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    『THE LYRICS』発売記念! ドラマーとしてのポール・マッカートニーに迫る!!

    • ⓒMary McCartney(Photo)
    • Text:Masataka Fujikake

    ポール・マッカートニーが少年時代の作品から、ビートルズ、ウイングス、ソロ・アルバム、最近に至る作品まで全154曲の歌詞について語った書籍『THE LYRICS』が6月18日に発売される。それを記念して、ポールのドラマーとしての側面にフォーカスしたドラマガ13年11月号の記事をここに転載!

    優れたマルチ・プレイヤーとして、ベースやギター、ピアノだけでなくさまざまな楽器をこなすポール・マッカートニー。もちろんドラムも得意で、ビートルズ時代をはじめ、ソロやウイングスの作品でも多くの曲でその腕前を披露している。ポールのドラムの演奏力は本職を凌ぐほどの高いものだとする表現を目にすることがあるが果たしてどうなのであろうか……。

    まずはビートルズ時代。ビートルズの作品ではその初期からマラカスやタンバリンといったさまざまなパーカッションが実に効果的に収録されていて、その演奏者もさまざまなのだが、ポールが担当することも多かったようである。ビートルズのメンバーの中ではおそらく、いわゆるスタジオ・ミュージシャン的な技術力において最も優れていたポール、正確なリズム感や単純に楽器の演奏力といったところでは天賦の才能を発揮していたようで、新曲の録音の際に手こずっていたリンゴのテンポのガイド役を務めることもあったというから相当である。

    そして実際にドラムを担当したことが明らかな作品もいくつかある。リンゴがその録音中、一時的にグループを離れたことがある68年の(通称)『ホワイト・アルバム』では、「Back ln The U.S.S.R.」と「Dear Prudence」でドラムを叩いている。どちらももちろん素晴しい曲であるが、「Back ln The U.S.S.R.」にはポールだけでなく、ジョージやジョンによるドラムのオーバーダブも施されていて、最終的なグルーヴはこれらのトータルなビートの力強さによるものでもあろう。余談だが、ビートルズの曲にはオーバーダブによるツイン・ドラムが結構ある。「Dear Prudence」はポールのみのドラムで、曲として成立する説得力を持っていて素晴らしい。玄人はだしというよりはやはり本職ではない人のプレイという風情であるが、そのことが次の曲「Glass Onion」で登場するリンゴの素晴らしさを引き立てているようにも思える。

    『ホワイト・アルバム』では他にも、ポールがほぼ1人で制作した「Mother Nature’s Son」や「Wild Honey Pie」といった曲でドラムやバス・ドラムを演奏している。トライデント・スタジオで録音された「Martha My Dear」も管弦楽器を除けばポール1人の録音とする説があるがこれは疑わしい。個人的にはドラムはリンゴではないかとも思う。『ホワイト・アルバム』以外では69年にポールとジョンだけで録音されたシングル、「ジョンとヨーコのバラード」で叩いている。ここでのプレイは曲を強力に躍動させるもので素晴らしいが、アビイ・ロードの第3スタジオでジェフ・エメリックをエンジニアに録音されたそのサウンドの素晴らしさによるところも大きい。

    ビートルズにおけるポールのドラム・プレイは以上のように数曲ではあるが印象深いものでもある。ただし、逆説的にリンゴ・スターというビートルズにとって必要不可欠なドラマーの存在を際立たせることにもつながっているのではないだろうか。 

    ソロおよびウイングス時代。70年のソロ第1作『ポール・マッカートニー』、73年のウイングスの『バンド・オン・ザ・ラン』では全編に渡ってドラムを1人で担当している。『ポール・マッカートニー』はポールが1人で(リンダと)宅録したものであり、シンプルで素朴な内容ながら自信に満ち溢れた意思が感じられるプレイである。『バンド・オン・ザ・ラン』では録音直前にドラマーが脱退したための苦肉の策ではあったとはいえ、責任感に溢れた力強いドラミングで曲の良さを際立たせ、アルバム全体の完成度を上げている。ここでのエンジエアもジェフ・エメリックであることは特筆すべきであろう。

    80年の『ポール・マッカートニーⅡ』でも、宅録でリズム・マシンも多用してはいるがドラムは1人で担当していて、興味深い作品となっている。また、ユースとの実験的精神旺盛なユニット、ファイヤーマンの『エレクトリック・アーギュメンツ』で素晴らしいプレイを披露している。その他のアルバムにおいてもかなり所々でプレイしているが、基本的にポールは自分の作品でドラムを叩くのが好きなのは間違いがない。録音だけでなく、生来のショウマンシップからか、ライヴでもしばしば嬉々としてドラムをプレイしている。

    ポールのドラム・プレイは、それなりに高い技術力を持ってはいるが、やはり本職のドラマーとはまた別のユニークなニュアンスを持っているのではないだろうか。それはまず、少々素人っぽいプレイになろうとおかまいなく、とにかく自分でドラムを叩くことが大好きだという好奇心。延々とテイクを重ねたことで有名な「Ob-La-Di, Ob-La-Da」をさらに自分でドラムを叩いて再テイクしたくらいである(採用されてはいないが)、よっぽど好きであろうし、自信も持っているに違いない。

    そして、やはりその曲の作曲者ならではのアプローチをとるプレイ・スタイルである。これらにより、一般的なドラマーとはまた違った自分ならではのドラム・プレイで自分の音楽を創造する希有な存在であることは間違いがない。

    ※本原稿は2013年11月号に掲載したものとなります。

    THE LYRICS』の特設サイトはこちら

    写真はUS版のものです。日本仕様とは一部異なる場合があります。
    ポール自筆による「Band on the Run」の歌詞/1973年ⓒMPL Communications Inc/ Ltd
    イースト・ハンプトンの浜辺で/1975年、 USAにて
    ⓒPaul McCartney / Photographer: Linda McCartney
    『Abbey Road』のジャケット撮影時にジョン・レノンと/1969年、ロンドン、アビイ・ロード・スタジオにて
    ⓒPaul McCartney / Photographer: Linda McCartney

    ◎イベント情報
    杉真理×カンケ「ソングライター・ポールの視点から見た音楽体験~ポール・マッカートニーの人生を巡るマジカル・ミステリー・ツアー~」『THE LYRICS』(リットーミュージック)刊行記念

    出演者:杉真理、カンケ
    開催日時:20:00~21:30 (19:30開場)
    開催場所:本屋B&B(世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F +オンライン配信)
    入場料:【来店参加(50名限定・1ドリンク付き)】2,750円(税込)
    https://bookandbeer.com/event/bb220621a_paul/