SPECIAL

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close up! アコースティックを知り尽くした老舗ブランド渾身の“電子ドラム” Pearl e/MERGE

  • Text:Yusuke Nagano Photo:Takashi Yashima(Except *)

#3 Interview & Review ~e/MERGE開発秘話&試奏レポート~

KORGとのコラボや新感覚のパッド、モジュールの開発など、さまざまなチャレンジが行われたe/MERGE。特集のラストとして、その開発に携わったPearlスタッフへのインタビューをお届け。さらに前項までの解説を含めた試奏レポートも掲載!

Interview:Rhythm & Drums Magazine Review:Yusuke Nagano

Pearl Staff Interview

“新しい楽器”を作りたいという想い
ぜひたくさんの方に試してみてほしい

パール楽器製造 竹川彰人

KORGとの共同開発と
WAVEDRUM技術の応用

●まずは、e/MERGE開発の経緯を教えてください。

竹川 Pearlは1980年代まで自社で電子ドラムを製造、販売していましたが、その後は市場から離れていました。そして、2010年にePRO LIVEという、生ドラムの見た目とサイズを兼ね備えたモデルで再参入しましたが、当時から日本は世界で最も厳しい水準があると考えており、国内での販売は見合わせていたんです。そこで、さらにクオリティの高いものを作ろうと、社外のアドバイザーを探し始めまして。あるとき、日本の楽器メーカーが集まる会合でKORGさんのOBの方を紹介していただいたのがきっかけで、両社の関係が深まっていき、2013年の春、正式に電子ドラムを開発するパートナーとなりました。

●WAVE TRIGGER TECHNOLOGYは、e/MERGEの目玉となる機能だと思いますが、WAVEDRUMの技術を応用しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

竹川 従来の電子ドラムとはまったく違う、“新しい楽器”を作りたい、という想いは漠然とあって、両社で定期的にミーティングを繰り返しているうちに、第2世代のWAVEDRUMの仕組みを取り入れられないか、と考えるようになりました。一般的な電子ドラムは、叩いたときの振動をトリガーとして、サンプリングされたPCM音源が発音するようになっています。対してWAVEDRUMは、PCMに加えて、ピックアップから拾った生音を特別なアルゴリズムを使ったモデリング手法で処理して加工するという独自の方式です。PCMはリアルな音色を作ることができますが、音質に比例してファイル・サイズが大きくなるため、発音検出のレイテンシー(遅れ)が避けられません。ダイナミクスに関しても、無限大にサンプリングするわけにはいかないので、ギクシャクしてしまいます。いっぽうモデリングは、生音が元になっているので、発音はPCMよりも圧倒的に速く、ダイナミクスに関しても無段階でスムーズです。ただ、音のリアリティは欠けてしまう。WAVEDRUMの技術は、簡単に言うと、PCMとモデリングの“良いとこ取り”だと言えます。この仕組みを電子ドラムに取り入れようと思ったんです。そこでまず、People In The Boxの山口大吾さんに協力いただき、WAVEDRUMが、バンド・サウンドの中でどのように反応するのか、研究を開始しました。

e/MERGEのトリガー・システムの原点となった、2009 年に発表されたKORG の2 代目WAVEDRUMセンサー部分。

●この技術のおかげで、叩く人によって音色が変わるというわけなんですね?

竹川 その通りです。アコースティック・ドラムは、例え同じ楽器/同じチューニングでも、叩く人が変わると音が変わるという奥深い楽器です。「電子ドラムは、誰が叩いても同じ音がするので、レコーディングやライヴでは使えない」と感じていた方々にもお勧めしたいですね。

シンプルな操作性と高品質音源
ドラム・モジュール=EM-MDL1

●モジュールの設計・デザインにあたって、こだわった点を教えてください。

竹川 まず、できるだけ小さいサイズを目指しました。性能と大きさは比例するわけではなく、ライヴやレコーディングの現場では邪魔にならないよう、小さいに越したことはありません。手前側が丸くなった形状ですが、実は、試作段階ではここにカーボンプライメイプル・スネアのシェルをはめ込んでいたんです。その名残で、この寸法は直径14インチの一部になっています。

●ライヴで使用することも最初から考えていたのでしょうか?

竹川 もちろんです。合計10チャンネルの出力や、USBメモリーを使って同期演奏やワンショットと呼ばれるパッドを叩いてwavファイルを鳴らすソング機能もついています。最大4時間再生できるので、たいていのライヴは問題ないと思います。

●つまみやボタンのネーミングもシンプルで、とても扱いやすいと思いました。

竹川 ドラマーは、まず叩いて音を出すと思います。次に違う音を試したくなったときに、ジャンル・ボタンを押すか、中央のダイヤルを回すか、自然に誘導されるようなデザインになっています。見て迷わないように極限までボタンとダイヤルの数を減らし、各役割がわかりやすい配置と形状にしました。もちろん、深い階層に入っていくと、細かい音色設定もできます。アンビエンスがフェーダーで簡単に調整できるようにもなっていて、これはKORGさんのワークステーション、KRONOSの機能を見たときに、ぜひ採用させてほしいということになりました。アンビエンスの音はデジタル・リヴァーブではなく、収録した本物の残響音です。

●音源開発は、どのような手順で行っていったのでしょうか?

竹川 まずは市場に出回っている高品質のソフト音源にどういった音があるのかデータを取りました。ドラムの生音がデジタルになってDTMで使われるときに、どういったニーズがあるのか調べるためです。同時に、日本/アメリカ/ヨーロッパのPearl スタッフで、1960~2010年まで、ジャンル別に“ドラムの音が良いと思う楽曲”をピックアップしてもらい、すべて聴いていきました。その後、“あの時代のこういう音”という、内蔵すべき音色の” お題” リストが完成し、Pearl製品の中で、どのシリーズ/シェル/ヘッド/ミュート/スティック/ビーターを使って、どういうチューニングをするべきか議論しました。レコーディングした音を加工しようとしたのではなくて、あらかじめはっきりとしたイメージがあった上で楽器選びから行ったんです。

“PUREtouch”構造は
どのようにして生まれたのか

●リアルさと消音性を追求したスネアやタム・パッドの構造はどのように決まっていったのでしょうか?

竹川 弊社の製品で、miniという、消音パッドつきのピッコロ・スネアがあるのですが、それにメッシュ・ヘッドを張って、その下にクッションを挟むと、打感と消音性がアップすることにヒントを得ました。ただ、電子ドラムとして正しく機能することと打感をナチュラルにすることは相反することも多く、詰め物の厚み/形状/硬さ/ピックアップの位置や構造を少しずつ調整して決めていきましたね。当時、工業展示会でディスプレイされていた新材料の防振材をたまたま見つけたことも大きかったと思います。

“PUREtouch”構造のもととなった消音パッドつき12″ピッコロ・スネア=mini。

●シンバル・パッドはどういう仕組みになっているのでしょうか?

竹川 ライドでは、ボウ部分を叩くと高い周波数、エッジ部分に近づくほど、低い周波数の生音が出るよう、素材の配分を微妙に変えています。検知した周波数に応じてとエッジ/ボウの音色が出るようにアサインされているのですが、実際はさまざまな周波数が混ざっていますので、結果的に打点によって無段階で音色が変わるという仕組みですね。チョークしたときも、単に音を“ 切る” のではなく、余韻の音が出るようになっています。ハイハットに関しては、KORG さんから提案いただいた、スマートフォンにも使われている静電容量センサーという、非接触かつ高精度のセンサーを組み込みました。オープン~クローズまでの音色をクロスフェードさせながら音を変えていくことで、ハーフ・オープンのニュアンスも細かく表現できるようになっています。

●キック・パッドは打面が合皮で覆われていますよね?

竹川 KORGさんにあったピアノ用の四角いイスがきっかけだったんです。横に倒してフット・ペダルで叩いてみると、非常に良い打感で、かつ消音性も悪くなくて。パッド部分を防振ゴムで浮かせる、というアイデアも組み合わせると、さらに理想に近づきました。開発には弊社のフット・ペダルを担当しているスタッフも参加しており、LUNA SEAの真矢さんにも、「ビーターがヘッドに当たる角度が完璧」とお墨つきをいただいています。

●最後に、e/MERGE を楽しみに待つドラマーにメッセージをお願いします。

竹川 今回の開発には、PearlとKORGさんのスタッフが本当にたくさん関わっていて、e/MERGEはその集大成とも言える“作品”だと思います。また、多くのアーティストの方々にもご協力いただきました。ぜひ、できるだけたくさんの人に試してもらいたいです。真矢さんが紹介動画の中で、素晴らしいことを言ってくださいました。最後に、その言葉をそのままお借りしたいと思います。

─今までアコースティックにこだわっていた人も、1回 e/MERGEを見て、叩いて、そしてモジュールとかをいじくってほしい。これメッチャ良い!って、絶対思うはずです──

昨年末にお披露目となった、真矢[LUNA SEA]の特注ハイブリッド・キット。22″BD以外のタイコはすべてe/MERGEとなっている。

◎開発者インタビュー中で語られていた真矢(LUNA SEA)によるe/MERGE紹介動画はコチラ!

Review

節々に生ドラムの骨太な魅力
気持ちを駆り立てるニュー・タイプ

Text:Yusuke Nagano

まずはシェルつきのキック・パッドが採用されたe/HYBRIDに座りましたが、バス・ドラムの存在感や、スネアやタムの馴染みのあるサイズ感が良いですね。ラックやスタンド類の堅固な作りも素晴らしく、生ドラムで培われた確かな信頼性を感じます。

実際に叩いてみると、チップが適度に打面に食い込んで程良い重みを感じさせるタッチが新鮮。スネアはリム・ショットの叩き分けも、生ドラムと同じアクションで行えるのでまったくストレスを感じません。肝心の音色も太く立体的で、ダイナミクス変化もナチュラル。部屋鳴りを調整するアンビエンス・フェーダーも秀逸で、演奏しながら心地良い響きを手軽に探れます。

続いて目玉機能であるWAVE TRIGGER TECHNOLOGYをチェック。ゴーストを叩く際にエッジ付近に打点を移動すると、確かに倍音の鳴りが自然に変化。太さの異なるスティックやロッズも試しましたが、音の芯やアタックのニュアンスの違いが反映されていました。シンバル類はエッジの適度な弾力が、リアルな“ たわみ感” を演出。ハイハットはボトムの役割を果たすパーツがあるので、踏み圧を受け止める反力やオープン時の緩み加減もリアルです。2タイプ用意されたキック・パッドはどちらもビーターが収まるクッション性が好感触。ハードに踏んでもビクともしない驚異の安定性で、気分良く演奏に没頭できます。

PearlとKORGのハイレベルなノウハウが結集して誕生した、新しいタイプの電子ドラム、e/MERGE。節々に生ドラムの骨太な魅力を残していて、演奏者の気持ちを十分に駆り立ててくれます。数人が入れ替わりで試奏してみましたが、タッチの個性が音色に反映されるのも素晴らしいです。ぜひその叩き心地と表現力の深さを実感してほしいですね。

◎e/MERGE公式HPはこちら!

https://www.pearlemerge.jp/

◎e/MERGEをデジマートで探す

◎この記事の掲載号はこちら!

リズム&ドラム・マガジン2020年7月号