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ロイ・ヘインズ -大坂昌彦が語るLegend Jazz Drummer –
- Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
ロイは自分の節回しだけでやってしまう
何かに捉われていない自由な雰囲気に溢れている
ロイのプレイで興味深いなと思ったのは、彼は若い頃とても貧しくて、シンバルとスネアとハイハットしかなく、バス・ドラムやタムは持っていなかったそうなんです。ジミー・コブなんかもそうだったみたいですね。それでロイは、子供の頃からシンバル、スネア、ハイハットだけで仕事をやっていたらしく、「だから俺はユニークになったんだ」と言ってました。確かにロイのリーダー作『ウィー・スリー』や『アウト・オブ・ジ・アフタヌーン』などは、よく聴くとスネアとハイハットのコンビネーション・フレーズがものすごく多いんですよね。僕もよく生徒に教えるフェザリングなんかはやらない。マックス・ローチはその逆で、教則本のように叩くけど、ロイ・ヘインズにはそういう感覚がないみたいで、だからこそ彼の演奏は何かに捉われていないし、自由な雰囲気に溢れているんですよね。そういうことが昔から現在に至るまでの長い間、人気ドラマーでいられる一番の理由なのかもしれないですよね。
あと彼は「今時の若いヤツらは……」みたいな発言が全然なかったのも覚えていて、若手のミュージシャンに対して、「今の若いプレイヤーは本当に良い」と、すごく褒めていました。ロイ以外でも僕がこれまでに共演したレジェンド達は、若いミュージシャンをすごく褒めるんです。もちろん若いプレイヤー達が、彼らをリスペクトして止まない気持ちが伝わるからというのもあるとは思いますけど、フィル・ウッズも「今一番良いと思うミュージシャン、リズム・セクションは?」という僕の質問に対して、「ピーター・ワシントンとケニー・ワシントン」だと言っていました。
先ほどの話にも出ましたが、僕はロイのリーダー作も好きで、『アウト・オブ〜』もそうだし、『ウィー・スリー』はみんながあっと驚いた作品だと思います。あとは『テ・ヴ!』。このアルバムはドレフェスレーベルというフランスのレーベルからリリースされた作品で、パット・メセニーとクリスチャン・マクブライド、デヴィッド・キコスキー、ドナルド・ハリソンというメンバーで、94年の作品なんですけど、それはもう素晴らしい演奏で、このプレイを手本にしている人はたくさんいると思います。アルバムにはパット・メセニーの「ジェームズ」という曲が収録されているのですが、実際のライヴを観ると、もうロイ・ヘインズにしか叩けないプレイなんですよ。あまりにも彼らしいというか、パット・メセニーの歴代のドラマーを挙げると、ダニー・ゴットリーブやポール・ワーティコ、今だったらアントニオ・サンチェスがいますけど、この作品でのロイ・ヘインズのプレイは、その彼らとはまったく違うんです。とにかく“節”が炸裂し過ぎてすごいですね。あまりにもロイ・ヘインズ過ぎて笑っちゃうくらいにすごいんです(笑)。彼の喋り方そのままだし、本当に人間味溢れているんですよ。それに94年ということは、もう70歳近いわけで……本当にすごいですよね。例えばマックス・ローチはクリアでコンセプトが明確だけど、逆にロイ・ヘインズは自分の節回しだけでやってしまう魅力がありますよね。
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