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    【Archive Interview】テイラー・ホーキンス②

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto

    3月25日に50歳という若さで、この世を去ったフー・ファイターズのドラマー、テイラー・ホーキンス。パワフルかつエネルギッシュなプレイでバンドを鼓舞し、デイヴ・グロールという世界屈指の名手がフロントに立つバンドにおいて、ドラマーとして圧倒的な存在感を放ってきた。そんな彼の功績を語り継ぐべく、ここでは本誌が最後に行った2021年4月号のインタビューを全掲載する。あらためて心よりご冥福をお祈りいたします。

    ツアーやレコーディングが終わると
    しばらく楽器に触らないバンドもいるけど
    僕は毎日演奏している、演奏するのが大好きだからね

    みんなで集まって一緒に生活しながら
    そのときの呼吸が感じられるような
    アルバムにしようということになった

    ●フーファイターズとしては10枚目となるオリジナル・アルバム『メディスン・アット・ミッドナイト』が発売になりますが、レコーディング自体はパンデミックの前にすでに完了していたそうですね?
    テイラー そう。アルバムのレコーディングは終わっていたけれど、そのあとパンデミックが起こって世界中が混乱し始めた。で、アルバムを発売するタイミングとしても良くないということで、発売直前になってしばらく見送ることにしたんだ。でも、時間が経っても状況は変わらないし、アルバムはある特定の時期の僕らの姿を捉えたものだから、あまり先延ばしにするべきじゃないと思ったわけ。パンデミック対策の法律についての情報も行き渡ってきたし、ワクチン接種の態勢も整ってくるだろうし、何よりも2020年の悪い雰囲気を2021年にまで持ち込むべきじゃないとも思ったしね。

    ●そうですね。
    テイラー だから2021年にポジティヴなエネルギーを持ち込むためにも、アルバムを発表することに決めたんだ。

    ●確かにアルバムはポジティヴなエネルギーに満ちていますね。今回もグレッグ・カースティンを共同プロデューサーに迎えていますが、彼の存在はバンドにどんな作用をもたらしているのでしょうか?
    テイラー 僕らにとって彼は家族の一員みたいなものだけれど、彼は家族内で“いざこざ”が起きると、家父長な存在感を発揮して、みんなを説得して問題を解決してくれるんだ。物事が円滑に進むようにしてくれる。彼に再び参加してもらったということが、すべてを物語っているよね。とにかく最高に素晴らしいよ。

    ●14年にリリースした『ソニック・ハイウェイズ』は、アメリカの歴史的なスタジオを巡り、前作『コンクリート・アンド・ゴールド』ではハリウッドにある老舗のイースト・ウェスト・スタジオでレコーディングを行いましたが、今回はそれらとはある意味真逆な、一軒家を借りての作業だったそうですね。
    テイラー うん。僕らは今までにいろんなスタジオを使ってきたし、メンバーそれぞれの自宅にもスタジオがあるけれど、今回はみんなで集まって一緒に生活しながら、そのときの呼吸が感じられるようなアルバムにしようということになったんだ。もともとはデイヴ(グロール)がその家でデモを作って、そこで鳴らしたドラムのサウンドが気に入ったのがきっかけだったんだ。それで彼がみんなでその家に住み込んで作業しようと言い出したわけ。結果的に、僕らにとっては不思議な経験になった。その家に宿った霊魂みたいなものがいるような感じでね。メチャクチャ怖い思いをしたわけじゃないけれど、ある曲を演奏している間中、アンプから出ていたノイズが、あるとき突然消えたりとか、機材の中にお化けがいるんじゃないかと思うような、不思議なことがあったんだ。ただし、お化けがいたとしても、僕らに敵意はなかったようで、むしろ僕らの曲をより良いものにしてくれるような役割を果たしてくれたと思う。

    ●それは不思議な体験でしたね。デイヴが気に入ったというドラムのサウンドについては、タイトル曲のタイトな音色から「チェイシング・バーズ」のような温かみのある音色まで、多彩に仕上がっていますね。
    テイラー そもそもデイヴがその家をレコーディング場所に選んだのは、音響特性がとても柔軟で、ドラムを置く場所によってドライなサウンドから空間的なサウンドまで、いろいろなサウンドが作れたからだった。それで僕らは、曲ごとにいろいろなサウンドを設定して、バラエティに富んだサウンドのアルバムを作ることができたというわけ。例えば「シェイム・シェイム」では玄関に置いたドラムの音を3本のマイクで拾って、洞窟みたいなサウンドを作っている。僕の大好きなジョン・ボーナムは、マイク1本だけでドラムの音を拾ったりしていたけれど、僕らはそれをより現代的な形で応用したことになるね。そんなふうに、家の中でいろいろと場所を移動しながら作業したんだ。ある曲では、トイレでハットとスネアだけを使って、どうなるか試したしたこともあったよ。トイレット・ペーパーもなし(笑)。僕のドラム・テックもいろんな場所を試して、台所にセットを組んでみたけれどうまく行かないから廊下に出そうとかね。とにかく、ドラム・キットを家中移動させていたよ。ベース・ドラムを台所に置いて、スネアをコントロール・ルームに置くなんていうのも試したかったけれど、腕の長さが足りないからあきらめた(笑)。

    ●(笑)。本当にいろいろ試したんですね。今回は、タイトル曲や「ホールディング・ポイズン」などで、ドラムと打ち込みのパーカッションと組み合わせたりもしていますが、ああいったものはグレッグのアイディアなのでしょうか?
    テイラー そうだよ。ループみたいなものを使うのは初めてで、「シェイム・シェイム」でもやっているけれど、あれはグレッグのアイディアなんだ。デイヴもリズム面でちょっと違う方向性のものをやろうとしていたから、彼のコンセプトとグレッグのアイディアがぴったり合った結果だね。

    ●その「シェイム・シェイム」ですが、グレース・ノートの音がけっこう大きめに入っていますよね。あれは意識的なものですか?
    テイラー 僕は若い頃からスティーヴン・パーキンスやジミー・チェンバレン、マット・キャメロンといったグレース・ノートを多用するドラマーを聴いてきたからね。グレース・ノートはビートの進行感を維持して、ビートの存在を示唆するという二重の効果があると思っているから、あの曲でもグレース・ノートを強調したいと思ったんだ。ちなみに、指のスナップはデイヴだよ。あんなスナップができるのは彼以外にはいない。

    ●「ウェイティング・オン・ア・ウォー」では、後半で展開がガラリと変わりますが、このテンポがどんどん速くなるのがとても効果的ですね。
    テイラー まず、あの曲を作ったときに僕らが置かれていた状況やアメリカが置かれていた状況を考えてほしい。僕らはブルース・スプリングスティーンの音楽も大好きで、その頃はまだパンデミックが起こっていなかったけれど、トランプ政権下で、暴動が起きたりしてアメリカは混乱していた。僕らは冷戦の時代に生まれ育って、以来この国はずっといろいろな戦争に関わってきた。アポロ宇宙船が月に着陸する様子をNASAが公開しなかったのも、月面がどうなっているかをソ連に見せたくなかったからで、冷戦の影響はそういうところにも表れていたんだ。「ウェイティング〜」を作ったときにはまだ、パンデミックは起きていなかったけれど、トランプが何かの戦争を始めるか、あるいは社会の分断がきっかけで南北戦争みたいなものが起こるかもしれない状況で、嫌な予感がしていた。その予感がパンデミックという、誰も予想しなかった形で現実のものになったわけで、戦争にも似た混乱状態が今も続いているということだね。

    自分が聴いて育ったバンドの手法を
    フー・ファイターズに持ち込むことは
    僕らにとっても楽しみなんだ

    ●曲作りについては、例えば「メイキング・ア・ファイヤー」などはヴァースが3/4でコーラスが4/4になっていたり、「シェイム・シェイム」ではシンプルながらフックの効いたリズムになっていたりしますが、こうしたリズムのアイディアはどんなふうにして思いつくのでしょうか?
    テイラー 拍子については、僕らはいつも変拍子や途中でテンポを変えるような手法を試している。曲の進行感やワクワク感を維持するためにね。そういったやり方はラッシュやジェネシスといった、自分達が聴いて育ったバンドの影響で、彼らの手法をフー・ファイターズの世界に持ち込むのは、僕らにとってもワクワクするような楽しみなんだ。ジェーンズ・アディクションも僕の大好きなバンドの1つで、彼らの「スリー・デイズ」は大好きな曲の1つだし、スティーヴン・パーキンスはあらゆる時代を通じて大好きなドラマーの1人だよ。こうしたことはすべて、新作でドラム・キットの扱い方に影響している。ちなみに、アルバムに入っている「チェイシング・バーズ」はセカンド・テイクで、ドラムはまだ叩き方を探っているような演奏になっているけれど、採用したのはまさにそれが理由だったんだ。

    ●影響と言えばデイヴのヴォーカルも、「シェイム〜」ではキング・クリムゾン時代のエイドリアン・ブリューっぽかったり、タイトル曲はデヴィッド・ボウイっぽかったりして、面白いなと思いました。
    テイラー その2人の名前を挙げてくれてありがとう。彼らももちろん、僕らに大きな影響を与えてくれているからね。エイドリアン・ブリューは過少にしか評価されていないと思う。知る人ぞ知る存在だけれど、あまり広く知られているわけじゃないしね。でも、彼はデヴィッド・ボウイとも共演しているし、ナイン・インチ・ネイルズやトーキング・ヘッズでも演奏している。僕らも、いろいろな人達から影響を受けたことを否定するのは好きじゃないんだ。耳にする機会のあるものなら、それが何であっても影響は受けるものだからね。そういった影響を意識的に表現することもあるけれど、影響を与えてくれたミュージシャンというのは、僕らにとっては先生みたいな存在で、その影響は僕らのDNAになっている。僕らも彼らの音楽をワクワクしながら聴いていたわけで、その影響はどうしても出てしまうよね。だから、君の言うことは素晴らしい誉め言葉として受け取っているよ。

    ●人気のあるバンドというのは、1つの強力な個性があって、音楽もそれを中心に構築される場合も多いですが、フー・ファイターズの個性は、一貫した要素がある一方、曲によってカメレオンのように変幻自在なところも持ち合わせているのが面白いと思います。
    テイラー ありがとう。君がそう感じるのはたぶん、バンドの個性がどんどん成長していっているからなんじゃないかな。

    ●なるほど。あなたは個人としても、先ほども名前の出たマット・キャメロンとのナイトタイム・ブギー・アソシエーションや、コートテイル・ライダーズといったさまざまな活動をしていますが、音楽のアイディアは常に浮かんでいる状態なんでしょうか?
    テイラー 僕にとってつまらない音楽というのはないし、自宅にスタジオもあるから、フー・ファイターズに限らず、いろんな人達と一緒にレコーディングもやっているんだ。それで新鮮さも保てるしね。フー・ファイターズで活動することの素晴らしさは、僕が若い頃から憧れていた人達と共演する機会をもたらしてくれるというところにもある。最近は、デイヴ・ナヴァロとよく一緒にやっているしね。おかげで、自分のスタジオでいろいろとレコーディングすることもできるわけ。いつもうまくいくとは限らないけれど、今はコロナ検査も15分で結果が出るようになっているから、陰性であることを確認した上で、スタジオに集まっていろいろと実験しているよ。誰かと一緒じゃなくても、自分でアコースティック・ギターやドラムで演奏したアイディアをiPhoneに貯めておいて、何か曲を作る必要があれば、その中から選んでみんなでレコーディングしてみることもできるしね。ツアーやレコーディングが終わったら家に戻って、次に演奏するときまで、しばらく楽器に触らないようなバンドもたくさんいるけれど、僕はとにかく毎日演奏している。演奏するのが大好きだからね。

    ●コートテイル・ライダーズではリード・ヴォーカルも担当していますが、歌うことがドラミングに与える影響はありますか?
    テイラー さっきから繰り返しスティーヴン・パーキンスが好きと言っているけど、彼は歌に対する反応が素晴らしいんだ。歌をよく聴いていて、歌詞のアクセントや節回しに合わせるのがうまい。ドアーズのジョン・デンスモアも、ジム・モリソンの歌に寄りそうようなドラミングをしていた。彼らの演奏は、僕のドラミングの上達に役立っていて、今ではパーカッショニストの立場から、聴き手を歌詞の世界に引き込むことができるようになってきたと思うよ。

    ●では最後に、2020年に発表されたアルバムの中で、あなたが一番よく聴いた1枚を教えていただけますか?
    テイラー 正直言うと、新作はほとんど聴いていないんだ。自分の活動で手一杯だったからね。ちなみに昨夜はクイーンの『ライヴ・キラーズ』におけるロジャー・テイラーのドラミングを一晩中聴いていたよ(笑)。彼は達人だし、ブライアン・メイの演奏も素晴らしい。とにかく最高のライヴ演奏が聴けるアルバムなんだ。僕は今でも、自分に多くのことを教えてくれた先輩達を頼りにしている。ロジャー・テイラーやスティーヴン・パーキンス、スチュワート・コープランド、アレックス・ヴァン・ヘイレンといった人達をね。そんなわけで、他の人達の新作はなかなか視界に入ってこないんだよ。

    ●よくわかりました。今回もまた、面白いお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。
    テイラー どうもありがとう。状況が落ち着いて、また日本のファンと直接会えるようになるのを楽しみにしているよ。