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“ドラムの材”が丸わかり!スネア材質図鑑 -木材編- その1
- Text:Kazuaki Yokoyama、Takuya Yamamoto、Rhythm & Drums Magazine
木材によるスネア・サウンドの傾向を知る
覚えていて損はないスネア選びの第一歩!
スネア・ドラムを買ってみたいけど、メイプル、バーチ、スティール、ブラス……結局違いって何? そんな疑問に答えるべく、ドラム・マガジン2018年3月号“スネア大特集号”より、スネアの材による音の傾向をまとめた“スネア材質図鑑”のWeb版が登場! 木材編と金属編に分けて、材質による違いを紹介していきます!
※この企画はリズム&ドラム・マガジン2018年3月号の内容を一部再編集したものです。
=スネア材質図鑑 -木材編- 目次=
<その1>
1.はじめに〜スネア・サウンドを構成する要素
-スネアの音色を決める要素はシェルだけではない
-材だけでなく、シェルの構成にも注目!
-“同じ名称の材”でも地域、時期、気候、メーカーなどで違う!
2.よく聞くシェル材
-Maple -メイプル-
-Birch -バーチ-
-Mahogany -マホガニー-
-Beech -ビーチ-
-Bubinga -ブビンガ-
-Walnut -ウォルナット-
-Ash -アッシュ-
-Jarrah -ジャラ-
-Spruce -スプルース-
<その2>
3.時代を席巻した“Third Wave”材
-Oak -オーク-
-Gumwood -ガム-
-Poplar -ポプラ-
-Cherry -チェリー-
-Kapur -カプール-
4.魅惑のルックス=Exotic Wood材
5.音は価格じゃない!ハイコストパフォーマンス材
6.ルックス?サウンド?内面塗装の謎
はじめに〜スネア・サウンドを構成する要素
スネアの音色を決める要素は
シェルだけではない
まず、今回の主役となるシェル材についての解説をする前に、音色を特徴づける要素は“ 楽器を構成するすべてに存在している” ということを念頭に置いて読み進めていただきたいと思っています。叩き手やチューニングはもちろんのこと、ヘッド、スナッピー、フープ、ラグ、ボルト、ワッシャー、スティックなど、さまざまな要素の組み合わせで音色が決まります。
ドラムで主に発音しているのはヘッドであり、シェルや各パーツから大きな音は出ていません。さらに、サウンドを決定づけるのは、叩き手の技量や、その目的が最も重要な要素と言っても過言ではありません。
しかし、ドラムには、そのヘッドを演奏者が安定して鳴らし続けるためにさまざまな工夫が施されており、これらの要素がサウンドに影響することは事実です。例えばヘッドは、ドラムの中で発音しているそのものであり、ギターの弦や、人間の声帯に相当します。フィルムの材質、厚み、硬さはもちろん、固定するフレッシュ・フープの構造や、その重量でさえ、音に反映されます。スネア・ドラムの中で容易に交換できるパーツとしては、ヘッド、フープ、スナッピー、テンション・ボルトのワッシャーなどが挙げられますが、その対極となるラグは、その質量や形状、取りつけ位置がサウンドにおよぼす影響が非常に大きくなっています。振動をコントロールして響き方を調整したり、シェルを硬くしたりもします。
今回はそれらの要素の中で、シェルと材について、少し掘り下げてみたいと思いますので、どうかおつき合い願います。
材だけでなく、シェルの構成にも注目!
さて、“ シェルと材 ” と申し上げましたが、シェルが何を素材として、どのように作られているかは非常に重要なポイントとなります。各社で工夫を凝らしたシェルが製造されていますが、例えばメイプル6プライといった場合、薄くスライスされたメイプル材を6枚張り合わせて成型されたことがわかります。
ウッド・シェルの場合、このプライ・シェルが最も普及している成型法ですが、貼り合わせる際の木目の方向によってもサウンドが変化するので、音の立ち上がりのスピードや、倍音の成分が、シェル材由来なのか、構造由来なのかは、注目すべき点の 1 つです。
その他にも、1枚の木材を曲げて形作られるソリッド・シェル(単板/1プライ・シェル)や、大きな丸太から削り出されるくり抜きシェル、樽のように木材を合わせて作られるステイヴ・シェル、積み上げるように接着されるブロック・シェルなど、材の特性を生かしたり、欠点を補ったりするためにさまざまな製法が存在します。
そして、形作られたシェルと切っても切り離せない関係にある、エッジの影響も見逃せません。頂点の丸みや、切り出された角度。レインフォースメントと呼ばれる補強枠の有無。メタル・シェルの場合はどのように折り曲げてあるのか。また、口径についても、標準的なものは14″ が多く流通していますが、ヘッドの枠に対してオーバー・サイズ気味のものが少なくないヴィンテージ楽器や、逆に非常に小さく作られているメーカーも存在しており、このヘッドとシェルとの関係によって、サウンドの方向性が決まってくるケースもあります。
“同じ名称の材”でも
地域、時期、気候、メーカーなどで違う!
同じ名称の材でも、違いは存在します。木材に関しては、仮に同じ種であったとしても、採れる地域や時期、その後のシーズニングなど、さまざまな要素が特性に影響するため、おおよその傾向が存在するだけと言って良いでしょう。
特定の材を指して、ビーチやバーチ、マホガニーなどの樹種のように呼ばれている場合でも、ブナ/ヨーロピアン・ビーチ/アメリカン・ビーチをすべてビーチ、カバ/イエロー・バーチもいずれもバーチ、といった具合いで一括りにされがちであったり、ホンジュラス・マホガニーとアフリカン・マホガニーのように区別の仕方や範囲が異なるケースもあります。生き物である以上、樹種によっては交雑の可能性すらあり、前述の通り傾向を示す指標としての名称の場合もあるので、材の名称をもってその良し悪しを判断することはナンセンスです。
金属材についても同様です。合金の場合は、混ぜ合わせる比率や、その混ざり具合いによって違いが生まれますし、同一の配合割合でも、製造方法やその過程によって、剛性が異なる場合もあります。
また、適切とされる温度管理による規定範囲内で生じるわずかな結晶構造の差は、木材の個性に通じるものがあります。公表されることのない範囲で、仕入先が変わることもあるでしょう。不純物とされるものがそのサウンドの秘訣と目されることもあるように、金属も木材同様、個体ごとの差が存在します。これらは決してネガティヴなことではなく、楽器ならではの醍醐味と言えるでしょう。
Next▶︎まずはウッド・シェルの材質について見ていこう!