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【Report】世界が注目する次世代デュオ=DOMi & JD BECKが初来日! 類稀なるテクニックで織りなすオリジナル・サウンド

  • Text:Eiichi Kogrey[the band apart] Photo:Tsuneo Koga
  • Special Thanks:Blue Note Tokyo

超絶技巧と独自の表現力を備えた次世代ドラマー&キーボーディストがタッグを組み、サンダーキャットやハービー・ハンコックら錚々たるミュージシャン達との豪華共演を次々に果たしている大注目のデュオ=DOMi & JD BECKが初来日! 5月10〜12日にかけてブルーノート東京で行われた公演2日目の模様を、木暮栄一[the band apart]にレポートしてもらった。

個性溢れる音作りのセットを
JDは信じ難い身体能力で
細かくスピーディーに叩き分けていく

満席のBLUE NOTE TOKYOは開演前からすでに熱気に包まれていた。客席を見渡せば、店員と親しげに会話を交わす常連のジャズ・ファンから、今風のファッションに身を包んだ若いカップルに親子連れと、老若男女が入り混じっている。このことだけでも、これから目の前に現れる弱冠23歳と20歳のデュオに対する期待感の高さがうかがわれる。

アルバム『NOT TiGHT』の導入曲「LOUNA’S iNTRO」が流れ、ドミとJD・ベックが入場すると、会場は大きな拍手と歓声に包まれた。特に緊張している様子もない2人は、個性的な服装の印象も手伝って実年齢よりもさらに若く見える。

向かい合う形でセッティングされたお互いの楽器の前に座り(ドミが椅子がわりに使っていたのはデコレーションされた便器!)、そのままアルバムの曲順通り「WHATUP」の演奏に突入する。豊かで奥深い情感を湛えたコードの連なりに、JD・ベックの複雑流麗なリズムが雪崩れ込んできたときの客席の興奮は、間違いなくこの日のハイライトの1つだろう。

音源ではマシン・ミュージック由来のミキシングによって分離良く配置・チューニングされていたドラム・セットが、人肌の温度を伴って鳴らされている。そのことが逆説的に彼の卓越した演奏技術を際立たせていて、1曲目から“自分は今ものすごいものを目の当たりにしている”という興奮が高まるばかりだった。続いて演奏された「SMiLE」のチルアウトしたムードに助けられて、ようやく落ち着いて彼のセットや演奏を見ることができた。

JD・ベック

ドミ

アルバムでサンダーキャットとマック・デマルコが歌声を披露していた「BOWLiNG」、「TWO SHRiMPS」では、ゲストに代わって今日の主役2人がヴォーカルを務める。オクターブ違いで歌われるメロディは心地良く柔らかで、一筋縄ではいかないバッキングと同時に奏でられていることを一瞬忘れてしまう。

JDのドラミングを特徴づける大きな要素として、極端にミュートされたタイコ類の音色がある。場面によってリムをかけたりかけなかったりするスネアは、オープン・リムショット時にはThe Ummer(90年代後半のヒップホップ・プロデュース・ユニット)周辺作で聴けるような硬質な鳴り方、リムをかけない時のクリスピーな質感はRoland 808に代表されるドラム・マシンを想起させる。

タムのチューニングも後者のそれに近いが、フレーズによって打面を叩き分けることでニュアンスの違いを出していたのが印象的。いわゆる一般的な生ドラムの音に近いのがバス・ドラムだが、これも毛足の長いマレット風のビーターでアタックが抑えられ、その分ローが強調された音色になっていた。

ほとんどの曲で右手16分を刻むことがビート・パターンの基準になっていて、持ち込みのハイハットやライド・シンバルのサステインはかなり短め。良い意味であれほどドライなシンバル音を聴いたのは初めてのことだ。

こうした個性溢れる音作りのセットを、JDは信じ難い身体能力で細かくスピーディーに叩き分けていく。プログラミングのような正確性を持ちながら歌心もたっぷりあるという、一見相反する要素が同居したドラミングの中には、マシン・ビートを肉体化してきたオリジネーター達……クリス・デイヴやジョジョ・メイヤーのような先達の軌跡を見つけることができるし、いつかJD・ベック以前と以後で語られるであろう革新性を目の当たりにしている、そんな感慨もあった。高速プレイの最中に素手でシンバルをミュートする場面もあり、リズムのポケットと同時に音価まで意識していることが窺えた。

このライヴが行われた日の朝には情報番組に出演し、メディアによる取材も重なったらしく「マジで疲れてるんだよね」とスラング混じりの言い回しで客席を笑わせたり、日本に来るのが夢だったこと、ウェイン・ショーターのカヴァーについてやハービー・ハンコックとのエピソード、ジョージ・デュークに捧げた曲(「DUKE」)が「全然彼っぽくない」など、肩の力の抜けたフレンドリーなMCを合間に挟みながら、次々とマジカルな楽曲を披露していく。

2人の演奏が内包する情報量と技術を見れば、その裏側には各々の楽器と向き合ってきた膨大な時間があることは間違いない。そして、その技術はあくまで表現のための手段に過ぎないことも彼らは知っているのだろう。そう思わせるような軽やかさと清々しさ、そして音楽を奏でる喜びに溢れた、素敵なステージだった。

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