SPECIAL

UP

著者・長野祐亮氏に聞く『超ドラム初心者本』制作の内側

  • Interview & Text:Isao Nishimoto

数百円でも作れるDIYパッドで
どんどん練習してほしい

●楽器や奏法の解説から、練習する際のさまざまな工夫、そしてエクササイズまで、全方位的な内容になっているのも特徴だと思います。同じく長野さんの書いた『新・ドラマーのための全知識 新装版』を、初心者向けの内容に絞ってグラフィカルに構成したような印象です。

長野 叩くことだけじゃなく、いろんな知識も伝えたいなと思って、結果的にそうなりました。楽器を使わないリズム・トレーニングなども取り上げていて、確かに『全知識』と重なるところはありますね。

そんな中、本書ならではの項目の1つが、練習パッドを自作するページです。普通の教則本だと市販の練習パッドにはこういう種類があって……”となるところですが、そういうのを一切省いて、DIYパッドにフォーカスしているのは画期的だと思いました。

長野 僕も最初はスティックを買って座布団などを叩いていたタイプでしたが、今はYouTubeとかを見ると、自作のパッドで練習している人がたくさんいます。あと、僕が以前出した教則本で、パッド練習に特化した『1日15分!自宅でドラム中毒』というのがあるのですが、ドラマー以外にもあの本を使って練習してくれる人が多かったんです。ギタリストだけど、ちょっとドラムもやってみたいとか。そういう人は練習パッドを買うのもハードルが高いかもしれないので、練習パッドを安く簡単に作る方法を紹介するのは良いなと思ったんです。

3000円でできるドラマーになる』という言葉の通り、スティックを含めて3000円以内に収まる材料費で、3種類のDIYパッドを紹介しています。

長野 スタンドにつけて本格的に叩くとなると、市販のパッドの方が良いのは明らかです。タッチはもちろん、見た目や耐久性もそうですね。でも、実際に作ってみて、DIYパッドも意外にイケるんだなと思いました。気軽に始める“入口”としては、けっこう優秀なんですよね。

本の後半で紹介しているエクササイズも、ほぼ半分はパッド練習用のフレーズになっていますから、読んだ人はぜひ実際に作ってみてもらいたいですね。

長野 そうですね。本当に数百円で作れちゃいますから。

本書Lesson2「“家練”に欠かせない練習パッドをDIY」より。安く簡単に手に入る材料を使った自作パッドの作り方を紹介しつつ、実際の叩き心地にも言及している。

何を伝えて、何を言わないか
そこはすごく悩みながら書いていました

ドラム・セットの解説ページは、先ほど話に出たように写真が大きく、文章による説明もコンパクトにまとめられていて、最低限知っておきたいことだけがしっかり伝わる内容だと感じます。

長野 普段のレッスンで、“これはスネア・ドラム、これはタム”って説明しても、いろいろな話の中で流れていってしまって、しばらくしてから“じゃあタム叩いて”と言うと“タムってどれでしたっけ?”となることがあるんです。みんな、意外に楽器のことを知らないんですよね。そういうこともしっかり伝えたかったし、ドラマーは自分の楽器を持っていない人も多いので、もっと楽器に興味を持ってほしいなという気持ちもありました。同じ理由で、“ドラム&シンバル・メーカーの基本情報”というコラムも書いています。

ドラムとシンバルの主なメーカーを俯瞰したあのコラムは、今まであまり読んだことのない切り口で面白いです。

長野 ありがとうございます。これも編集部の方と話していて、どんなメーカーがあるのか意外に知られていないというところから出てきたアイディアです。最終的にどういう内容に着地するかわからないまま書き進めていったのですが、けっこう楽しく書けて、出来上がってみたら面白いページになりました。僕が十代の頃は、楽器店でもらってきたカタログをずっと眺めたり、ノートにドラムの絵を描いたりして楽器やメーカーの知識を積み重ねていったものです。ドラムを始めたばかりの人はなかなか難しいのかもしれませんが、なるべく楽器店に行って店員さんと触れ合ってもらえると、もっとドラムのことが好きになるんじゃないかなと思います。

セッティングや叩き方に関する解説も、説明し始めると際限なく膨らんでいきそうなところを、大切な内容にフォーカスして丁寧に伝えている印象を受けます。

長野 初心者本を作る上で悩むところって、何を“言わない”かだったりするんですよね。もちろん伝えなきゃいけないことはたくさんあるんですけど、まず何を選んで伝えていくか。何を言わずに、今はこれを言ってあげるというのが大事だと思います。これは実技でも同じですね。

スティックの握り方についても、マッチド・グリップはこう、レギュラー・グリップはこう、と教科書的に説明して終わりではなく、いろいろな握り方があることを伝えた上で、やはり大切なポイントをしっかり示していると思います。

長野 ドラマーによっていろんな握り方があるし、僕自身、今でもグリップがどんどん変わっているので、どう伝えればいいのかすごく悩みました。極端に言うと、どう握ってもいいという側面もあるし……ドラムって全部そういうところがあると思うんです。その中でいくつかのやり方を提示しながら、まずはこれをやってみてほしいという伝え方をしています。

本書Lesson10「ドラム・セットの正しい叩き方」の、フット・ペダルの踏み方を解説したページ。単に奏法を説明するのではなく、演奏する上で重要なポイントをわかりやすく示す方法論は他のページでも徹底されている。

次ページ いつまでも磨きをかけるべきフレーズがこの本にはたくさん載っている