート特化型の作品で、その潔さはネイト・スミスの“Pocket Change”を彷彿とさせる。聴く者を飽きさせない展開のつけ方やテクニックの宝庫と言えるリニア・フレーズ、滑らかなメトリック・モジュレーションなど、特筆すべき点はいくつもあるのだが、共通しているのは音の生々しさや空気感。極限にシビアな状況ながら、タッチの使い分けやツブの揃い方が半端ない。特にタイトル通りカクテル・ドラムを使ったM4は、特有のバス・ドラムの軽快さとそれに絡めた弾むような上半身のアプローチが白眉。途中に出てくるバスドラ4連打の奏法も間近で見てみたい……。(笹 京佑/リズム&ドラム・マガジン編集部)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】松浦千昇(d)、TAIHEI(b、org)
配信リリース 発売日:2024.08.23
d:神保 彰
多くの曲で高難度のキメやユニゾンが炸裂
しかし全体の印象は滑らかという二重の意味での離れ業
結成からの3年間で、同窓会ではなく現在進行形のバンドであることを示してきた3人が順調に2作目のアルバムをリリース。公式コメントに“演奏力の限界に挑戦”とあるように、多くの曲で高難度のキメやユニゾンが炸裂し、ドラムも奇数割りフレーズなどを駆使した聴きどころたっぷりのプレイを展開している。しかし全体の印象はあくまでも滑らかという、二重の意味での離れ業をやってのけているのが彼らの本当のすごさだと思う。やや強めにコンプレッションされたドラム・サウンドが新鮮な一方、タイトル曲のMVでは、1タム・セッティングでスネアにスプラッシュを置いて叩く様子も確認できる。音や演奏の謎解きをするような気分で向き合うと楽しさ倍増だろう。(西本 勲)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】神保 彰(d)、櫻井哲夫(b)、向谷 実(key)
発売元:ヤマハミュージックコミュニケーションズ 品番:YCCS-10119 発売日:2024.09.11
d:青山英樹
個性の強いメンバーをまとめ上げる
青山英樹の的確すぎるアプローチも見事
怒涛の活動を展開するRockon Social Club初のミニ・アルバム。全6曲ながら、熱い3連のバラードM4や重厚なハネがカッコいいM5、観客との合唱が眼に浮かぶライヴ・アンセムのM6など、ロック・バンドの王道を貫く楽曲から、ビックリするほど爽やかで、“こんな表現もできるのか!”と驚かされるM1や、歌詞の内容と曲調の計算された“ミス・マッチ”が魅力のM2など、とにかくバラエティに富んだ作品。プロデュース/アレンジを手がける寺岡呼人の手腕も大きいが、個性の強いメンバーだからこそなせる業と言える。そんな多彩な楽曲、メンバーをまとめ上げる青山英樹の的確すぎるアプローチも見事で、ツーバス・ドラマーとしての魅力はM3に凝縮!!(北野 賢/リズム&ドラム・マガジン編集長)
◎Disc Information
【参加ミュージシャン】青山英樹(d)、高橋和也(b、vo)、成田昭次/岡本健一(g、vo)、前田耕陽(key、vo)、寺岡呼人(vo、etc.)
発売元:TOKYO RECORDS 品番:TYOR-1012 発売日:2024.09.06